Episode7 強襲─Assault─


 誓奈と副隊長は偶然にも森を抜けた先で、チームミハイルのメンバーが乗った車が停車している場所へ着いた。


「2人とも無事でよかった、本当によかった」


 車の外で隊長は副隊長と誓奈に向かって声をかけると、他のメンバーも出てきてとても喜んでいる、小鳥遊に関しては泣きかけていた。

 隊長以外はしばらくして車内に戻り、誓奈と副隊長は隊長と話を始める。


「それで、私たちがいない間にどうなっていたのですか?」


 副隊長が隊長に向かって尋ねる。


「あのホテルの爆発で雑魚は大分一掃したが、融合体の撃破は確認されていない、チームジブリールの隊員1人以外こちらに犠牲は出ていないが、生き残りの集団がどこかへ移動しようとしているため、我々は指示が出るまで待機している」

「それを倒すのがチームイスラフィルの仕事だったのでは?」

「チームイスラフィルも頑張ってくれたが、倒しきれていないのが現状だ……やつらの動向を調査しているのが彼らだからな、ジブリールとミハイルは彼ら待ちだ」


 誓奈は隊長と副隊長のやり取りですぐに察した、あの森で遭遇したエゼキールたちもどこかへ向かっていたのだと。


「それより、麻都香の方はなにか問題はなかったか?こっちは爆発後に捜索したが、どこにもいなくてな……上から次の指示まで待機しろと言われてしまったんだ」


 経緯の説明と質問を織り交ぜる隊長の言葉は驚くほどスムーズかつスピーディーだった。

入試の英語のリスニングにように。


「いいえ、近くの森の中まで飛ばされて、黒日隊員と合流後森を抜ける途中にエゼキールたちと遭遇しましたが、撃破しました」


 副隊長はいつものクールな表情で答える。

 副隊長に対し、誓奈は驚きを隠さずにはいられなかった。

 確かに副隊長の報告は嘘ではない、だがでもないからだ。

 副隊長は森であの男の人と会ったこと、アサシンと呼ばれる少女に関することを一切伏せていた。

 それをなんの躊躇いもなく、迷いのない表情で報告したことが意外だったが、なぜか自分はホッとしている。


「そうか……何度も言うが、本当に無事でよかった、すぐに指示は出るだろうが、休んでくれ」


 隊長の言葉を聞き、誓奈は敬礼をした後で車内に入ろうとすると、小さい声で隊長が副隊長になにか呟いている声が聞こえた。


「あたしは麻都香を誰より信頼している……それだけは忘れないでくれよ」


 この言葉の意味を誓奈は深く考えず、休憩に入る。



「次の作戦を言い渡します、仕留め損ねたエゼキールはより大きな集合体となるために集結しながら東に進んでいます、そしてその予測進路には6時間後に人口密集地に達する恐れがあります」


 通信で戦術参謀長の秋水は全チームに説明を始めた。

 表示されたマップとレーダーを見て、背筋が凍るような思いを感じている。

──また、出動なんだ──

 思わず拳に力が入る。


「幸いなことに殲滅作戦の第2フェーズで全体の4割は既に撃破されています、イスラフィルが逃亡群2割を処理したため、残るは全体の4割となります」


 秋水の言葉は普段通り冷静だ、感情なんてないかのようなその言動は、今では狂気すら感じてしまうほど。


「戦闘機タイプのジャスティレイダーだけでは地上全てを対象とするのは不可能ですので、チームミハイルの皆さんには陸上専用戦闘車であるジャスティラッシャーを使用してもらいます」


 ジャスティラッシャーも誓奈が研修中にシミュレーターで運転したあれだ。


──今度は私たちも──


 次こそは倒してみせると決意を胸にする。

 その後、チームイスラフィルとチームミハイルの行動計画を説明され、秋水の説明が終わる。

 チームジブリールは定員不足によりサポートに徹することになったらしい。

 エゼキール討伐最後の作戦が始まる……!!



