第12話 勇者、秘策を披露する【2/3】または「タマリスクの矢」

 ついに枢密院居住区に突入した老勇者ファラーマルズ。


 敗走したあのとき……首を切り落とされて完膚なきまでに敗北した、あのときの恥辱をそそぐときがきた。


 あのときと違うのは、連れている者たちはみな、自分が生み出した精鋭たち『蛇人』と『竜牙兵』であるということ。

 両肩の蛇を思う存分使えるということ。

 そして何より、竜の血を浴びて強固な皮膚を得た怪物、ヴァルドリエルに対抗する秘策があるということだ。


 枢密院襲撃の報は、すでに各所に伝わっている。

 元老院は枢密院を嫌っているため、おそらく朝が来るまで兵を出さぬだろう。


 本来、真っ先に飛んでくるはずの貴族院には、すでに手は打ってある。

 貴族院の実力者を篭絡したのだ!


 枢密院の兵力は、来るべき陰謀実行に備えてまだ準備段階だ。

 すなわち、すぐに動けぬ。

 枢密院が陰謀に加担したことが仇となった格好だ。


 この騒動を聞きつければ、「後で合流する」ことになっている外交使節の面々も駆けつけるだろう。

 特に『竜の勇者』たるノーマには、秘策で使う『霊鳥の羽根』を依頼している。

 是が非でも来てもらわねばならぬ。



「貴様ぁああ、よくもぉおおお!!」


 鬼の形相で、ハイエルフのボス格にして枢密院代表、そしてこの国に巣食う邪悪であるヴァルドリエルが登場した!


 その両手には、おそろしいのこぎりが二本、握られている!

 ヴァルドリエルこそが初代竜殺しの英雄ドラゴンスレイヤーヴァルドフリートその人であり、『ヴァルドリエル』という名は6000年もの永きに渡り生き続ける異様な長寿をごまかすための欺瞞工作だ!


「私の可愛い『スクリームビルド』と『グリューンビルド』をぉ、味わいたいようだなぁぁあん」

「絞り出せぇええ!! 苦痛と血をぉおおお!!!」


 恐ろしい!

 6000年もの偏執を溜め込んだ怪老が激怒している様は、はっきり言って恐ろしい!!!

 竜を何度もたおしてきた『スクリームビルド』と『グリューンビルド』も、すさまじい竜殺しの武器ドラゴンスレイヤーと化している。

 どっちが『スクリームビルド』でどっちが『グリューンビルド』か、まったく見分けがつかないが、とにかく恐ろしい!


 しかしそんな恐ろしい魔人たるヴァルドリエルに、ファラーマルズに率いられた蛇人と竜牙兵は容赦なく襲い掛かる。

 心がないのか、それとも恐怖を感じないのか。


 彼らはみな、宝物級の魔聖武器で武装している!

 以前ヴァルドリエルが屠った地竜騎兵隊とは比較にならぬ手練れ!


 しかし。


 攻撃が、まったく効かぬ。


 竜の血を何度も何度も浴び、『竜の角と同等の堅さの皮膚』を手に入れたヴァルドリエルに、傷一つつけられぬ。


 遠距離から、ファラーマルズも毒魔術や炎魔術で援護するが、焼け石に水だ。

 毒など竜には効かぬ。

 ましてや炎など、吐息にも等しいだろう。


 地竜騎兵隊よりは持ちこたえているが、魔聖武器で武装した蛇人や竜牙兵であっても、二合か三合の打ち合いに耐えられれば良いほうだ。

 こうなることを見越して、あらかじめアラブ馬たちは再び亜空間へ収納している。

 可愛い馬たちに犠牲は出ていない。

 良かった!


 だが、このままではジリ貧だ。

 ヴァルドリエルは疲労する様子は見せるものの、休んでいる間でさえも一切の攻撃が効かぬ。

 普通に休んで、普通に体力を取り戻して、また普通に蛇人と竜牙兵を倒している。


 そのとき。


 甲高く、ともすれば可憐な少女のものとも感じられる声色で、気合の入った掛け声が響く。


「おらどっせい!!!!」


 ヴァルドリエルの手の者である“影”の残党たちをボロ雑巾のように蹴散らす者があった。

 ひどい掛け声とともに。

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