第6話 勇者、宗教勢力に干渉する【3/3】または「王国を蝕む蛇の毒」
ついに襲撃事件の“真相”が“判明”した。
何度かの問答が行われ、インノケンティウス8世は謁見の間から移送されていく。
彼の目に生気は残っており、毒の言葉で思考を侵されたわけではないことが分かる。
生気は残っているものの、それは再起を否定した諦めの目だった。
実は彼はまだ、この状況すらも自分を襲う恐ろしい運命の、ほんの入り口に過ぎないことをまだ知らないのだが。
「悪は裁かれなければなりませぬからなぁ」
自信をその身にまとい、勇者は宣言した。
「それにしても……対立教皇とやらを名乗るあのような輩の台頭を許すとは」
「教皇殿、少々お疲れなのではありませんかな?」
「ゆっくりと、お休みされたほうがよかろう」
思わぬ提案に、教皇は顔を強張らせる。
しかし、どうやら抗っても無理なようだと、悟った。
「そうです、お休みください教皇様」
「そうです、お休みください教皇様」
「そうです、お休みください教皇様」
周囲から、不気味な大合唱が教皇を襲ったからだ。
やられた。
すでにここまで根回ししていたのだ。
教会権力を自分のものにするために。
この場には、毒の言葉で支配されない、強い心をもつ者も多かった。
だからといってその者が、後ろ暗い陰謀に手を貸さない、とは限らない。
むしろ、陰謀や権謀術数によってのし上がるような気概がある者こそが、毒の言葉をはねのける精神力を有している、とも言い換えられるのかもしれなかった。
考えなしの正義を受け入れる者よりも、熟考した悪を為す者のほうがはるかに心が強いのだとしたら、それはつまらない皮肉だった。
勇者が行ったロビイングは、確実に成果を結んでいる。
教皇はこのあと、無期限の休養を発表したあとで、適度な領地と資産をもらい受け、隠居することになるだろう。
後継者を指名しながら。
命を奪うことも辞さない、という暴力をチラつかせながらも、実際には
では、後継者は誰になるのか?
勇者は、高らかに宣言した。
「余は、次期教皇には、王都襲撃事件を解決した立役者を推薦したい」
「すなわちここにいる、大司祭じゃ!」
その瞬間、万雷の喝采が沸き起こる。
なかには、毒の言葉に侵された、無力な賞賛の繰り返しも入り混じっている。
「????????」
ただ一人、大司祭だけが置いていかれた様子だった。
そんな彼に、勇者は耳打ちする。
「“このときのために目をかけておいてやった”と、申した通りだ」
「前にも言ったであろう、派閥の吸収には何も問題ないと」
「そなたはこれから、余の権勢の後ろ盾になるのだ。そなたの権勢は、余が保障してやろうぞ」
勇者のその言葉は、精神を支配する毒の言葉などよりも、はるかに大司祭の心の奥を害した。
ぜんっぜん、終わっていないし、解放されていない!!!
女神様、苦しまない処刑なんぞを望んで申し訳ありません!
いっそ苦しくてもかまいませんから、もう終わりにしてくださいませんか???
極限を超える「めんどくさい」という感情が、大司祭を襲った。
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