嘘と炎上から

エリー.ファー

嘘と炎上から

 正直に語ってほしいと依頼しても、君にこの言葉は届かないだろう。一生をかけた僕の人生に、何の意味もないことを思い知らせてくれる。

 悪くない心地なのだ。

 美味くいくことばかりだったから、ようやく人並の生き方を知ることができたような気がする。

 実際、挫折していると思われることが多かった、そのために、積み上げた作戦もある。けれど、役にたつような未来など捨ててきたのだ。

 僕は、僕を知っている。故に僕である。

 ここまでは、誰でも積み上げることができる。

 僕から始まる、紹介状。

 届くことはない。

 燃え尽きたはずのあなただから、僕を理解できたのだ。

 炎上しないように、振舞ったつもりだ。悪くないように、してきたつもりだ。

 どうしてだろうか。目が悪くなってしまった。一度でも混ざれば消えてしまうような鮮やかさである。

 僕は風になれなかったわけだ。

 爆発し、風化する。

 けれど。

 炎上から一歩手前のところを歩いている。

「どうして、そこにいるのですか」

 僕は振り向く。

「もうすぐ、ここから遠ざかります」

「行くのではなく、ですか」

「そう、遠ざかります。どことなく、私の意思とは無関係でしょう」

「はい」

「これは流れですから。逆らえるものではありませんから」

「間違っていませんか」

「残念ながら、間違えていないのです」

 僕から、私へ。

 そして。

 あなたへ。

 話しかけてもらえたことが、私の人生のすべてだ。けれど、それは全く重要ではない。多くを占めても、私そのものということにはならない。

 申し訳ないという気持ちが全くない。


 あなたにとっての思い出は、私にとっては全く役に立たないただの芥です。

 不快でもなく、苦しいわけでもありません。

 本当に、断片的にしか分からない記憶。

 申し訳ありません。

 思い出と呼べる代物ではありません。

 本当に、ただ忘れてしまいました。

 たとえ、あなたにとってそれが勲章でも、私にとっては退屈な時間でした。


「あなたのことを絶対に忘れません」

「はいはい」

「あなたとの思い出は特別です」

「はいはい」

「あなたが一番でした」

「はいはい」

「あなたが大好きです」

「はいはい」

「あなたと過ごした時間は宝物です」

「はいはい」

 私は、はいはい、と口に出すこともすら辟易していた。

 もう、終わったのだからいいではないか。

「あなたと私は繋がっていますよね。一緒の心ですよね。これは素晴らしいことですよね。道徳的ですよね。最高の思い出ですよね。そうですよね。間違ってないですよね。絶対に正しいですよね」

「キモいですよ」

 私が歩き始めると、誰かの声がした。本当に気持ち悪い音だった。あれを生き物が発していると思いたくなかった。

 必要のないものを、必要のないものとして片づける。行ったことはそれだけである。最初からなかったものを、なかったものであると言いなおしただけ。

 これからソーダを飲もうと思う。爽やかで美味しいのだ。あとは麦チョコがいい。塩焼きそばも食べたい。

「何かありましたか」

「あぁ」

 私は軽く頷く。

「そりゃあ、何かはありますよ」

「何があったんですか」

「あったというよりかは、なかったことがあったことで証明されました」

「変な話ですね」

 私は鼻で笑った。

「自分でもそう思います」

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