Episode10 宿聖者─Exorcist─



 長野県にある高原、春が近づきつつあるが観光客はあまりいない。

 そんな場所に2人組のカップルが遊びにきていた。

 人のいない時期をギリギリ狙っていたのだろう、もう少し暖かくなれば観光客だらけだ。

 仲良さげなカップルは腕を組みながら歩いており、他愛もない会話をしている。

 そんな時突如、女性は風の塊がぶつかるような感覚を感じた。


「なに今の?」

「ん、どうしたの?」


 男は何も気づかなかったようで、ケロッとしている。


「今へんな風見は来たでしょ、あっちの方から」


 女性は彼氏の腕から離れて、風を感じた方に走ってみるが、見渡しても何もない。


「気のせいかな?」


 そう呟いた時、再び風の塊が背中にぶつかり、同時にヘリコプターのプロペラのような巨大な音が響いた。


「今の!今のだよっ!!」


 女性が振り向いた時、そこに男の姿はなかった。


「ど、どこいったの!ねえ!!」


 あまりに突然いなくなったため、女性は叫びながら周囲を探してもいない。

 嫌な予感を何となく感じていると、空からなにか落ちてきた。

 地面に落ちてきたのは男が持っていた財布だった。

 女性は不思議に思い、恐る恐る空を見上げるとそこには遥か上空でなにかがゆらゆら浮いている。

 太陽の光と重なっていまいちなにか分からない。

 鳶のようなものかと思ったが、影がなんとなく鳥じゃない、そして鳥より巨大だった。

 影はしばらく上空で揺れたあと、女性に猛スピードで近づいてきた。

 近づいてきた影の正体をみて、女性は叫ぼうとしたが恐怖で声が出ない。

 その影は巨大な蜂のような姿を虫だったのだ。

 足がすくんで動けない女性は近づいた影の足にその体掴まれると、そのまま飛び去ってしまう。

 羽ばたく時の強い風が周囲に響き渡ると同時に、どこかへ飛び去った影を見ていたものはいない。



 誓奈達チームミハイルの勤務の時間に、コンディションレベルイエローの任務が言い渡されていた。


「長野県の高原ですか?」


 堀江は戦術参謀長に言い渡された命令に確認をとる。


「強力なデーモン波動を検知しています、まだ被害も特に出たいないようなので、レベルイエローにしていますが、場合によってはレッドまで行く可能性はあります」


 エゼキールの時はよりも遠い場所の任務に今から行くのかと驚いていると、さらに秋水から話があった。


「皆さんにはジャスティレイダーで至急向かってもらいます」


 ジャスティレイダーは以前、チームイスラフィルがエゼキール殲滅作戦の時に使用していた対コズミックデーモン専用戦闘機だ。

──マジか──

 誓奈は訓練で操縦したことがあるが、いまいち操縦などは得意ではなかった。

 シミュレーターでも何度か墜落したこともある。

 秋水から命令が伝えられ、通信が終わったことにも気づかずに不安で脳内が埋め尽くされる。

 見かねた氷室が近づいて声をかけてくれた。


「誓奈ちゃん、大丈夫だよ、レイダーは2人乗りで操縦側はた3機のうち隊長と副隊長、楓の3人って決まっているから、私と海友ちゃんと誓奈ちゃんはアシスタントだから」


──そうだったの?!──

 自分の無知さに恥ずかしさを感じつつ、教えてくれた雫に礼を言う。

 落ち着く暇もなく、チームミハイルは出動準備に取りかかった。



 車通りの少ない山道を制限速度以上の速度で走る、黒いワンボックスカーがある。

 車内は2人の女性が乗っており、運転しているのはサングラスをかけた女性、後部座席に乗るのは、アサシンと呼ばれる少女、白美沙織だった。


「この先の高原に出現したらしい、詳細が未だに不明なのも気がかりだが、いつも通り気は抜くな」

