明確な男女の違い

 朝礼を迎え、先生からも改めて夜のことは伝えられた。俺が予めみんなに言ったのもあって受け入れる反応はやっぱり多かった。男子は俺と友人たちが居るし、女子は金瀬が進んで話をしてくれたおかげだ。


 そして今、肝心の夜はというと女子たちに囲まれていた。

 男だった時もモテていたのでああやって女子に囲まれる姿はよく見ていた。それは女になってからも変わらないみたいで、女子たちは遠慮するどころか友達が増えたのを喜ぶように夜と接している。


「ちっ、イケメンがよ……ってもう言えねえんだなぁ」


 新藤がそう苦笑しながら言った。

 確かにああやって女になった以上そんな風にも言えなくなった。それは別に嫌味でも何でもなく、友人同士の馴れ合いの範疇ではあったが……ちょっと寂しい気もしてしまう。


「でも良かった。夜がすんなり受け入れられて」

「それな!」


 それだけは本当にありがたかった。

 しばらく俺たちも雑談をしながら夜のことを見守っていた。すると、俺たちの中では比較的チャラそうに見える村上がこんなことを口にした。


「にしてもよ……めっちゃ美人だよな」

「確かにな」

「うんうん」


 村上の言葉に新藤と田中が頷いた。


「髪の毛もサラサラだし、顔立ちもびっくりするくらい整ってやがる。おまけにスタイルは金瀬よりも抜群と来た……ありゃモテるな」

「……かもな」


 俺も頷いておいた。

 もう何があったとしても夜は男に戻ることは出来ない。だからこそ、これから先あいつが恋愛をする気になれば相手は男になる。まだ男の心が残ってるのは当然として色々と夜は悩むことになりそうだが……ま、恋愛をしない生き方もあるけれど。


「これからはああやって女子とつるむようになるんかねぇ」

「仕方ねえだろ。俺らは……男だし」


 ……そう、俺たちはもう性別が違う。

 その違いがハッキリと学校の中でも表れていた。


「ちょっと朝比奈君! ここで着替えちゃダメでしょ!?」

「……あ、そっか」


 体育の授業前、男子は教室で着替えるが女子は空き教室で着替えるのが決まりだ。休憩時間になったと思ったらその場で夜が服を脱ごうとし、誰よりも先に気づいた金瀬が夜を連れ出してくれた。


 男女別ということもあって体育の時間は離れることになる。だからこそ、夜は寂しそうに女子たちに囲まれて俺たちに目を向けていた。


「……あんな目を向けられると心が痛い」

「仕方ないっちゃ仕方ないんだけどよぉ」

「……おい、先生呼んでるから行くぞ」

「あぁ……」


 田中に肩を叩かれ、夜から視線を外してそちらに向かう。

 その際に夜がとても寂しそうな目をしていたのを見逃さなかった。時間は流れて昼休みになり、夜が俺たちの方に弁当箱を持って来ようとした時だ。


「どこ行くの?」

「え? 勇樹たちのとこだけど」

「もう女の子なんだしさ。私たちと食べようよ」

「……っ」


 ……まあ、あの言葉に悪意はないしあくまで善意だろう。

 女になってしまったからこそ、女の中ならもっと安心出来るだろうっていう……だがその言葉に夜は一瞬嫌そうにしたものの頷いた。


「そう……だね。分かった」


 ……ったく、そんな顔をして頷くなっての。

 俺は思いっきり大きな声を出すように夜に声を掛けた。


「お~い夜! 早く飯食うぞ~~!!」


 俺たちは既に弁当を広げており、後は夜を待つだけだった。


「そうだぞはよこい!」

「早くしろ~」


 友人たちも俺に乗ってくれた。

 そんな俺たちを見て金瀬も頷き、女子たちに聞こえるように口を開いた。


「確かに朝比奈君は女の子になったけど、今までの在り方を無理に変える必要もないでしょう。朝比奈君のしたいようにするのが一番だわ」

「……むぅ」


 どうにかあの子も諦めてくれたみたいだ。

 夜は安心したように息を付き、笑みを浮かべて俺たちの元に近づいた。いつものように机を引っ付けるのだが、基本的に俺の隣はいつも夜だったので今回もそれは変わらなかった。


「ありがとうみんな」


 席に座った夜はそう言った。

 その言葉に俺は頬を緩ませ、友人たちも同じだったが村上に関しては顔を赤くしていた。


「お前、本当に可愛くなったよな」

「うるせえよ」


 村上の言葉に夜は楽しそうに返すのだった。

 弁当を食べながら雑談をするのはいつも通り、食べ終えてからのんびりするのもいつも通りだった。友人たちがトイレに向かった後、夜は自分の席には戻らずに俺の傍にずっと居た。


「……本当に勇樹が居てくれてよかったよ。

「いきなりどうした?」

「さっき声を上げてくれたからオレはここに居られるんだ……ありがと」

「今更だろ。もっと俺のありがたみを感じるんだな!!」


 傲慢になったつもりはなく、あくまでお茶目なやり取りだ。


「……分かってるよ。本当そう思ってる」


 夜は手を伸ばして俺の手を包み込んだ。

 そのまま胸の前まで持ち上げてゆっくりと言葉を続けた。


「……オレを助けてくれたのも、立ち直らせてくれたのも全部勇樹だ。オレ、勇樹が居なかったらどうなってたか分からない。オレ……勇樹の傍に居れて嬉しい」

「……おう」


 頬を赤く染めて浮かべた笑顔に俺は見惚れてしまった。

 小さく返事を返して目を逸らした俺を見て夜がニヤリと笑った。


「なんだよ勇樹照れてるのか?」

「……ふんっ」


 照れましたけど何か文句あるんですかね。

 クスクスと笑っている夜は本当に楽しそうで、それだけなら何も不安を感じさせない普通の笑顔だった。


「ほれほれ、何照れてんだよ♪」

「だあああああ引っ付くな!!」


 ただ、調子に乗った夜にはお仕置きが必要だと思った。

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