Episode12 無情─Cruel─
田舎の廃屋駐車場、そこで若者が4人騒いでいる。
いわゆる暴走族の一員なのだろう、1人は金髪、もう1人は鼻ピアス、残る2人もモヒカンやリーゼントといったいかにもな格好をしている。
「おっ、そういやバイクに酒置いてきちまった、おめーとってこいや」
金髪の男がモヒカンの男に命令すると、急いでバイクの方へ向かう。
酒を探しにきたモヒカンの男はバイクの近くの土が不自然に膨らんでいると思い、近くに行くと突如なにかに足を掴まれ、地下に引きずりこまれた。
全然戻ってこない男を心配した鼻ピアスの男が探しに行くと、モヒカン男の姿はない。
どこかに小便にでも行ったと思った時、足を掴まれる。
「うわああぁぁぁ──」
悲鳴を残して姿を消したことに怯える残り2人は、やはり不安になる。
すると金髪の男の目の前で、リーゼントの男が地下に引きずり込まれた。
とうとう恐れて、走ってその場から逃げようとした金髪の男だったが、10メートルほど走ったところで、虚しく地下に引きずり込まれていく。
誓奈は休みの期間を終え、再びオフィスルームにやってきた。
束の間の休みだったが、レザージャケットの男が姫咲京介という男だと知れたただけでも十分だった。
しばらく待っていると、戦術参謀長から命令が言い渡される。
「昨夜ワスプルスが出現したことが確認されました、そしてどうやら昼間は出現を控えるようになった、そう考えていいでしょう」
秋水は説明しながら、出現したエリアの地形を示す。
「以前の出現場所より南下しています、山間部から平野部になればなるほど人口密集地に近づくため、皆さんには前衛点A,B,Cのそれぞれに配置してもらい、迎え撃ってもらいます」
マップに現れた3点のポイントは、それぞれ人口密集地から3段構造で守るような配置だ。
「地下に潜った敵をどのようにしておびき出すのですか?」
隊長の堀江が質問したことは、確かにそうだと思った。
実際、地下に潜んでいるからこれまで時間がかかったのだから。
「地下まで届くマイクロウェーブを利用します、ジャスティレイダーとジャスティラッシャーを扇状に配備し、徐々に範囲を狭めることでポイントに近い位置に出現させることを目的としています」
「追い込み漁と同じ要領ということですか…」
なんとなく誓奈も理解した、どうやらマイクロウェーブは壁のような役割を果たし、行動範囲を制限するために利用するのだと。
「皆さんにはBポイント、及びCポイントを担当していただきます」
「それで、どのように迎え撃つのですか?」
「そう焦らずに、多くの高火力の攻撃を同時に行う必要があると考えました、ですがワスプルスは動きが俊敏です、そこで地上に体の7割程度出現した状態で、地上から液体窒素弾を利用し、動きを止めます」
「その間に撃破するということか……それを行うために防衛地点を3層にしているということか」
──織田信長の三弾撃ち的な感じだな──
誓奈は心に浮かべたことは日本史で学んだことだ、どうやら結構現代でも通用することだとつくづく感じる。
その後、より詳細な説明が始まるが、誓奈の頭には1つだけ、ずっと考えていることがあった。
──エクソシストが、姫咲京介が今回も現れるのかどうか──
小学生の少女は学校帰り、寄り道をすることがある。
寄り道場所はいつも同じ、野原の中に1軒だけ佇む廃屋、そこには野良猫が2,3匹住みついており、たまに遊ぶことが楽しみなのだ。
少女は今日も1人廃屋へ向かっていき、地中ではその足の振動を何かが察知している。
日が落ちつつある夕暮れ、沙織は武器の点検を終えてホテルの部屋の窓の近くに座っていた。
自然や風景に情緒を感じたことはない、だがなんとなく心を平常運転させるためのルーチンとして、空や天気を見るのだ。
オレンジのハイライトが雲で隠れた頃、サングラスをかけた女が部屋の中に入ってきた。
「──ったく、大規模な作戦をしやがるもんだよ
女は部屋に入るなり何回かボヤいた、沙織にとってはいつも通りの光景だ。
「どうしたの?」
