第4話

部屋には何もなかった。


少し広めリビングに部屋がもう2つ、それにトイレとお風呂。

そこに1人暮らしとはいえ本当に何もない。

テレビは床に直接置かれ、机にはノートパソコン。

そして座布団があるだけ。

物欲が無いのかな?

でもさっきの表情と言い、それだけじゃない…かもしれない…



先輩は1本目のビールを開けてからどんどんお酒を飲んでいった。

ガブ飲みとはこうだなと思う程に


会話はいつもの食事の時みたいな会話。

でも空気が全然違う、会話は雑に塗りつぶしていくみたいで、(今私が何言っても先輩の頭には入らないんだな)そう思った。


彼はすぐに潰れてしまった机に突っ伏して寝てしまっている。

(ベッドは?布団はどこだろう…)

そう思い2つあった部屋を見に行った。最初に見た部屋にあったのは2人が寝ても余るぐらいの大きなベッド。

なんとも言えない。寂しい部屋だった。

とりあえず先輩を起こしに行ってベッドに移って貰った。

先輩は「ごめん、今日はこの家で寝た方が良い。収納の中に布団もある。ベッドか布団どっちかで寝たら良い」とだけ言ってまた寝てしまった。

どうせなら先輩と同じベッドに寝よう、顔が熱くなる。

ただ、先にもう1つの部屋を見てみようと思った。何があるんだろう。

それだけ、ちょっとの出来心だった。

部屋を開けた時、血の気が引いた。

この行動を後悔した。人生で一番の後悔だった。


後悔の他には寒気?恐怖?何だろうか、今日はこればかりだ。


なぜ今まで気付かなかったのだろう。

山下先輩との歳の差、入社6年目、さっきの怖い顔も…

(あぁ……繋がった)




その部屋にあった物。翼、パラシュート、精鋭無比と書かれた旗、棚には線香とロウソク、数枚の集合写真。

写真には迷彩服を着て手には銃を…


『どう…しよ…』


迷った末に私が取った行動は全てを忘れて寝ること。それしか出来なかった。



翌朝、先輩の起こす声で目が覚めた。どうやら朝食を作ってくれていたそうだ。美味しい。

でも先輩の顔を見れない上手く会話も返せない。

一晩で都合良く忘れるなんて無理だ。

とりあえず今日は早く帰ろう、朝食を詰め込み帰る準備を始める。


すると先輩が私を呼ぶ心臓がバクバクだ。


『ど、どうしたんです?』

あぁもうしっかりしてくれ!


「ん?俺昨日大丈夫だった?迷惑掛けてない?」

『は、はい!大丈夫です。何とか、ちゃんと』


「そう」と先輩は安心したように言い例の部屋をチラッと見た。心臓が止まると思った。

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