第11話
秋も終わりに差し掛かり街の雰囲気が少しずつ変わる。
といっても会社で何か変わるかと言えばそうでもなく。
いつも通りの日常である。
『ヘーイ宮本せんぱーい、今日飲みに行きましょ~』
「何が先輩だよ。山下先輩」
『宮本君、ちょっと良い?』
腕に抱きつく山下を引き離しながら部長の後を着いていく。
「山下、店は?」
店は決めてないらしい。
誘うならせめて店は決めてこい。
結局行きつけの店。
「『乾杯』」
『かぁ~やっぱり仕事終わりのビールよね。』
『休日で朝から飲むのま良いけどこれもねぇ!』
1口目から何言ってんだコイツ。
てかいくら休日でも朝から飲むなよ。
『それよりさ、2人で飲むの久し振りだね!いつもより早く酔っちゃいそうだよ!』
「もう酔ってるテンションだよそれ」
ヘッヘッヘと笑いながら料理を食べビールを飲む彼女。
『そういえばさ、最近明広明るくなったね。菜緒ちゃん効果?』
ニヤニヤする彼女は真っ直ぐこちらを見詰めてくる、
ここでハッキリ「そうだね」と言える男がモテるんだろうか。
自分は逃げ道を探りながら答えるのが精一杯だ。
「そう?明るくなったなら良かったかな。昔から怖いとか言われてたし。」
『菜緒ちゃん効果かな?』
「それは分から『菜緒ちゃん効果かな?』
「多少は…そうかもしれない」
認めてしまった。
あぁ恥ずかしい。
顔が熱い。
『照れてる辺り、ちゃんと菜緒ちゃんの事見てくれてるんだ』
「なんの事やら」
『良いじゃん。菜緒ちゃん良い子だし。明広と合ってるよ』
会話から逃げる事が出来ない。
壁のメニューだったり厨房の店主だったり様々な場所に目を向ける。
『そういう所。変わってないね。恥ずかしくなったらすぐにキョロキョロするもんね』
ニヤニヤがケラケラになった…
反応で遊ばれてる…
『まあさ、ちゃんと明るくなって良かったよ。前のプロジェクトも成功したんでしょ?仕事も私事も絶好調ですな』
「山下はどうなんだよ。選びたい放題だろ」
『明広に比べたらねぇ。でもまあ、そろそろ前に進まないとね』
『だから、菜緒ちゃん大切にしてね。私は一方的に降られたもんね。誰にとは言わないけど』
ケラケラからニヤニヤに戻った。気まずいのは俺だけらしい。
「え、いや、本当にあれは、申し訳なかったよ。てか菜緒さんとは付き合ってないよ」
『じゃあ菜緒ちゃんが告白したら付き合うの?』
今度はニヤニヤしなくなった。
真剣な目だ。目力が強すぎる気もするけど。
「まあ、うん。でもこういうのって男からした方が良いのかな」
告白。一般的に男がした方が良い意見の方が多いかもしれない。
『それは分からないなぁ~。でも、菜緒ちゃんと一緒に居たいならしたら良いんじゃない?』
『あれだね。恋愛する気になれたんだね。菜緒ちゃん効果は絶大だ。私じゃ無理だったのに』
彼女は少し悲しい表情をする。
箸もビールも進んでいない。止まったまま。
「前に菜緒さんに言われたんだよ。『希望があるから悲しみもある』って、(確かにそうかもな)って思ったんだ。」
「山下と別れた時は、周りが見えてなかった。真っ暗な中に居て、側に居てくれる人も見えなかった。」
「今は、真っ暗でも側に居る人が分かる。前に進む勇気もある」
「皆には申し訳ないけど、幸せになっても良いかなって」
何とも言えない笑顔だったと思う。
ニヤニヤで気持ち悪かったかもしれない。
それでも彼女は涙と共に一言『良かったね』と。
会計を済まして外に出た。
泣いちゃったから奢れとの理不尽極まりない理由で奢らされた気がする。
「山下って、いや、いいや。」
「異動になった。本社に異動。ただ、菜緒さんとの関係終わらしてから行くよ」
『そっか。じゃあ私も1つ。山田さんに告白されたの。返事はまだしてない、そろそろしないとね』
そういえば昔からアイツは決断と行動が早かったな。
「そうなんだ。頼れる奴だよ山田は。じゃあ、また会社で」
『最後にさ、私と付き合って、良かった?』
不安そうに、また涙を浮かばせながら。
「うん。良かった。本当に良かった。山下と付き合えてなかったら、菜緒さんの想いに答えられなかった。
山下だから、菜緒さんとは大丈夫って思えたんだ」
『そっか。無駄じゃなかったね。じゃあ、またね。』
『あ、後、ホントに最後にね。明広が幸せになって怒る人は居ないよ。皆が望んでる事だから。私達4人、幸せになろ』
そういう彼女は笑いながらも涙は流れ、止まっていなかった。
帰る途中、菜緒さんに電話する。
夜の21時頃、迷惑だろうか。正直今はどうにでもなれと思っている。
『もしもし。どうしたんですか?』
優しい声。思いきって言ってみる。
「話がしたいんだ。」
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