第2話 竜の勇者、最初の任務【3/6】または「竜の勇者の仲間たち」
大司祭の執務室の物々しい扉が、ゆっくりと音を立てて開く。
大司祭が召集した、手勢の者たちが集まってきたのだ。
大司祭がかつて召喚し、隷属魔法で従えている『竜の勇者』たちなのだとか。
あの程度の支配魔法に自由を奪われるなど、たかが知れている。
勇者は、素直にそう感じた。
「来たよ~」
妙に緊張感に欠けている、若い男。
それほど身長は高くなく、身体能力もそれほどではなさそうに見える。
彼は、上下ともに黒染めの奇妙な衣服を
我々21世紀の日本人の知識をもってすれば、彼が着ているのは学生服だと分かるだろう。
顔立ちもアジア人らしく、これから自己紹介によって名前も明らかになるのだが、彼はまぎれもない、21世紀の日本人だ。
「参上しました」
鎧に身を包んだ、同じく若い男。
頑強な肉体をしており、大司祭の周囲を守るエリート兵士と同じか、それ以上の筋肉量がある。
身に着けているのは重鈍な甲冑ではなく、革がふんだんに使われた軽鎧で、下は短パンだ。
事情に詳しいならば、これは古代ギリシャ風の戦闘装束であり、彼は
そして、勇者は古代ギリシャに関する知識ももっていたため、唯一彼に関しては、出自について推察できた。
勇者の故国イラン(かつてのペルシャ)と関係が深い時代のギリシャ風戦闘装束だったからだ。
「……どうも」
無口な若い女。
最初に見えた、緊張感のない男と似たような背格好だ。
この世界においては、女性としてはやや高めの身長かもしれない。
肉体は平均的だが、自信なさげに猫背になっているためか、実際よりも小さく感じられる。
上下がつながった、簡素な衣服を着ている。
我々の目からしてもよくあるワンピースを着ているようにも見えなくもないが、出自を表すほど決定的な証拠にはなりえない。
緊張感のない男の名は、ユウマ・アツドウ。
頑強な男の名は、ウダイオス。
猫背の女性の名は、ノーマ。
3人からは、それぞれ竜に属する魔力が感じられた。女神によって付与されたであろう、不自然な魔力が。
そして3人はみな一様に、首の裏に隷属魔法の魔力的な刻印が施されていた。
ある程度は強制的に命令に従わせつつ、強引に命令違反を犯した場合、すぐさま首を焼き切るのだろう。
この程度の
それぞれ自分が授かった『竜の力』を説明している。
いざ戦闘になればある程度は成果を残すだろうが、いなくても変わらないだろう。
曰く、竜眼と竜声をもち、戦場を俯瞰し、味方に念話できる。
曰く、古き竜の牙を
曰く、竜の
いずれも勇者がもつ能力を超えてはいない。
俯瞰視や念話の魔法は使える。だが、それほど必要性を感じない。そもそも翼を生やして飛行すれば、戦場は簡単に俯瞰できる。
肩から生える蛇を切り落とすと、新たな蛇の頭が生えてくる。それを応用し、斬った頭の側に胴体を生やすことで、蛇人のような兵士を生み出すことができる。
勇者は騎馬術と槍術に通じた武人であり、極めて精緻な魔法を扱える。竜の膂力と竜火よりも苛烈に戦える。竜そのものに変化することも可能だ。
3人すべてを合わせたとして、勇者が本気を出すまでもなく、通常時の1/10の実力にも満たない戦力であろう。
大司祭の、ほかの竜の勇者がファルを刺激してしまうのではないか、という懸念は杞憂に終わった。
ほかの竜の勇者たちの力と存在は、勇者ファルにとっては無視すべき程度の些末事だったためだ。
勇者は適当に聞き流しつつ、いずれ訪れる敵との対決に備えた。
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