二章・僕の格好悪さのすべて⑦

 今となっては、どうしてこんなことに、と後悔している。後悔の上塗りだが、『舌味のキャラメル』で落選後も、一度だけ脚本家になれるチャンスがあった。

 テレビ局のプロデューサーから連絡が来て、「脚本家志望の若者を集め、勉強会を開きたい」とのことだった。僕の脚本を気に入ってくれていた審査員でもあった。

 ま、落とされて腹立ってたし、断ってやったけど。いいと思ったなら受賞させろよ、と。(……愚かすぎて、本当に自分なのかさえ分からなくなってきた)

 当時、何より気に食わなかったのは、審査したテレビ局のスタッフが僕の書いた「物語」についてあれこれと文句をつけていたことだ。僕はもちろん、そのモノローグが「ララング」であることを説明した。物語の製造ロボットが欲しいなら、他をあたって欲しい、と。

 もちろん相手にされず、二度と呼ばれなくなった。

 僕は馬鹿だ。

 黙って参加しておけば、テレビ局のスタッフと関係を築けたかもしれない。そこで学ぶ人たちと繋がれば、ツテができたかもしれない。

 「物語に甘えて溺れた拝金主義者ども」という高慢さ、「泥臭くやらなくても、賞くらい簡単に取れるだろう」という見通しの甘さ、「頭を下げるなんて」という下らない見栄。

 権力者の言いなりになってるやつらへの見下し。(そして、今でも反省しきれたわけでもないのだ) 

 ルダに対しても、脚本家だと偽っているのは心苦しい。彼女のことが好きになればなるほど、辛くなるに違いない。

 ――でも、そんな嘘をつき通してでも、ルダと近づきたい。

 僕はまた、戻れなくなる。もっと。

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