「うん……すぐ終わらせる」


 サングラスをかけた女性が沙織に話しかけると、沙織は拳銃型の武器や手榴弾のような武器を手に取って確認しながら返答する。

 内容は兎に角、自然なやり取りのようにも見えるだが、サングラスをかけた女はなにか異変に気づいたようだ。


「お前、なんか変なことでもあったか?」


 武器をチェックしていた手が言われた瞬間、動かす手を止めた沙織だったが、すぐに元に戻った。


「別に……急にどうしたの?」

「何年一緒にいると思ってんだ、自分のの癖や状態が普段と少し違えば気にはなるもんさ」

「そう…なんだ」


 沙織は数日前の出来事を思い浮かべる、黒日誓奈という自分と近い年齢の少女と出会ったこと、話をしたこと、友達になりたいと言われたこと。

 沙織には曖昧な定義な友達という概念、それがずっと頭に引っかかっていた、きっとその悩みが頭の片隅にあることを見透かされたようだ。


「ねえ、アン……1つ聞いていい?」

「なんだ、珍しいな…いいぜ、言ってみな?」

「アンに友達っている?」


 沙織が質問をした時、それまで気さくな雰囲気だった女性の表情が固まる。

 何かを考えているようだった、遠い昔の記憶を懐かしむように、運転をしながら口を開く。


「いるさ、最初は気に食わないヤツだったが、いいヤツになったよ……他にも何人かいたが、みんな死んじまった」


 どこか深く、重みのある言葉に沙織は思わず黙ったままになってしまった。

 沙織自身もあまり聞いたこともない、女性の過去に関することだったのもあるだろう。


「そういうこと聞くってことは、お前も気にするような年頃になっちまったってことか?嬉しいもんだね」

「別に、そんなことは……」 

「友人なんてものはハイリスク・ハイリターンなものだ、いていいことも、悪いこともある……ギャンブルなのさ」 


 ギャンブル自体もやったことがない沙織は言われてもよく分からない、なにがハイリスクでなにがハイリターンなのかを知りたいと思った。


「それより、今から化け物退治するのに、そんなくだらねえこと考えてヘマすんじゃないよ!」 


 話題を強引に変えられたような気がするが、この言葉で沙織も真剣な表情に戻す。


「──当然」


 黒い車は速度をさらに上げ、より山道を進んでいく。



 男は夢を見た、遠い昔の夢、山に囲まれた小さな村、小川のせせらぎと虫の音が聞こえる、懐かしい日本の里というような村。

 村に数人しかいない子どもたちは野原をかけまわり、農作業をする大人たちは見守っている。

 優しく暖かい風が肌を撫でるように吹き抜けていく。

 しかし突然世界は暗転し、気つけば村の草木は枯れ、小さな集落が崩壊していた。

 そして集落の中央で、怪しく蠢く影の塊が次々に悲鳴をあげながら逃げる村民たちを飲み込んでいく。


「ダメだ、逃げろ!!」


 男が叫んだ時、突如目が覚める。


「また、あの時の……俺への戒めのつもりなのか」


 アパートのベッドの上で男は起き上がると、十字の小刀型のアイテムが光を点滅しながら、拍動のように振動するのを見つけた。


「出たのか!」


 タートルネックの黒いウェアにジーンズという姿で寝ていた男は、アイテムとレザージャケットを手に取り、ジャケットを羽織りながらアパートの部屋から走って出ていった。

 その姿は餌に飢えた獣のように、焦りと必死さが伝わる。



 誓奈たちはジャスティレイダーで長野県の現場まで駆けつけ、特定の場所に着陸し、地上にいた。

 ジャスティレイダーにはトリックミラージュと呼ばれる機能が搭載してあり、どういう原理か分からないが周囲からは目視できない透明な姿になり、普通のレーダーなどにも反応しない状態で飛んでいた。

