第6話 沙希はレイプ寸前でホスト悠太に助けられた
「おはよう。聖香ちゃん、俺、漢字検定二級合格したんだ。だから国語の単位を二単位免除されるんだよ。今度は英検二級目指してるんだ。そしたら英語の単位は二単位以上免除されるかもしれない」
悠太の元気のいい挨拶が、聖香の気分を和ませる。
「おはよう。悠太君、ねっちょっと聞きたいことがあるけど、いいかな。
内緒の話だけどね」
聖香は、沙希が発言した一部始終の話をためらいながら話した。
あまり、饒舌に話せるような話題ではなく、暗い深刻になりがちだから、余計に笑顔を装って話した。
悠太は口を開いた。
「今の話は事実だ。あれはちょうど一か月前のことだった。
俺の通学途中、中学生らしい女の子が黒いポリ袋をかぶせられているのを見て、やばいと思ったんだ。見上げると、俺のクラブの顔なじみ。
あいつら、俺の女性客にちょっかいかけてるんだ。商売がたきのクラブの回し者かもしれないな」
聖香は、ゾ~ッとしたような顔を見て、更に悠太は話を続けた。
「あのまま、女の子が車に乗せられてるとやばいよ。たぶんマンションの一室で連れていかれてレイプされ、風俗行きだったりしてな」
えっ、どういうこと?
「今は店舗を構えないデリヘルが多いだろう。要するにデリヘルに売るつもりに違いない」
全く女って、ほんの紙一重の差でとんでもない運命になっちゃう。
運命とは運ぶ命と書く。たとえば五本指のうち、三本が欠落してもあとの二本指をどう生かすかは自分次第である。
神の方向に有意義に生かすか。それとも悪魔のささやきに負けて、犯罪に生かすかは自分の意志決定次第。
神は人間に自由意志を与えた。しかし、悪事を働くとそこに良心の呵責に際悩まされ、後悔が生まれる。
そんな人間の罪の身代わりとして、イエスキリストは罪のあがないとして、十字架にかかって下さった。いやそればかりか、三日目に蘇られた。
あとは、イエスキリストを信じるだけで救われる。
お布施も辛い肉体修業もいらない。ただ、主イエスを信じて従っていくだけでいい。こんなうまい話はほかにないが、幸か不幸か日本人はgive&giveではなく、give&take、もらったものに対して、お返しをしなければ気がすまないといった律儀な性格である。
だから、信じるだけで救われるというのは、日本人の気質にあっていないかもしれない。
レイプも自己責任という場合も少なからず存在する。
ミニスカートにタンクトップの薄着を身にまとい、泥酔状態の千鳥足で人気のない夜道を歩いてる人が100%レイプされるという確証はない。
また、二人きりでなく、友人たちもいると信用して行った部屋で、レイプされたケースもある。
母親や姉さんの恋人にレイプされた。
新婚旅行先のホテルの一室でレイプされた。
深夜一人のカウンター席でレイプされたなど、数え上げたらキリがない。
レイプは女性ばかりと思っていたら、男性いやさわやか系男子でもレイプされる時代である。
だからこそ、自分を守るのは自分しかいない。
世間体とか、集団心理とか、みながやって私だけが仲間から疎外されるのは嫌だとか、目先の言い訳は通用しない。
アメリカのティーンエイジャーの間では、セックスさせなかったら嫌われると思って、ホテルへ行った挙句の果て、飽きられたという悩みを抱えてる女子が多いらしい。
聖香の考えはこうだ。
セックスさせないなら嫌いというようなセックス目当ての男は、こっちから願い下げである。
ときめきもスリルもない、猛獣みたいな男、付き合う気にもなれない。
仮にもし、セックスした後、付き合ったとしても長続きはしないだろう。
だいたい、男は狩人みたいに逃げる女を捕まえたいというハンター精神がある。
だから、すぐセックスさせてしまう女は退屈で、股も頭もゆるい女ということになってしまう。
また、女性の方も身も心も金も捧げるという風になってしまいがちである。
女より男の方が独占欲が強いという。
ホストでも当てはまることであるが、担当の女性客が他のホストに電話をしたというだけで、自分の客をとられたような気になって、腹が立つという。
