もしも『竜の勇者』を召喚したと思ったら『竜の魔王』だったら。~悪竜王が異世界で好き放題する話~【竜の勇者の転移譚】
第6話 勇者、宗教勢力に干渉する【2/3】または「その者は、太陽と同じ高さまで頭を上げた」
第6話 勇者、宗教勢力に干渉する【2/3】または「その者は、太陽と同じ高さまで頭を上げた」
社会活動において“根回し”ほど重要かつ、恐ろしいものはない。
要するに、ロビイングだ。
実際に起こったことは、こうだ。
まず、大司祭の派閥とインノケンティウスの派閥が勇者の手によって合併し、
その後、大司祭が関与した召喚勇者たちが反乱を起こし、王都を襲撃した。
事件は鎮圧されたが、大司祭の派閥の影響力は削がれ、
王都襲撃事件の原因である「制御不能の勇者を世に放ったこと」の責任を、誰かが取らねばならない。
……おそらくその責任者は、大司祭だ。
だが、インノケンティウスの大聖堂へ勇者ファラーマルズが赴いたとき、まったく考えなしだったわけではない。
しっかりと「政治的闘争」をするために訪れていたのだということを、忘れてはならない。
勇者ファラーマルズの本性である「ザッハーク」について、一つ余談を話しておこう。
彼の別名は「ペイヴァルアスプ」。
中世ペルシャ語であるパフラビー語で「1万」を意味する。
これは彼が、黄金の馬具を着けた1万頭ものアラブ馬を所持していたことに由来している。
そしてこの世界へ転移してくるとき、そのすべてを次元魔法で収納して持ってきていた。
彼は、配ったのだ。
この馬を。
あるいは、黄金の馬具や、黄金を鋳溶かして作った品物を。
馬は資産の象徴で、同時に武力の象徴でもある。
我々の世界において、特にアラブ馬は優れているといわれている。
しかも、この世界には存在しない品種だった。
あまりにも上等な見たこともない馬と、それを覆うきらめく馬具。
それらを送られた上級貴族たちは、どう動いただろうか。
勇者ファラーマルズのロビイングに同調した。
勇者は、綿密に根回しをしていたのだ。
王都襲撃事件で実際に起こったのは、おそらく以下の通りだ。
まず、インノケンティウスの暗躍によって一部の『竜の勇者』が反乱を起こした。
同時に、他国の侵略部隊も招き入れられた。
それらの侵略は、反乱に加担していない『竜の勇者』を含む大司祭の手の者と、国王の息がかかった
インノケンティウスの派閥残党は大司祭の派閥に組み込まれ、
王都襲撃事件の黒幕である「勇者を
……そしてその罪は、インノケンティウス8世にある。
そういうことに、“なった”のだ。
事実として、ユウマを撤退させるためにインノケンティウス8世の勢力が手を貸していた。
念話で退路を示すために、水晶のような見た目の魔法道具でユウマと念話していた。
証拠も上がっている。
この念話魔道具に会話の残滓が残っているかどうかは、どうでもいい。
神の前で「この念話魔道具がユウマとの通信に使われたこと」が誓われ、正しいと証明されることが大事なのだ。
王の前で、大臣や司法に関わる貴族たちがやり取りを行っている。
襲撃事件の“真相”が“判明”していく。
何人かの貴族と、そして王の目からは、生気のようなものが失われているように見えなくもない。
ここで、勇者ファラーマルズの本性である「ザッハーク」について、追加の余談を伝えておこう。
彼がまだ、人の姿をした王だった頃。
当時は古代で、まだ人々は塩味で焼いた野菜などしか食べていなかった。
そこに優れた料理人が現われ、贅を尽くした料理を披露したのだ。
ザッハークは大いに喜び、料理人を賞賛した。
料理人は、数々の褒美を受け取る代わりに、「王の両肩に口づけをしたい」と申し出た。
世の中の娯楽はすべて、悪魔が教えたものだ、という言葉もあるほどだ。
この料理人は、悪魔王イブリースが化けたものだった。
料理人の姿をした悪魔王は、ザッハークの両肩にその顔を押し付け、口づけした。
すると、押し付けられた両目、鼻、口の痕が残り、それらが盛り上がると……蛇が、生えたのだ。
こうして、人の姿をしていたザッハークは、我々が知る、両肩から蛇を生やした蛇王になった。
ザッハークの両肩の蛇は、悪魔王イブリースの顔から変じたものである。
すなわちザッハークの蛇は、悪魔王の智慧を授かっているのだ。
悪魔王イブリースとは、別名を「シャイターン」という。
キリスト教世界では、「サタン」としても知られている悪魔王と同一だ。
エデンの園でイブを
あの蛇と同一視されるのが、悪魔王サタンである。
勇者の言うがままに操られる貴族たちと国王の目は、イブと同じだった。
食べるつもりがなかった知恵の実を食べてしまった、イブと同じ目だ。
悪魔王たる“蛇”の『毒の言葉』で思考を侵された者に特有の、生気のない目だ。
贈り物によって近づき、心を開かせ、毒の言葉で支配する。
おそらく、不誠実な贈り物を受け取らせる、という行為も、毒の言葉による支配には不可欠なのかもしれない。
「そうだそうだ、許されないぞ、インノケンティウス」
「そうだそうだ、許されないぞ、インノケンティウス」
「そうだそうだ、許されないぞ、インノケンティウス」
貴族たちが、口々に、まるで言葉を覚えたてのオウムが同じ言葉を繰り返すかのように、非難の声を上げる。
すでにザッハークは、恐るべき奸計によって、この王国へ巻き付いていた。
とぐろを巻く蛇が、獲物を締め付けるかのように。
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