──やっぱX.T.A.Dってすごい──

 こんな明らかにハイクオリティな科学技術が存在するのに、学校の休んでいた言い訳はなんとかならなかったのか。

 3機のジャスティレイダーはそれぞれ微妙に異なる形をしており、差別化がされていたのも何やら不思議だった。


「予定通り、氷室隊員と小鳥遊隊員はレイダーで情報収集と管理、残りは2人1組の2手で調査だ」


 堀江隊長の命令により、誓奈は柊木副隊長と行動を共にすることになる。

 副隊長ととの行動はエゼキール殲滅作戦以来となり、少し緊張していた。

 高原のあたりは最初に調査したが何も現れなかったため、周囲を探しても反応はなく、足跡もない。

 エゼキールの時のような粘液もなかったのだ。

 もちろん超感覚も何も感じない。


「目視を怠るなよ、反応が薄いデーモンなんていくらでもいるからな」


 副隊長に言われ、改めて全神経を張り巡らせてデーモンを探してみる。

 森というよりも平原に近いような場所では、何もないことが逆に怖く感じている。

 近くに副隊長がいるのが見えるだけで、どこか心強い。

 しばらく周囲を捜索しても何も見当たらず、近くの山の頂上の方を見ていた誓奈はなにか変な音が聞こえた気がした。


「副隊長、今なにか音がしませんでした?こう…ハエが飛んでいるみたいな」

「この時期にここでハエというのもおかしいな、周囲に警戒しろ!私もすぐそっちに行く」


 30メートルほど離れて、山とは反対方向にいた副隊長に通信を行った後、誓奈は周囲に警戒する。

──油断はしないぞ──

 そう心に言い続ける、エゼキールの時も私の油断で何度も危ない目にあった。

 今回も危険な可能性があるからデモリッションランチャーの携帯を命令されている。

 すると突然、明らかに不自然な強い風が吹き出した、まるで風のバランスボールが自分の背中に向かって投げられたかのような風だった。

 敏感になっていた誓奈にはこの異変にすぐに気づいた。

 周囲を確認してもなにもいない、不自然すぎる状態が数秒続いたあと、誓奈の超感覚が反応して脳内に電撃が走る感覚になる。


「これはまさか、上か!?」


 そう思って上を見上げた時、雲ひとつない空に大きな黒い影を見つける。

 目視だけでは遠すぎて何かわからない、一瞬鳥かと思ったが、鳥にしては動きがおかしい。

 何より鳥の胴体と翼の比率には見えず、飛び方も直線的で、素早く左右をゆらゆら飛んでいるようだ。

 すると直後、突如その物体は高速で誓奈の方へ降下してきた。

 重力の自由落下の速度じゃない、まるで獲物を見つけた鷹や鳶のような速度で、空気抵抗の少ない降下をしてきたのだ。


「なんだ、あれっ!!」


 急いでランチャーを構えると、アナライザーからデーモン波動を探知したというアラートが鳴る。

──今頃来たって遅い!!──

 迫る物体にランチャーのマシンガンモードで応戦しようとするも、間に合わないと判断して誓奈は威嚇射撃をしながら前転して避けることを選んだ。

 実際この判断は間違いではなかったと思う。

 間一髪のところで避けた誓奈は、すぐに体勢を立て直して迫ってきたデーモンを見る。

 誓奈を仕留め損ねたデーモンはまた少し上昇して、その姿がはっきり見える位置で、誓奈に狙いを定めだした。

