二章・僕の格好悪さのすべて③

「嘘はよくないっすよ」

 渕上の一言にドキッとする。

 嘘。

 嘘をついているということは、どうしてこうも後ろめたいのだろう?

 誰か損をしているか?

 してない。嘘を吐くことで、僕は自分の首を絞めている。保身のために僕は嘘を吐いているはずなのに、何かずれていているのかもしれない。

 むしろ、僕を危機へと追い込んでいく。自ら進んで死へと向かっているように。

 死への欲動?

 いや、死への欲動(笑)だ。大層なことを考えるよりも、目の前のことをどうにかしないと。

「青加さん、ルダのこと気に入ったんでしょ? いいですって、カッコつけなくて」

 あ、そっちか。

 ……だよな、脚本家のことが脈絡なくばれるとは思えない。

 ルダがトイレに向かうと(近くのコンビニへと向かった)、さっきまで部員たちと盛り上がっていた渕上がすすす、と僕の元へとやってきたのだ。

「もしかして、僕にルダを紹介するつもりで誘ったのか?」

「だって青加さん、いまだに姉貴のこと引きずってるのかなと。今日、まさかいると思ってました?」

 僕は澄郷にいた高校時代、渕上の姉・杏里あんりと付き合っていた。交際は僕が上京し、大学を卒業するまで「は」続いていた。

 杏里がいると思った?

 んなわけ。

 未練があってここに来たわけじゃない。はず。

 単に時間を持て余していたのだ。

 僕は明日の早朝、実家の澄郷への特急列車に乗る。一度寝てしまうと寝過ごしてしまいそうだったから、徹夜をして列車を待つ気でいた。

 花火大会に誘われたのは好都合だったんだ。終わったら、オールナイトで上映している映画館に籠るつもりだった。

 それだけ。

 それだけ、だよな?

 格好悪くて、杏里がくるのか確認できなかったのは事実だけど。

「もう好きも嫌いもない。あいつ、結婚したんだからさ」

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