第2話

「雨靴。長い靴」

 小雨。風の吹き回しの気持ちいい日なのだが、どうやら先から雨が降り続いたようで、凹凸でこぼこのコンクリートには水溜まりをたくさん見かけた。

 ジッとこの場所を観察すれば車の行き来で自然と削れていることが分かる道路コンクリート

 その雨降る道路を横断する少年と少女が二人いた。

 少年は傘を差して、ぽつり降る雨が綿にあたることによって、花火のような音に変化していく現象を楽しみ、少女は雨に濡れてもグシャグシャにならない無敵の長靴のことが、顔には出せないものの関心があるようだった。

「あおくん今笑った?」

 少女は少年の顔にチラリ目をやり、ぽつりと呟いた。

 恐らくは先の独り言についての言及なのだろう。

 少年は耳を澄ましていたわけだから、さっき、口ずさんだ少女の詩を聞かれていたとしても、おかしくはない。

 少年は傘から顔を覗かせて言った。

「トオルのことを笑うわけない」

 笑われることが不満であることが、彼女の顔を見ると分かった。それを少年も悟って少しも面白くなさそうに、また、ちょっと食い気味で返した。

「そうなんだ」

(...聞かれてたのかな?)

 トオルと言われた少女ー浅草通は俯き加減に紅潮した顔を隠した。


「あおくんってさ。私のこと好きなの?」

 少しの沈黙の後、ゆっくりと少女は言った。

 またもや、心の奥の本音が口から漏れたようだった。

 あおー双葉蒼は不思議そうな顔をしてトオルと目を合わせた。...だが双葉蒼は、いつの間にかトオルの顔の反対を向いて『どうして?』と答えていた。

「やっぱ、いい」

「そう」

 まるで返答は要らないと。言ったようだった。またその時も彼女は俯き加減だった。

(...顔が熱い)

「あおくんの前だと、つい口から思ってること、出ちゃうんだよなあ...」

 照れるように、頼りげなく彼女は笑った。

 夕焼けにはまだ早い、そして特別寒いわけでもないのに二人とも家に着くまでほっぺが赤かった。

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