夜に冗談はダメだ
「どうした?」
「……あぁいや、なんかあんだけど」
放課後のことだ。
友人たちも含めて帰ろうとしたところ、夜が下駄箱の中を見てん何かを取り出すのだった。それは綺麗に折りたたんだ手紙のようで、夜はそれを開いてご丁寧に朗読し始めた。
「……何々、一目惚れしました。放課後に屋上に来てくれませんか?」
「ラブレターじゃん」
「お、相変わらずやるなぁ夜!」
ま、ある意味当然とも言えることなのかもしれない。
夜のこと詳しく知らなければ女である彼女に恋をしてもおかしくはない。見た目から好きになる一目惚れというものだが、それだけ夜の容姿は優れてるからな。
「……………」
まあでも、そんな彼女の今の彼氏は俺だし……当然だが面白くない。
ムスッとした顔を進藤に見られ、楽しそうに笑いながら肩を組んできた。
「彼女さんがモテモテだなぁ?」
「……うるせえよ」
揶揄いは受け付けてねえからやめろ、そんな意味も込めて腕を振り払った。どうやら村上と田中も俺を見て苦笑していたのもあって、首を傾げた夜だったがすぐに俺が何を考えたのか察したらしい。
「へへ、安心しろよ。オレがこの誘いに乗ると思ってんのか?」
そう言って目の前で夜はビリビリと手紙を破った。
「こいつには悪いけど、オレにはもう大事な彼氏が居る。それに……オレの気持ちを受け止められるのは勇樹だけだし」
「……夜ぅ!!」
あぁヤバい、彼女が出来ると男ってのは少し涙脆くなるのかもしれない。手紙を破ったことに関しては相手が気の毒だったが、それでもここまで夜に想われていることが素直に嬉しかった。
「おぉよしよし♪」
何度も言うが今は俺の方が背が高い、それもあって夜が腕を伸ばして頭を撫でてくる。今この場には俺たちと友人たちしか居ないし、俺は大人しく夜の手を受け入れていた……すると、三人がほぼ同時にこんなことを呟く。
「リア充がよ……」
「女の夜……いいなぁ」
「だよな。なあ夜、俺も――」
「嫌だ」
「……………」
村上よ、すまんな。
それから途中までみんなで向かい、そこからは彼らと別れた。当然俺の隣に居るのは夜だけで、彼女は俺の腕を胸に抱いて幸せそうに笑っていた。
「……むふふ~♪」
……ちょっと気持ち悪い笑い声だったのは言わないでおこう。
それにしても……本当に今日だけで俺と夜のことはある程度受け入れられたな。まあ何かを言われたとしても夜から離れようとは思わないが、少し気を張っていたのは確かだったのだから。
「なあ勇樹、今日はうちに来いよ」
「お、それじゃあお邪魔するか」
「あぁ♪」
早く早くと、そう急かすような様子の夜に引っ張られながら俺は彼女の家に向かうのだった。当然おばさんとおじさんはまだ帰っておらず、正真正銘俺と夜の二人っきりだった。
飲み物と菓子を用意するから先に部屋に行っててくれ、そう言われたのでお先に部屋に向かった。女になった夜の部屋だけど全く変わっていない、男の頃のままなのはちょっと安心した。
「お待たせ」
「おう、サンキュー」
散らかっているわけでもないが、絶対に女の子の部屋だとは思えないような部屋に夜が居る……このミスマッチ感が何とも言えない珍しさというか、新鮮さを醸し出しているようだ。
「なんかさ」
「う~ん?」
「夜が女になってもさ、部屋が変わってないとなんか安心するわ」
「なんだよそれ。ゴテゴテのピンクにした方がいいか?」
「やめてくれ」
「だよな。提案した側だけど気持ち悪くてダメだ」
それを夜が言うんだな。
俺は苦笑しながら菓子をバリバリ、ジュースをゴクゴクと飲んでいく。すると夜が俺を見つめていることに気付いた。どうしたのかと視線を向けると、彼女は俺の肩に頭を置くように寄り掛かってこう口を開くのだった。
「……なあ勇樹、何かして欲しいことはないか?」
「して欲しいこと?」
夜は頷いた。
俺は顎に手を当てて考えていると、何とも言えない期待を滲ませた目を夜から向けられていた。……まあ俺もそうだし夜も元男ということで、俺は冗談交じりにこんなことを口にしてみた。
「夜の裸が見たい」
はいキモイわ逮捕です。
言った瞬間に後悔した俺はすぐに冗談だと口にしようとしたのだが、夜は一瞬目を丸くしてすぐに立ち上がった。
「なんだ、そんなことでいいのか? 分かったよ」
「……うん?」
そのまま夜はカーディガンを脱ぎ、制服も脱ごうとしたところで俺は夜を止める意味でその手を握るのだった。
「……まあ待てよ。すぐに脱ぐから――」
「ごめん冗談だ嘘ですごめんなさい調子に乗りました」
時に冗談は大変なことを呼ぶ、俺はそれが身に沁みたよ。
降参するように両手を上げると、夜はなるほどと苦笑したがすぐに頬を膨らませて俺を睨みつけた。
「……ここまでさせて何もしない、勇樹は意気地なしだ」
「ぐふっ!?」
今の一言、鋭利なナイフのように俺の心に突き刺さったぞ。
ていうかシャツのボタンの間から見えるんだよな黒の下着が……ってなんか女性の下着ってエッチだよな。しかもそれに包まれている夜の豊満な谷間も見えて、俺はそこでオーバーヒート状態だ。
顔を真っ赤にした俺を見て夜はニヤリと笑い、俺の体を押すようにしてベッドに押し倒した。両手を塞がれ動けない俺に、はだけた服装で覆い被さる夜が目の前に居た。
「オレは元々男だったし、勇樹とはずっと一緒に居たんだぞ? だから勇樹がどんな言葉に弱いのか、どんな仕草にドキドキするのかある程度分かるんだ。オレも女子の仕草でドキドキする部分はあったし、それは当然勇樹にも通用するよなぁ?」
そう言って夜は完全にシャツのボタンを外した。
重力に従って落ちる大きな胸は当然下着によって支えられているが、この体勢の都合上バッチリとそれが目の前にある。
「ほれ、こういうの好きだろ?」
「むぐっ!?」
夜は俺の顔に胸を押し付けるように体を落とした。
恐ろしいほどに柔らかく、恐ろしいほどに脳をクラクラさせるような甘い香りに俺は包まれた。柔らかいものに口元を塞がれているので空気を求めるように顔をこれでもかと動かす。すると、その柔肉の中で俺は暴れるわけだ。
「あん♪ ったく、くすぐったいぞ勇樹?」
「……むぐぐ」
……何これ、何だこのエロい展開は!
夜は男夜は男……そうやって興奮を冷まそうとしても無駄で、完全にもう俺の脳は夜を女として認識してしまっているのだから。だが、夜はそこで体を離してくれるのだった。
「つうわけで、冗談でも冗談にならないことがあるから気を付けろよ?」
「お、おう……」
「まあでも――」
しかし、気を抜いたところでまた夜が俺の体の上に抱き着いてきた。そのまま頬を胸元にスリスリと当てて感触を楽しむように、夜はしばらくそのままだった。
「こうして引っ付いてるの好きだなオレは。勇樹はどう?」
「……好きかな」
「だろ? オレたち、マジで相性最高だって!」
……夜が強すぎる。
俺は夜に抱き着かれた状態でずっとそう考えるのだった。
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