第3話 在日外国人の生きざま 

 悠太は、聖香に答えを求めるように見つめた。

「うーん、弟さんが交通事故で命を落とすっていうのは、本当のことじゃないかな。人の命の保証はどこにもないし、交通事故っていうのはいくら自分が安全運転してても、相手が突っ込んでこられればそれで終わりね。まあ、今はドライブレコーダーに証拠が残るから、滅多なことはできないけどね。でもコロナ渦の影響で、急に心身に異常がでるってことはあり得るしね」

 悠太は少し不安げに言った。

「俺は、先輩の客が俺にドンペリを注文してくれて以来、その先輩とはぎくしゃくしてるんだ。もちろん、店では表面は普通に接してるよ。しかし、仕返しとでもいうのかな、その先輩は、ときどき俺の席にやってきて、俺の客の嫌がることーたとえばオナニーしてくれーなんて言ってみたりね」

 男の嫉妬は、女の嫉妬よりも始末が悪いという。

「そういえば、元歌舞伎町ナンバー1ホスト城咲仁が曰く『どんなにナンバー1とっても、礼儀を間違えるともうその店にはいられなくなる。だから、自分の方から後輩から先輩まで積極的に挨拶し、先輩には敬語を使わねばならない』とかね。

 芸能界のような競争世界ほど、礼儀を重んじるというわ。たとえば新人は先輩がきたら、鏡を譲らなきゃならないとか、楽屋では、目立たないところに立っているべきだとかね。芸能界って今までスターだった人が急に売れなくなったり、新人が三か月もしないうちに、スターになったりする椅子取りゲームみたいな世界でしょう。だから、妬まれ逆恨みされないためにも、礼儀作法だけはキチンとしなければね」

 悠太は聖香の話を納得したように聞いていた。


「ねえ、悠太君は、どうしてこの仕事を始めたの? お金を貯めて事業家にでもなるつもり?」

 悠太はきっぱりと言った。

「実は俺、金を貯めてディサービス事業をしようと思ってるんだ。まあこのコロナ渦のなかで難しいけどね。しかしディサービスというのは、飲食店のようにできては潰れ、でもまた時代に合わせて新しい店ができるという人気稼業だけどね。

 実は俺、最近日本人に帰化したけれど、韓国人だったんだ。

 小学校一年のとき、おかんにこう言われてたんだ。あんたは大企業にも就職は難しいし、日本人女性との結婚も難しい。しかし、悪いことだけはせず、人から後ろ指を刺されない生き方をしなきゃダメだよ。そうしなきゃ、あんたを創造してくれた神様に申し訳ない。あんたの命はあんた一人だけのものじゃないんだよ」

 聖香は、神妙な面持ちで聞いていた。

「まあ、おかんは俺がもし、差別を受けたとき、過剰なショックを受けないように配慮してくれたんだと思う。1990年以降、外国人は増加の一方を辿ってるし、大阪では外国町などと言われている地域もある。グローバル化といって、企業もどんどん優秀な外国人を採用していっている時代であり、日本人であることにあぐらをかいていたら、外国人に仕事をとられるかもしれない。時代は変わりつつあるからね」

 聖香は、思わず口を挟んだ。

「差別って外国人だけでなく、女性差別、身障者差別があるけどね、日本の差別なんて外国の差別から比べたら無きに等しいようなものだというわ。

 日本は島国国家で単一民族だけど、アメリカや中国の移民国家だと差別はひどいというわ。アメリカは昔、黒人を奴隷として扱っていたし、今でも見せかけだけの裁判をして、黒人に冤罪をかけるということは存在する。

 中国では、貧しい村に生まれた子は、学校には一日も行かせてもらえないから、二十歳過ぎても数字や文字も読み書きできない人はいくらでもいるのよ」

 悠太は納得したように答えた。

「そういえば、五年前の2016年頃、俺、中華料理店でバイトしてたけどね、いわゆる日本語の話せない中国人が勤務してたんだけど、ひどいものだったね。自分の仕事を日本人に押し付け「おはよう、おはよう」というだけで金をもらってると思ってる若い女性中国人、またチーフの愛人として入店してきた暴力中国女で、日本男子に向かって『おい、お前これをやれ、もっと早くやれ、あほ』『もっとはっきりしゃべれ。しばくぞ』」

 聖香は思わず吹き出したが、悠太は話を続けた。

「その女性中国人、計算が出来ないせいか、レジでなんと客の頭を紙筒でポンと殴ったり、ホールでは中年男性と追いかけ合いのケンカをし、警察沙汰になったことが三回ほどあるよ」