 デーモンの姿は体長20メートルほどのまさに蜂のような胴体、そして6本あるうちの下2本の足はバッタのように発達しており、上2本はカマキリのように発達している。

 羽はビワハゴロモのような蛾に近い印象だ。

 頭部は蜂よりも、アリジゴクのように発達した顎を持ち、目は左右が合体して1つになっているようだ。 

 デーモンは飛びながら顎を開いたり閉じたりして、暇を弄ぶようだった。

 高速で羽を振動させて旋回するデーモンによって、周囲はヘリコプターのような風と、蝿が飛ぶような音が大音量で響く。

──なにこれキモっ──

 虫は苦手だ、というより女子で虫が苦手じゃない数の方が少ない、


「早くランチャーを撃て!!」


 少し離れていた副隊長が、誓奈の元に向かいながらランチャーのチャージショットをデーモンに向かって放つ。

 攻撃が命中したデーモンは一切ダメージはなさそうだったが、副隊長の方に気を取られ、誓奈を狙いから外した。


「両方向から攻撃を続けるぞ、早く!!」

「了解!」


 副隊長の言葉通り、大して効き目がなかったランチャーの攻撃を繰り返しながらデーモンから距離をとる2人は対数螺旋を描くように徐々に移動する。

 しかしデーモンはその高速な身のこなしで、上下左右にランチャーの攻撃を避けていく。


「くっ、どうせ当たっても大して効かないのによけんな!!」


 誓奈の口から思わず本音が漏れる、だがそれは当たり前だ。

 目の前には人間を襲うデーモン、命懸けの恐ろしい任務でなりふり構ってはいられない。

 誓奈と副隊長がある程度、距離を離れた頃、威嚇射撃に慣れたのか、デーモンは再び誓奈に狙いを定めて高度を上げる。

 そして先程と同じように足を胴体に沿うように畳み、誓奈に向かって斜めに急降下を始めた。

 ランチャーで狙いを定め、迎撃をしようとしたその時、突如横の森林からデーモンに向かってなにかが飛んで行き、デーモンの命中した。

 すると突如デーモンの周囲に閃光と、火薬が焦げたような匂いとともに、爆発が起こった。

 不思議に思いつつ、爆発に身構えた誓奈の目の前には、木陰から飛ぶように出てきた沙織が拳銃型の武器を両手に持ちながら現れた。

 突如攻撃を一時停止したデーモンは、上空に戻ったかと思うと、この場から逃げるように森の方へ飛んでいってしまった。

 それを逃がさまいと、沙織はデーモンの飛んで行った方角へ走って行く。


「ありがとう!!」


 また命を救われた誓奈は大きい声で沙織に向かって叫んだ。

 多分副隊長にも聞こえただろう、沙織は声をかけられると一瞬だけ誓奈を見て、森の中へ消えていった。

──きっと追っかけて戦うんだ、なら私も──

 誓奈がそう思って走ろうとすると、副隊長が肩を掴んで制した。


「待て、先に報告をしなくてはいけない、敵の種類と向かった方角を……でなければ我々がチームとして機能しなくなる」


 言っていることは正しかった、誓奈も馬鹿じゃないから急ぐ気持ちを制して副隊長の報告を待つ。


「こちら柊木、送ったポイントにてデーモンの存在を確認、恐らくインセクトタイプだと思われます、レイダーに画像も送ったので、戦術参謀長に送ってください、また、デーモンは我々の前から離れた後、特定エリアへ逃亡し……」


