第10話
『そうですよね。辛いですよね……』
先輩の背中をさする。
確かに分からない事しかない。
気にした事もなかった。
だから、何も言えない。
薄っぺらく聞こえる言葉しか掛けれない。
「ごめん。冷静じゃない。ごめん」
嫌な声。聞きたくない。
背中をさするしかない…
今となっては抱きつくのも変な気がして、でも出来るなら抱きついてでも…
『先輩は、優しいから。暖かいんです。色んな人からも愛されてるんです。』
『だからって言うとおかしいですけど。先輩は1人じゃないですから。常に隣に人が居てくれるはずです』
『私も、ずっと隣に居ます。だから、先輩が前を向けるなら、、その、私は大丈夫です……しましょ…うか?』
自信もなく。
恥ずかしさと戦いながら。
そっと後ろから抱きついて。
翌日の朝。
結局何もしなかった。
(あれ?私の勇気どこぉ~どこ行ったぁ)
欲がないのか優しすぎるのか。
寝る時はベッドを勧められた。「俺は布団敷くから」と。
なんとなく悔しくて、子供みたいに駄々をこねてベッドで寝てもらい、手まで繋いでもらった。
少し気まずいけど、喋れなくなるよりはマシ。
朝から笑う先輩の姿を見た時は安心した。
・
目を覚まして隣を見ると彼女がいる。
昨日はあの後すぐ寝てしまった。
まさかあんな事を言われると思ってなかったし…
いや、言わせてしまったの方が正しいのか。
布団を敷こうとすると彼女にベッドで寝るように言われた。
色々言ってしまった為に断るのも出来なくて、、
前は酔っていたし、今回は意識してしまう。
彼女に背を向けて寝ようとすると、手を繋げとまで言われた。
朝の会話では気まずいながらも笑顔も出た。
明日の仕事まで引っ張らないように今日中に自然に戻したい。
外を見れば畑の上を赤トンボが飛んでいた。
「菜緒さん。昔『赤トンボ』って呼ばれた練習機、知ってます?多くの若者を育てて、最終的には特攻にまで使われた悲しい機体です。」
『逆に先輩は知ってます?赤トンボ、まあ『トンボ』って昔、交尾してる時の形と日本列島が似てるから秋津って呼ばれたそうですよ。』
『秋津も練習機?も、希望もあると思いません?だって新たな世界が広がる前にあるじゃないですか。』
『交尾も後に子孫を残す為、練習機は乗る人からすれば憧れのパイロットに大きく近づく瞬間です。』
『トンボも練習機も最期はあります。どんな最期も悲しいのは変わりなくて』
『でも、それは希望があるから悲しいんだと思いますよ?』
明るい笑顔と少し自慢気な喋り方。
希望、そういう見方もあるのだと知った。
彼女が帰る時。
2人でもう一度あの部屋に入る。
朝日が入ってスッキリとした。
線香に火をつけ。
2人で手を合わせる。
もう少し、頑張ってみようか。
そう思う。
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