 聖香はただポカンと開いた口がふさがらない。

「まあ、その女性中国人はそういった環境のなかで生きてきたんだろうな。多分、一日も学校に通ってないかもしれない。そういうこともあいまって、2017年から日本語の話せない外国人は採用しないという風潮が存在したがね。

 実際、風俗でも採用しないらしい。もしそうでないと性病患者を雇ってると疑われるらしい」

 諸外国では、こんなひどい差別があるなんて。

「だから、日本に生まれただけでも私たちはラッキーなんだよ。日本で生まれた外国人はたいてい、日本が大好き、できたら永住したいって。

 日本は飲食店でも百円以下の商品でも衛生的だろう。中国ではそうはいかないというね」

 しかし、聖香はどうしても疑問に思うことがあった。

「じゃあ、どうして日本には自殺が多いの? ここ十五年前からうつ病とかパニック障害とかいう精神病の人が多いけど、あれはなぜ?」

 悠太も聖香も一瞬、考え込んだが、聖香が発言した。

「そうだなあ、日本人は血液型A型の人が多くて、神経質だからな。

 ほら、A型って世間体とか気にするじゃん。日本は和の文化といって、周りと合わせなければ生きていけないという風潮があるんだよ。だから、YES,NOもはっきり言えず、陰口を叩く。それが積み重なるとストレスとなり、一見おとなしめの子が、クスリや殺人に走ったりするが、犯罪加害者の家族はたまったものじゃないよ」

 悠太が発言した。

「日本が経済大国になったのは、親が金儲けのために働く、そうすると子供と一緒にいる時間が少なくなる。学校でいじめを受けても家庭という受け皿があれば、非行やクスリに走ることはないと思うんだ。

 いくら男女雇用均等法だといっても、やはり女性差別って根強くあるし、女性はそれを紛らわすために酒を飲んだり、子供に当たったりする。そういう子供は、大抵、学校でもうまくいかず、困った人になってしまう。

 しかし、他人から困った人と見られる人は、家庭において困ってる最中の人なんだ。外でケガをして、介抱するのが家庭の役割だと思うが、その役割を果たしていないケースが多い。

 実は俺も小学校の時、おかんが水商売をしていて、夕方五時になると化粧をしてドレスを着て出て行くんだ。俺の役割はおかんのために化粧品を買うことと、ドレスの背中のファスナーを締めることだった。

 おかんが出ていったあと、僕はきまって背中にじんましんができたものだよ。そしてこのまま、おかんがネオン街の夜の闇に包み込まれて、永遠に戻ってこないような気がして仕方がなかった。そのときの詩を披露するよ

 夕焼けが赤く燃える頃 

 母は 化粧をして僕の知らない女となる

 母のドレスの ファスナーを締め終わり

 いい子にしてるんだよと僕に告げて

 ネオン街の光のなかに消えていく一人の女

 うしろ髪ひかれる母の背中が

 そのまま 僕の背中のじんましんとなる


 もしかしてこのまま 夜の闇に吸い込まれ

 ドアを開けることがなくなったら

 そんな不安をかき消すように 

 僕はとりあえず 問題集を解き始めた

 

 なーんて、俺の自作、作詞のセンスあるだろう。

 自画自賛だよね」

 聖香は感心して言った。

「悠太君、作詞家の才能ありそう? 可能性あるかもね。

 今カミングアウトするけどね、実は私在日コリアンなんだ。

 とりあえず将来の目標は、介護ヘルパーになることかな。

 だから今、介護職員主任者認定の資格の学校に通ってるのよ」

「じゃあ、介護ディサービスを経営しようとする俺の夢と似ているなあ。

 でも今コロナ渦の影響で、倒産する所も多いんじゃない? まあああいった世界は、半年ごとにいろんな施設を転々とする人が多いというね」

 聖香は、共感の笑みを浮かべた。

「私、この前中学三年のときのクラスメートからね、カフェの面接について行ってっていうから行ったら、なんとガールスバーだったの。あわてて逃げ出してきちゃった。ああいう世界って一度入ったら、抜けられないっていうわ」

「まあ、女性の場合は一歩間違えれば風俗行きだっていうからな。気をつけろよ。

 レイプされた挙句の果て 風俗に売られたなんてケースもあるからな。

 もっともこの頃は、アメリカ同様若い男子をレイプする中年男もいるくらいであるから、男子だからってうかうかしてられないよ」

 聖香はジョーク混じりに言った。

「レイプした挙句の果て、それをDVDにして販売するのが目的というケースもあるわ。まあ、その被害者になるのはジャニ系のイケメン君だけどね」

「そうかあ、美人薄命というがイケメンレイプ被害ってわけかな」

 悠太と聖香は顔を見合わせて吹き出した。



 

 

 

 

 


 

 






 

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