第5話
あれから暫くがたった。結局何も先輩には聞けずにいる。
仕事は順調だったし先輩ともやっと普通に喋れるようになってきた。ただ忘れる事は出来なくて、時間が経つ程疑問も出てくる。
何で隠してるの?
山下先輩は知ってるの?
大変だったはず、何でそんなに普通なの?
何があったの?
それからまた暫くして、先輩が仕事を休んだ。
先輩には理由は聞けなかった。大体分かってしまった。
今日は台湾有事が終結した日、山下先輩に聞くと先輩は『毎年この日は大切な人の日なんだよ。』と言われた。
山下先輩は知っている。
そう思い勇気を振り絞って一言。
『山下先輩、ご飯、行きましょ。』
山下に連れてこられた居酒屋は少しいつもと違う所だった。お酒も料理も美味しい。それより気になる事がある。
もう一度、勇気を振り絞ってもう一言だけ。
『山下先輩、昔の宮本先輩を教えて下さい。』
・
入社して配属される部署が決まった時、皆より大人で、何か怖い人。
それが宮本明広だった。
彼は凄かった。馴れない環境でも1度教われば絶対に覚えてる。
直ぐに私達同期に差をつけていって悔しかった。
誰かが言ったんだ。
『昔同じ様な仕事してたんだろ?そんな奴に俺らの昇進ルート奪われんのかぁ』
良くそんな事言えるなって。
悔しくないの?なんで彼から学ぼうとせずに文句だけ言うの?
気付くと彼しか見ていなかった。彼の背中を追い続けた。
ミスをした時、彼が助けてくれた。
背中しか見せてくれなかった彼が振り返ってくれたみたいで嬉しかったのを覚えてる。
それで、告白して付き合った。
同棲までした。
彼の横に立てたと思った。
初めて見る横から見る彼、彼女の特権を利用して見れた彼の内側は、
生きてるのが不思議なぐらいボロボロ。
紛争があったのは知ってた。
(せっかくこれから就活なのに止めてくれ!)と思っていた昔の私を殴りたかったよ。
奇跡的に与那国島の島民に被害はなくて、転んで怪我をした人が数人だけと聞いていたから。
『なら良かったじゃん』
当時そう言った気がする。
中国軍と自衛隊に死傷者が沢山出たのも知っていた。でも紛争だし、あの人達は仕事なんだから仕方ないと思っていた。
『むしろもう少し死傷者減らせたでしょ』
本当に過去の私を殴りたい。
暫く、彼の話が耳から離れなかった。
正直今も残ってる。
それから直ぐだよ、別れたの。
彼から一方的に、酷いよね?
彼は「俺はこれ以上幸せになれない。怖いんだ」って。
その時の私、まだ子供だったから、限界まで粘ろうとしたの。
いつか折れるんじゃ?って
そしたら彼は泣きながら「散々殺して傷付けて仲間も捨てて、もう無理なんだよ」って。
毎晩夢に出るんだって仲間と敵が…
流石に私も(別れるしかないんだ)って、家に帰って散々泣いたんだから。
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