「周辺住民の避難は済んでいるのか?」

「発令から2時間は経っています、警察や自衛隊も多少は動いているようなので問題はないでしょう」


 隊長と副隊長はジャスティラッシャーの1号車【レオン】の乗車しながら配置についている。

 待ち時間に避難住民について聞いているらしいが、通信はラッシャーの全車両に聞こえる。

 もちろん2号機【ティガー】に乗車する誓奈達にも聞こえており、同乗する風見、小鳥遊、誓奈たちは勝手にこの話を発展させていた。


「避難発令っていっても、急に有害な天然ガス発生なんて言われて信じると思う?」


 呆れたように小鳥遊が喋り出すと、風見は冷静に周囲を見ながら話しだす。


「そのために警察が動いてるんだよ、偽の情報でも信ぴょう性を高める材料は沢山用意しているらしいからね」 


 2車両による迎撃準備は完了だった、あとはジャスティレイダーの攻撃で逃げてくるエゼキールを待つだけだ。

 しばらくすると誓奈にあの違和感、『超感覚』が訪れた。


「きます!!」


 力強い声で誓奈が言うと、全員が超感覚を感じ取り、攻撃準備に入る。

 レーダーに恐ろしい数に反応があり、直後に雪崩のようにエゼキールの分裂体が押し寄せてきた。


「撃てっーー!!!」


 2台のラッシャーから強力な砲台攻撃と、レーザーや小型ミサイルの猛攻撃が始まる。

 ミサイルは群れの中で爆散し、高火力による連続的な集中砲火は周囲に白煙をつくるほどだ。

 轟音が鳴り止む頃には、煙で周囲は見えなかった。

レーダーに表示されたデーモンに反応も消える。


「生き残りがいないかスコープで確認しろ、全方向だ」


 超感覚は未だに止んでいないことから、全員が警戒を怠っていない。

 誓奈もできる限り、周囲を見ようとした時、秋水から通信が入る。


「間もなくチームミハイルの方へ本体、成長融合体が向かっています!!」


 それは突然やってきた、体長30メートルの巨体に恐ろしい速度での移動、巨大なエゼキールの真の本体がやってきたのだ。

 ミハイルの全員が急いで迎撃を始める、一見過剰に見えるようなミサイルやレーザーの数々、しかし確実にエゼキールを倒すという執念がミハイルを攻撃的にさせた。

 誓奈ももちろん例外ではない、私がこの手で抹殺してみせる、そう心に決めていた。

 攻撃に必要な全エネルギー、ミサイル全弾が底をつき、煙が周囲を埋めつくして視覚ではもはや判別できない。

 隊長を含めて、超感覚とレーダーが反応をしたのは同時だった。


「……っくるぞ!!」


 隊長の言葉の1秒後、エゼキールの巨体が2台のラッシャーを押しのけるように突撃してきた。

 あれほどの攻撃を受けながら、エゼキールの本体にはほぼダメージはなく、超重量兵器のジャスティラッシャーも簡単になぎ倒されてしまった。

 車内でミハイルのメンバーは天地がひっくり返ったような衝撃に耐えながら、お互いの無事を確認する。


「みんな無事か?」

「な…何とか……」

「エゼキール、エゼキールは一体どこへ!?」

 

 隊長と副隊長、そして誓奈の声が最初に錯綜する。

 するとすぐに通信がはいり、秋水から現状の説明が端的に行われた。


「チームイスラフィルのジャスティレイダーでも撃破不能でした、想像以上にあの体は強化されている……ミハイルのみなさんは人口密集地に急いで向かってください」


 秋水の説明が終わると、ひっくり返ったジャスティラッシャーの中にいたメンバー全員が叫ぶ。


「──了解!!」


 非常時用コマンドを入力することで、ラッシャーは元の正常な体勢に戻り、急いでエゼキールを追いかける。

──弾もエネルギーも少ないのに、どうすれば──

 誓奈は口では了解と言ったが、万策尽きたと思っている。

 あれほどの大きさ、強力なデーモンなど倒せるわけがないと考えるのが妥当だ。

 特攻でもさせられるのか、そんな不安が過ぎかけると、風見が小さい声で誓奈の気持ちを察したかのように話しかけた。


「大丈夫、きっと戦術参謀長はなにか仕組んでいるよ」


 信じられなかった、あの淡々とした感情もなさそうな戦術参謀長の秋水を、他の隊員は信頼しているのだから。


「全速でも、ちょっとしか差が埋まらない……なんなのあのナメクジ?!」


 小鳥遊は聞こえてないようで、エゼキールの姿を監視しながらイラついている。


「この山を越えたら街は目の前だ、このまま森の中ついて行っても間に合わない、迂回して先回るぞ!」


 隊長の命令によって全速のラッシャーは方向を変え出す。

 2台で山の麓から2方向に先回ることになり、レーダーと目視でエゼキールを確認しながら進み出した。

 すると突如、山の中でエゼキールの周囲が不思議な虹色の光に包まれ、姿を消したのだ。


「レーダー反応消失、波動も検出されません!」


 副隊長の言う通り、誓奈が何度確認してもデーモンの反応もなく、あれだけ猛スピードで山を登っていたエゼキールが姿を消したのだ。

──どこへいったんだろう──

 謎の光に包まれる瞬間を誓奈は目撃した、新しい兵器で撃破したのかと思ったが、隊長が戦術参謀長に緊急報告をしながらラッシャーの速度を下げていることで、違うのだと確信した。

 虹色の光とともに消えたエゼキール、理由や原理は一切不明だったが、あの光を見て感じたことは1つ。


「暖かくて優し…そう……」


 誓奈は夜の空を見ながら思わず呟くような時が流れる。




「では、この状態でしばらく様子を見ればいいんですね?」

「はい、しかしその間に整備班と迎撃ポイントに合流してください」


 ミハイルの隊長と通信のやり取りを終えた秋水は、文字も記号も書かれていない特殊なキーボードを触ってパソコンを触りながら、1人ほくそ笑む。

 ペテン師のような笑い方を一瞬した後、なにかを気にしたように爽やかな表情に変わる。


「やっと来たね、宿聖者エクソシスト


 まるで何かを待っていたかのような秋水の喜びを、知る人は誰もいない。

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