 長いと思った、副隊長が報告するのなら私はここにいなくてもいい、彼女を助けたいと思った。

 沙織はチームミハイルのメンバーでもないけれど、ただ1人の友人として助けたいと思った。

 このまま自分のピンチばかり助けてもらうのは申し訳ないと思った。

 気がつくと誓奈は無意識に走って、沙織の消えた方角の森林に突入していた。

 副隊長はそれを、森林に入った直後に気づいたようだ。


「おい、黒日隊員!!!」


 副隊長は焦りながら報告を終え、急いで誓奈を追いかけだした。



 誓奈たちを襲ったインセクトタイプのデーモンは、圧倒的なスピードで森の真ん中にゆっくりと着陸した。

 その直前、森の中を走るレザージャケット姿の男はデーモンの羽ばたきによる風の塊を浴びながら走っている。


「あいつが今回の……この近くに巣があるのか」


 男は急いでデーモンの降り立った場所まで走っていくと、森の真ん中の小さい段差の崖に、洞窟のように空いた穴を見つけた。

 男のジャケットの胸ポケットにあるアイテムがかなり強く振動しており、男はゆっくりと洞窟の中へ入っていく。


「天然じゃない、明らかに掘られている」


 男が呟いた時、突如足に何かが当たって躓きかけた。

 薄暗い洞窟の中でよく見ると、足に当たったのは石ころではなく骨だった、それも人間の骨である。

 さらに奥の方に進むと広い空間に出て、なにか巨大な球体の塊がいくつか並べられていた。

 薄暗さと先程の人骨、そしてとんでもない異臭が充満している。

 男は球体の物を薄暗い中何かわからず、胸ポケットのアイテムを取りだし、点滅する光で周囲を照らしてその正体に気づく。


「こ、これは……」


 球体の中には多くの毛髪、そして血が固まった黒色、溶けかけている人の皮膚や眼球が粘性の液体で固まっているものだった。

 球体は全部で10数個置いてあり、この世の地獄と思える光景に男は心の底から怒りが湧き上がる。

 男が見渡した直後、さらに奥の方からインセクトタイプのデーモンがのそのそと現れる、6本足なのに2足歩行をしており、残りの腕で男に対して威嚇するように構える。


「許せるものか、これだけの人を……これだけの未来をよくも!!」


 男は洞窟の中で手のアイテムを片手で構え、空中に十字の形を斬るように腕を振る。

 直後に空気に刻まれた十字の空間の裂け目から膨大なエネルギーが男に向かって降り注ぎ、その姿を変える。

 そして人型のになった男は瞬間移動に近い高速移動でデーモンに突進し、洞窟を崩壊させながら光ある世界に突き進んだ。



「こっちで……感じる」


 沙織は狙っていたデーモンが森の中央に着陸したのを見て、急いで向かう。

 変幻自在のワイヤーを使い、森の木々に引っ掛け、足場として使いながら飛ぶように移動する姿はまるでターザンのようだ。

 そして森中央、小さい洞窟の目の前にやってきた。


「ここ……逃がさない!」


 沙織は拳銃型の武器を片手に一丁ずつ構え、踏み込もうとしたその時、突如地響きを感じて洞窟の入口から離れる。

──今のは!!──

 地響きとともに洞窟は崩落し、中から2つの影が出てきた。

 1つは先程まで追いかけていたインセクトタイプのデーモン、そしてもう1つは人型をしただった。


「あれもデーモン??」


 初めて見る人型の影に戸惑いつつ、沙織は木陰から様子を伺うことにした。

 見ている限り、デーモンと人型のは戦っているようだった。

──デーモン同士が潰し合って…る?──

 デーモンは上空に飛び上がろうとするが、人型の方は驚異的な脚力と飛行能力も備えており、旋回するデーモンを蹴り1発で地上に叩き落としていた。

──人型にヤツ……強い──

 目立たないように隠れながら沙織が見ていたその時、突如大きい声が聞こえた。


「沙織、いたっ!!」


 その聞き覚えのある声の方を見ると、ランチャーを両手に持っていた誓奈が沙織の方へ走って向かっていた。


「助けに来たよ!」


 誓奈は手を小さく振りながら近づいてきたが、沙織は少し離れたところに地上に叩きつけられていたデーモンの姿を見つけた。


「危ない、ダメっ!!」


 沙織は今まで出したことない大声を出した、しかしそれも一般的な大声と言うには小さい部類に入る。

 だが、本能的に自分のできるかぎり大きい声で叫んだのだ。

 それに気づいた誓奈は気配を感じ、デーモンの方を向いてランチャーを構える。

 デーモンは誓奈の姿を目撃し、バッタのような足を利用してジャンプしながら襲いかかった。

 ランチャーのトリガーをおそうとしたが間に合わないと誓奈がそう思った時、人型のが誓奈の前に高速移動で現れ、回し蹴りでデーモンを30メートルほど蹴り飛ばした。