いくらそのホストとプライペートの友人であったとしてもそれは変わらない。
ましてや指名替えなんていうと、大ケンカになるらしい。
そして、新しく指名されたホストも上層部から叱責をくらうという。
あなたは担当の補佐として担当から給料をもらう身分にも関わらず、担当の客を奪うとは何事かということになるらしい。
だから、どこの店でも大抵指名替えは厳禁である。そして、その指名替えを言い出した女性客も、人騒がせな客として疎ましがられる。
要するに、女の浮気や不倫などというのは、世間では許されないことなのだ。
いくら男の方から、強引に誘惑しても、女は受け身である限り、断わる自由と権限がある。きぜんと断らない女性の方が、だらしないということになる。
やはり女性は、身持ちが堅い方が結局は安全で、幸せの道を歩める。
良妻賢母タイプというのは、えてしてそういう女性を指すのである。
聖香はそんなことを、ぼんやりと考えていた。
沙希は、日ごとに明るく開放的になっていく。
やはり聖香という、話相手ができたからだろう。
終業式の日、悠太に話しかけた。
「悠太君どうだった? 私はまあまあの成績だったわ。
やっぱり勉強ってしとくものね」
「俺も、追試を免れたよといっても、ここは定時制。追試といっても、五回くらい受験させてくれるものな。全日制とは違う特典だよな」
「私も悠太君みたいに、今度は資格にもチャレンジしてみようかな。小学校のとき、そろばん3級を取得したから、今度は2級目指そうと思うの」
「そうだな。勉強は若いうち始めた方が、断然得だよ。なんて、おかんを見てつくづくそう思うよ」
「ところで、お母さんは元気? また、あの喫茶店に行って、いい香りのサイフォン珈琲飲みたいな。あっ、悠太君に助けてもらった私の姪の沙希が、一度会ってお礼をしたいって言ってたよ」
一瞬、沈黙が流れた。悠太は考え込んでるようだ。
しばらくして、返答をした。
「ううん、気持ちは有難いけどな、俺みたいな水商売は世間から偏見を持たれてるだろう。沙希さんみたいな中学生と会ったというだけで、どんな色眼鏡で見られるか、そうなるとお互い迷惑だろう」
聖香は、うなづきながら言った。
「偏見かあ。私もホストっていうと、金のために女を風俗に売ることになんの罪悪感もないなんて思ってたものね。だって、大人向けの雑誌なんて見るとそういう記事しか載っていなかったんだもの。
たとえば女性客が酔っぱらってあまり意識もないうちに、シャンパンや高価なドンペリを注文し、女性客が断ろうとすると強引に姫などとおだてあげ、ドンペリコールを始め、女性客は気が付くと支払いが二百万円も超え、ホストクラブの系列の風俗店に売られたとか、裏ビデオに出演されてたとか、そんなヤバい記事しか載ってないじゃない」
悠太は反論した。
「まあ俺はホスト歴一年半だが、俺の勤めてる店ではそんなことはあり得ない。というのは、警察が取締り、女性客の身分証明証とか売上伝票を提示しなきゃならないんだぜ。またテーブルには、値段を書いたメニュー表が必要不可欠だよ。
あらかじめ提示するように求められるケースもあるが、抜き打ち検査もあるから、うかうかしてられないよ」
「ふーん、警察も取り締まり強化中ね」
「そうだよ。脱税している店が多いからな。それに、警視総監の娘を騙した悪徳ホストの存在が明らかになってから、警察もホストクラブを敵視し始めたんだ」
「どんな世界でも、一部に問題児がいると全体までが取り締まられるわね」
「そうだよ。でも俺たちホストのいちばん怖い存在は、未成年の女性客だよ。
身分証明証を偽造して入店し、ドンペリなど高価な酒を注文した挙句、つけを踏み倒す奴は悪質だ。なんでも未成年の場合、ツケを払う義務がないので、入店させる店側に問題があるとみなされ、またツケを踏み倒されたら担当ホストが自腹を切らなきゃならない。それを見抜けなかったホストにこそ、マヌケで原因があるということになるんだ」
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