「あの組織様はどうやらこの辺一体に避難警告を出したらしい、恐らくあのデーモンを仕留めるためだろう……だが、今回の作戦を立てたヤツはどうやら正気の沙汰じゃない」
「なぜ?」
「デーモンをおびき寄せるために、人口が多い観光地や市街を除いた場所には避難警告を出してないのさ、冷酷かつ非人道的極まりない」
沙織の質問に答える女はとても怒りに溢れている、明らかに苛立っているのを長く見てきた沙織なら分かっている。
──これ以外の方法がない──
原因を推測するとこれが正しいと思う。
「お前にはこの辺で、グロウブリゲイドが仕留め損ねた場合の尻拭いをしてもらう……すまないな」
「いいよ……アン」
「サイコパス組織なんかに頼るなんてな、終わったら東のこのポイントまで撤退しな、そこで拾ってやる」
タブレットのマップを開きながら女が説明を終えると、沙織は武器をいくつか携帯し、そのまま部屋を出ていった。
沙織が去ると、女はサングラスを外して窓から外を見る。
何かを黄昏るように、そして自分に問い詰めるようにゆっくりと口を開いた。
「──こんなことしてたら、辞めた意味がないじゃねぇかよ」
少女は目を覚ました、どうやら廃屋で猫と戯れるうちに夜になっていたらしい。
「帰らなきゃ!」
そう思って急いで廃屋から外に出ると、不自然な静けさに恐怖を感じた。
猫たちも怯えながら廃屋の奥に引っ込んでいく。
「こっ、怖い……」
少女は廃屋の中に戻り、震えながら助けを求める。
男は避難警告によって誰もいなくなった街で、1人空を見上げた。
空には1台の異様な戦闘機が飛んでおり、どのような仕組みかは分からないが、その場で浮かぶように飛んでいる。
「なにかの作戦なのか?」
レザージャケットのポケットからアイテムを取り出し、握ったまま目を閉じる。
鼓動のような振動とともに、アイテムから力が流れ込んでくる。
そして千里眼のように遠く離れた廃屋で、震えながらしゃがみこんでいる少女を見つけた。
「助けなければ!」
男はそう言うと急いで走って向かう、これから激戦地となるであろう場所に。
誓奈はジャスティラッシャーの中で、迎撃準備を仲間と終えていた。
「マイクロウェーブのだい2波を確認、続けてください」
副隊長が通信に応答し、徐々に緊張感も高まっていく。
すると戦術参謀長からも共通回線で連絡が入る。
「地中のデーモン波動が予定通り、Aポイントに向かっています、到達までおよそ15分」
──正直怖い──
前回のエゼキールの時も自分たちは倒せなかった、きっとエクソシストが倒してくれたのだと考えると、無力さを感じてならない。
誓奈自身が感じている恐怖は誰にも伝わることはない、だがこの恐怖をチームミハイルの隊員であるという仮面を被ることで隠し続けていられる気がした。
すると突如、レーダーを見ていた風見が異変に気づいた。
「突如デーモンの進行方向が変わりました!」
秋水がレーダーを見ながらキーボードをで何かを入力している。
「馬鹿な、エクソシストもいないはず……まさか、外部から介入されたのか?」
突如の事態に秋水の元へ命令を要求する報せがやってくる。
彼も準備をしていなかった訳ではないため、急いで作戦を伝えようとしたが、それよりも先にデーモンは地上へと出現したのだった。
出現したワスプルスは2足歩行で、両腕の鎌を構えながら周囲を見渡す。
すぐ近くには廃屋があり、人間の存在を感じ取ったようにそこへ向かうワスプルスを、少女は壊れた窓から見ていた。
見たこともない巨大な虫、そして自分の元に迫り来る恐怖から足がすくんで動けないでいる。
声すらも出ない状況に猫を抱きながら泣いていると、ワスプルスは少女の目の前までやってきた。
恐ろしく発達した顎と鎌で少女を捕らえようとしたとき、ワスプルスに向かって爆発する弾丸が何発も命中した。
爆煙を振り払ったワスプルスが弾丸の飛んできた方向を見ると、そこには拳銃型の武器2丁を両手で持っている沙織の姿があった。
「その子どもは……殺らせない!」
誓奈たちはジャスティラッシャーを移動させ、ワスプルスが射程範囲内となる高台へ移動した。
「見つけました……ワスプルスはアサシンと交戦中です!」