 人型の何かは誓奈に背を向けた状態から、一瞬だけ彼女を見るように振り向き、すぐにデーモンの方へ向かっていった。

 突然の出来事に呆然としていた誓奈の元に沙織が近づく。


「油断はダメ……、命なくなるから」

「うん、ありがとう」


 わざわざ一言声をかけてくれた沙織にお礼を言った時、後方から副隊長がやってきた。

 副隊長がやってきたのを見ると沙織はすぐにその場から、デーモンの飛ばされた方へ向かう。


「黒日隊員、大丈夫か?先程の地響きはなんだったんだ?」


 誓奈は沙織のことは話さず、目の前でデーモンと人型ののことについて急いで説明を行った。



「──宿聖者エクソシスト、やはり来てくれたかい、では……調律を始めようか」


 秋水はチームミハイルのジャスティレイダーに向かって命令を伝える。


「こちら秋水、ただちにレイダーで送られたポイントへ行き、デーモンとアンノウンのどちらとも攻撃してください」



 副隊長と誓奈は急いでデーモンの飛ばされた方へ向かっていた。


「インセクトタイプ以外に人型だと……」


 副隊長の気迫は恐ろしく怖かった、まるで怒りに燃える復讐者のような顔だ。

 隊長と風見、そして小鳥遊と雫は2機のジャスティレイダーでこちらまで駆けつけるらしい。

 副隊長は人型のをデーモンだと言っているが、誓奈には不思議とデーモンとは感じなかった。

 先ほどたまたま救われたこともあるかもしれないが、あの人型の背中を見た時、エゼキールの時に感じた不思議な感覚を思い出したのもある。

 なんでだろう、そう思いながらデーモンと人型が戦闘している場所までたどり着いた。

 どこかで沙織も見ているのだろうと思いつつも、目の前に集中する。

 すると上空に2機のレイダーが現れ、駆けつけてきた。

──きた!──

 安心したのも束の間だった。


「離れるぞ!」


 副隊長が誓奈の手を取って引っ張る、直後にジャスティレイダーからミサイルが何発も発射され、デーモンと人型のどちらも関係なく命中させていった。

──どうして??──

 確かにデーモンかもしれない、だが相手がなにか分からないまま攻撃を仕掛けるのも変な気がしたのだ。

 爆発と煙に飲み込まれる2つの影は、徐々に見えにくくなっていく。

 すると煙の中からレイダーに狙いを定めたデーモンが羽と足を同時に利用して飛び、狙いを定めた。

 狙われたレイダーに乗るのは隊長と小鳥遊の機体だ。

 あまりに素早いデーモンの攻撃、そして鎌のような足を切りつけるように向かっていく様に、その場にいた誰もがレイダーの撃墜を確信した。

 だが攻撃をが当たる直前、地上から飛んできた人型のが身を呈す形でレイダーを守る。

 鎌は人型の右上腕に切り傷をつけた。

 傷からは様々な色の光を放つ粒子のようなものが漏れだしている。

 人型は傷を押さえて苦しむも、とっさにデーモンの背部に掴まって、至近距離に間合いをつめた。

 背中に乗る人型を落とそうとデーモンは高度を上げ、あらゆる方向に旋回しながら、背中から振り落とそうと動き回る。

 だが人型は羽を右手で掴むと、左手を手刀のように構え、光の刃を手の周りに出現させた。

 直後、人型の手刀によってデーモンの片方の羽は切り離され、地上に墜落していく。

 人型の方も力を使い果たしたのか、背中から離れ、デーモンとは違う方へ堕ちていった。

 森の異なる方向へ墜落した2つの影、どうなったのか誓奈もよく分からないままレイダーから司令が入る。


「風見と氷室はデーモンの方を、地上の2人は人型の方に向かっていけ、私は上空からデーモン側の方を狙って待っている」


 隊長の命令はなぜ武装の乏しいこちらに調査させるのか分からない、だが誓奈は何も言わない。


「了解!」


 これだけ言って、副隊長と共に向かう。

 実際誓奈にも人型の方が気になった。

 理由はなく、ただの直感だ。

 人型の落ちたポイントにたどり着くとそこには何も無かった、だがなにかの気配を副隊長と誓奈は感じていた。

──超感覚だ──

 そう感じたが、デーモンの時とは違う違和感だ。

 2人は感覚を頼りに森をしばらく歩いていると、なにかが動く影を見つけた。


「動くなっ!!」


 副隊長がランチャーを構える、誓奈と副隊長は攻撃態勢のまま、恐る恐る影に近づいていくと、その正体に驚く。


「あなたは......?」


 2人の目の前にいたのは以前エゼキール殲滅作戦で出会い、それよりも前に見かけたり、駅でぶつかったあのレザージャケット姿の男だったのだ。





 

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