三章・舌の味①
花火で盛り上がったのはごく序盤だけで、部員たちは、あとは酒を飲み、柵の上を歩いたり、ルールが一切不明なツイスターゲーム風の遊びをしたり。些細な乱痴気騒ぎだ。
僕も当然飲んだ。人見知りの緊張も相まって、異様に酒が進んだ。渕上と並んで柵の上に立ち、川に向かって小便をする。いちいちコンビニなんか行ってられるか、僕はトイレに並ぶのなんか一生御免だ。
「青加さん、ルダと何話したんですかぁ?」
渕上が、行き先の定まらない小便を、さらに左右に振りながら尋ねた。
「おい、落ちるなよ」
「おちませんてぇ」
渕上はそう言いながら、バランスを崩し、どぶ川へと落ちていった。
川は浅く、渕上はすぐに顔を出した。部員たちはげらげらと笑っていたが、同時に渕上の落下が、集まりの終わりの合図となったようだった。
河川敷に残された部員は醒めた様子で手早く花火を回収し、皆、欠伸を始めた。
「ブチさん、また落ちてるよ」という呟きも聞こえた。
渕上は小便をし、川に落ちる常習犯になっているのかもしれない。
「駅帰るやつは川落ちんなよぉ! 終電ないやつと遊び足りないやつはうち集合なぁ」
部長らしき男子部員が言うと、男子の大半は彼に、女子部員は駅の方へと歩いていく。(折り鶴踏み潰し女だけは、男子の方へ)いつもの解散の風景なのだろう。
僕が大学にいたときも大抵たまり場になっている家が一つはあって、終電逃したやつがすし詰め状態で押し込まれていたもんだ。
川からはいずり上がってげらげらと笑う渕上を置き、めいめいが河川敷を離れていく。
「おい、え」
残されたのは、僕とルダだった。渕上を押し付けられたんだ。
あれに似てる、小学生のドッジボールの、「最後にボールぶつけられたやつが片づけな!」という、あれ。
最後に渕上と喋っていた僕が、片づけ当番ということか。
「月が綺麗ですねぇ、青加さん!」
渕上が叫ぶ。世界一スカスカの絡み。
あ、やべえどうしようこいつ、本気でウザいパターン。
「綺麗な満月ですよ、ですYO!」
月を見上げる。
いや、満月じゃないじゃん。一割欠けた、歪な月。
でも、なんだかすごく羨ましい。これが満月であろうとなかろうとどうでもよくて、むしろ「あぁ、正確にいうと満月ではないな」と思うよりもよほど健やかな気持ちになれる。
「俺、星とか見るの好きなんすよねぇ」
羨ましい。
万が一相手がアマチュアレベルであろうと天文好きだとしたら、大きな恥をかくところだ。僕ならまずそれを危惧する。
「ルダぁ、ちゃんと青加さんに送ってもらえよぉ!」
いや、ウザくなかった、ナイスアシスト。
僕は顔色を窺うように、ルダに視線をやった。
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