モニター越しで沙織とワスプルスが戦う姿を見て、誓奈は驚いた。
彼女は自分たちよりも先にワスプルスを迎撃している事実に加え、この後に秋水が出される命令からも。
「アサシンごとワスプルスに一斉攻撃してください」
秋水の命令にメンバー全員の背筋が凍った。
「しかし、さ……アサシンごとと言うのは、近くに別の子どもらしき反応もあります!」
誓奈が初めて戦術参謀長に対して意見した瞬間だった、風見もどうやら同じ意見らしく頷いている。
隊長と副隊長は険しい顔をしたままだ。
「もう一度言います、アサシンごとワスプルスに一斉攻撃してください」
そう言って秋水から指令は一方的に切られた。
──うっそ、最低じゃん──
いくら命令でも、上司でも決して納得できない返答に不満を抱いた。
「この際にアサシンも始末してしまおうというわけか……」
副隊長が渋い顔をしながら呟き、横目で隊長の顔を伺う。
隊長は珍しくしかめっ面で、思い悩んでいるようだったが、しばらくして長いため息をついて口を開いた。
「──ミサイル、粒子砲、レールガン全砲門開け」
「隊長!!」
「誓奈、私たちは人類を守る義務がある」
隊長は誓奈を制すると、覚悟を決めたように前を見つめている。
沙織はワイヤーを使った移動でワスプルスを翻弄し、攻撃を避けながら攻撃を加え続ける。
放った弾丸はことごとく、ワスプルスに命中しても大したダメージはない。
「外骨格が邪魔してる……」
──エクスプロードバレットもアシッドバレットも効かないなんて──
様々な弾丸の攻撃が分厚い体に阻まれるのは想定外だった。
デーモン自体も前回より強固になっており、煙幕も通じなかったのだ。
沙織はジャンプしながら廃屋の方を見ると、少女はしゃがみこんでこちらを見ている。
少女の無事を確認した沙織はそのまま別の場所にワスプルスを誘導しようと考えていた。
だがその時、突如ワスプルスの使用していなかった2本の腕が伸び、爪で沙織を襲う。
「クソッ!!」
バク転しながら体をひねることで避けようとしたが、爪が沙織の腰を掠って傷を与えた。
着地した沙織は腰に手を当てるが、出血が想像以上に多いことに気づく。
──腰を掠っただけで、これ…なの──
遠くの高台では攻撃準備をするジャスティラッシャーが、攻撃開始のカウントダウンを始めており、沙織はそれに気づけなくなっていた。
腰の傷を押さえ、しゃがんだ状態から立ち上がろうとした沙織だったが痛みは絶大だった。
そしてその瞬間、ワスプルスの鎌が沙織の目の前に振り下ろされる。
──死んだ──
そう思って目を閉じたその時、突如目の前が淡い虹色に輝く。
突然の光に驚きながら目を開けると、そこにいたのはあの人型、エクソシストだった。
エクソシストは両手で鎌を掴みながら沙織の方を一瞬見たあと、ワスプルスの懐にまで入り込んで背負い投げの形で放り投げる。
「私を……守った?」
沙織は目の前で繰り広げられた戦いに、腰の痛みを一瞬忘れてしまうほどに驚いた。
「エクソシストが出現しました!」
風見の言葉で攻撃準備が一旦停止となった。
全員が驚いているも、副隊長はなんとなく察しがついているようだ。
──エクソシスト、あれが姫咲京介──
誓奈は1人だけ正体を知っている。
だが、なぜ彼がエクソシストなのか、そしてどのような目的を持っているのかは一切知らない、そういう意味でとても興味を持っている。
エクソシストはワスプルスを投げ飛ばすと、自身の胸からなにかを取り出すように片手を当てると、光の塊をその手に持っていった。
そして次の瞬間、その光の塊を地面に叩きつけると、虹色のオーロラのような光が周囲に広がっていき、エクソシストとワスプルスを包み込んで姿を消した。
──これは、あの時みた光──
エゼキール戦で見た光、やはり正体はエクソシストだったのだと確信できた。
「
秋水から言い渡されたのは乖離空間への突入命令、未知の世界への入口に今、チームミハイルは立とうとしていた。
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