二章・僕の格好悪さのすべて①


 昨日、僕は最後の頼みの綱だと信じていたコンクールに落選した。受賞すれば、落ちこぼれのフリーターから起死回生……と願っては、淡い期待に裏切られる毎日が続いていた。

 落選したその日、夢を追うリミットだと決めていた三〇歳を迎えた。

 いつまでこんな生活を続けているんだろう?

 レンタルビデオ屋で、夜七時から朝四時までバイト。一眠りして脚本を書き、また眠り、夕方六時の目覚ましで起き、またバイトに向かう。

 バイト先の連中とは雑談の一つしない。まず、学生のバイトがほとんどで、そもそも話すきっかけがない。同年代のバイト仲間なんかとうにやめている。仕事だけは簡単な内容しかなく、むしろこっちは慣れているから質問をするタイミングもなし。

 硬派で無駄話をしない古株、という意味不明なキャラクターにされ(本当は単純に「陰気でつまらない」だろうけど)、ますます話すタイミングを失っていた。「脚本家をしている」という嘘をつき始めてから、人と話すことさえ億劫になってしまっていた。綻びが生まれるのが怖いのだ。バイト先でもそういう「設定」でいる。

 設定。自分を映画やマンガのキャラみたいに思うと、時に気持ちがすっと楽になる。自分が遠くなる。でも、酒を飲んだときの皮膚が鈍く厚くなるような、一時的な感覚にすぎない。

 醒めるとむしろずっと虚しくて、もろくて、僕はみじめな人間なんだと気付く。

 自分が話す全てが自ら薄っぺらに感じてしまい、好かれたいとも思っていないバイトの同僚にも嘘を吐いているのだから、もはや自分自身が何なのかわからなくなっていた。

 根っからの虚栄心の奴隷。

 まったく、親父にそっくりだ。ダブる。

 盛り返す兆しもない澄郷の在りし日を夢見て縋りつき、現実をまるで見ていない。

 僕も一緒だ。

 大学生のころ、映画研究会の仲間と作った『舌味のキャラメル』で映画のコンクールにエントリーした。大学の映研の映画を対象としたテレビ局主催の大会で、受賞作は深夜の衛星放送でオンエアされるのが売りだった。僕らが作った作品は、最終候補に残った。結局は落選したが、僕の脚本を主に評価されて残っていたそうだ。間違いなく、惜しいところまではいっていた。

 ……ということだけが自慢。(泣けてくるのを通り越して笑えてきた)

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