第7話 聖槍量産計画【1/2】または「魚も鳥も、もはや彼の姿を見ない」

「インノケンティウス殿か」

「彼は、罪を償いながら療養しておる」


 槍の穂先を次元魔法で収納しながら、勇者ファラーマルズは答えた。


 この槍は、インノケンティウスから奪った物だ。

 大いなる聖遺物、『ロンギヌスの槍』。


 我々が知る世界では、インノケンティウス8世が、アラブ世界との取引のために売り渡した、とされている。

 だが、そんな物をみすみす渡すだろうか。

 実際には、別の聖遺物を作り出し、それを渡していた。


「余は、第五代イラン王じゃがな」

「出身は、アラブなのだ」

「この槍が余の手元にあるということは。ようやく、正しい状態に戻った、というわけだ」


 聞こえるか聞こえないかの声で、勇者は呟いた。



「しっかし、勇者様。私は驚きましたぞ」

 大司祭は、次期教皇の候補として、さまざまな事務・雑務・勉強をこなしている。


「私に教皇など、無理です!」

「しかも、こんな手段で候補に挙がるなど。女神様から神罰が下りましょうぞ」

 いろいろなことに辟易しながら、大司祭は書類上でペンを動かし続けている。

 もしかしたら、彼のことを「大司祭」と呼ぶ機会も、いずれなくなってしまうかもしれない。


「ふうむ。相変わらず女神様女神様、か」

「あんな矮小な存在のなにがいいのか。拙い魔法にお粗末な世界認識」

「世界を創ることはできても、そのほかがダメダメのダメ女神、駄女神じゃというのに」

 勇者はぼんやりと会話するでもなく、大司祭の執務室でくつろいでいる。


「またですか勇者様。私は女神様を奉ずる聖光教会の一員ですぞ」

「その私の前で女神様を侮辱するのはお止めください!」

 ついつい、語気が荒くなってしまう。


 その瞬間、勇者は勢いよく立ち上がった。


「ひぃっ、ごめんなさい、食べないで!」

 大司祭は驚き焦る。


 しかし勇者は、その様子を一切気に留めていない。

「ん? むう、何か言ったか?」

「まぁ良い。余は少し出てくる。インノケンティウス殿の“反省”の様子を見てくるとしよう」


 大司祭は胸をなでおろしつつ、また雑務を続けた。

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