Episode4 悪魔殺し─Assassin─
少女が一瞬誓奈を見たあと、遠くから叫ぶ声がしたた。
──楓さんだ──
そう思って一瞬声のする方を見た時、風が動いたのを感じた。
急いで少女の方を見てみるが、そこにもう彼女の姿はなく、青い炎が燃えているだけだった。
この青い炎はガスバーナーやコンロで見るただの火力が強い色というより、ラピスラズリのような鮮やかで濃い青色であるのが不思議だ。
「大丈夫……この青い炎、あの娘がきたんだ、しっかり燃やしてるみたいだね」
風見は着いて早々あの少女に言及し、すぐに誓奈の体に怪我がないか確かめる。
「怪我は大丈夫です、あの女の子に救われました……私、何もできませんでした」
「まあ、体が無事なら続きの調査を行おうよ、隊長にも終わってから話そう」
風見の優しさが胸にしみる、本当は怖かったし、死ぬかと思った。
今生きていることが幸せだと本当に思っている。
「そういえば、あの少女って……」
「彼女ははぐれ者、私たちのように組織に所属せずにコズミックデーモンと戦っている娘なんだよ、そのことについてもあとで話さなきゃいけないね」
今は調査だ、と強く言われると余計気になるが、歯向かうこともないのでとりあえず調査を続けたが、その日はそれ以降、デーモンを見つけることはなかった。
少女はとある山小屋に着いた。
簡易的に作られ、私有地の山の中にあるプレハブ小屋、もちろん少女以外は誰もいない。
今日の収穫は2体だけだった、もう少しくらい狩れると思っていたのに。
薄暗い部屋の中で、ドラム缶の上に座って一息つく。
しばらくして通信機器に着信があり、急いで出る。
「アン……うん、────分かった、今日は2体だけだったから、体力は温存できてるよ」
3分ほど会話をした少女はプレハブ小屋の外を注意深く監視した後、急いで小屋から去っていった。
誓奈たちチームミハイルのメンバーは、オフィスルームに一旦帰還し、今回の成果内容の報告を戦術参謀長に報告する作業を終わらせた。
そして束の間の休憩時間の最中、待ちきれなくなって風見隊員にあの時の続きを聞いてみる。
「風見隊員、あの……」
「うん、わかってるよ、あの続きでしょ……まあ、とりあえずこれでも飲んで話そうか」
誓奈の聞きたい内容を察した風見は、淹れたてのコーヒーとミルクと砂糖一式を渡し、リクライニングスペースで座りながら話を始め出す。
すると、様子を見ていた氷室や小鳥遊も、仲間に入れて〜、と言いながら共に話が始まる。
「あの時黒日隊員と一緒にいた娘、私たちは『アサシン』というコードネームで呼んでいる……」
「『アサシン』ですか?」
誓奈も知っている、暗殺の意味を持つ英単語『アサシン』だ。
「私たちX.T.A.D系の組織に所属しない、はぐれ者の女の子、そして唯一コズミックデーモンの存在を認知している部外者……かな」
──部外者?──
ありえない、部外者もとい一般人は記憶を消されるはずなのに、活動できるなんて信じられない。
「あの娘は、どうして記憶改変されずに過ごせているんでしょうか?」
「グロウブリゲイドにも彼女と遭遇したら、身柄を確保するように命令は出ている、けれど私たちのチームは隊長が身柄の確保を禁じてる、内緒でね」
あの少女は自分とたいして変わらない年齢くらいだろうに、秘密が多すぎる。
誓奈は風見の話をしばらく黙って聞き、理解することに専念した。
「X.T.A.Dも異端分子とは認めているけれど、私たちグロウブリゲイドに匹敵するコズミックデーモン討伐成果を放っていけないんだろうね」
そういうと風見はコーヒーを飲み出す、飲んでいるわずかな間に、一緒にいた氷室が進んで自ら語り出した。
「実際私たちより戦闘能力は高いよね〜、そういえば『チーム ジブリール』の方々は2ヶ月ほど前に、彼女を拘束しようとして軽くあしらわれてしなったらしいから」
『チーム ジブリール』はグロウブリゲイドの3つのチームの1つで、男性2人と女性3人のチームだ。
誓奈も短い勤務期間に集会で1度だけ接触したことがある。
彼らも相当な実力者であるとは聞いていたが、そんな人たちを手玉に取るほどの実力を、あの少女は持っているらしい。
正直化け物ではないかと思う
「半年前なんか、あたしが倒そうとしたコズミックデーモンを横から勝手に邪魔して倒したの!ホントムカついたけど……隊長があんなのの肩を持つから」
自分より2歳下に小鳥遊が急に大声で会話に割って入る。
──なんか、幼くなった絢可みたい──
友人と同じ雰囲気を感じた誓奈は一瞬微笑ましくなったが、すぐに自ら皆に質問をしてみる。
「でも、デーモンを倒す技術なんて個人が開発できるんですか?」
単純な疑問だった、あの娘が自分でも倒せなかったコズミックデーモンを倒し、青い炎でその体の細胞が消えるまで焼くなんて、現代科学じゃありえない。
「そこなんだよね、噂じゃうちの元職員が情報を漏らしたとかあるけれど……真相は不明、もしかしたら別の組織が裏にいるのかもしれないし、せめて彼女の名前とか分かればね〜」
最後は風見の言葉で終わった会話だったが結局、誰も詳しいことは分からない、それが結論だ。
ゆっくり考える暇もなく、休憩時間は過ぎ去っていく。
暗い会議室、3人の人物が陰謀を企てそうな雰囲気で話をしている。
「──以上が今回の調査の結果です……お望みの結果になりましたか?」
そう尋ねたのはチームミハイルの隊長の堀江だ。彼女はタブレット端末を持ちながら、目の前の佐島と秋水に向かって説明を終えたところだった。
佐島は満足気な表情を一瞬見せたあと、秋水に目をやる。
秋水の顔は一切表情を変えずに、何かを考えているようだった。
しばらくして何かを閃いたかのように、秋水は立ち上がる。
「ランチャーの攻撃に耐えうるだけの強化済みのデーモン……どうやら今回は、少し面倒なことになりそうですね」
堀江にさえ、秋水の考えることは読めない、だがいつも見ている様子からして予想はつく。
なにか作戦を考えているのだと。
高度経済成長期に建てられたホテル、現在は廃屋となったその場所に蠢く影がある。
ところどころ崩れかけている屋内を這うように進むいくつかの生き物……そう、マラスクタイプのデーモンが無数に存在している中、彼らは同じ場所を目指して館内を進んでいく。
レザージャケットを羽織った男は田舎の山道を進みながら、上を見上げる。
そこには廃屋となったホテルに屋根が見えていた。
それと同時に懐に入れていた小刀型の道具を手に取ると、全身が脈を打つような感覚に包まれた。
「間違いない……」
男はあそこを目ざして山の奥へと入っていく。
調査の翌日、チームミハイルは全員がオフィスルームで戦術参謀長から出される命令があると言われ、待機していた。
なんか雰囲気が違う、ということだけは誓奈にもわかる。
昨の調査は隊長伝いだったのに、直々に命令を言うなんて変だ。
──なにかある──
直感には地震があった誓奈だが、この直感は当たることになる。
ルームに大きいディスプレイに戦術参謀長の姿が映し出され、ついに話が始まった。
「みなさんには今回のマラスクタイプのデーモン、コードネーム『エゼキール』の撃滅作戦を実行してもらいます」
秋水の言葉を聞いて、誓奈は目を大きく開いて驚きを隠せない。
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