第3話 船上・上
「うわー! すごいですね!」
車から降りた篠原は、目の前に広がる光景に瞳を輝かせた。後部座席に座っていた櫻子と紫苑も降りると、篠原と同じようにそれに視線を向けた。
豪華客船『
搭乗している中には、芸能人や芸術家等の著名な有名人が多い。篠原はドラマで見た事がある女優を見つけて、更に驚いた顔になる。彼女達を、船長や乗組員たちが並んで歓迎をしていた。
『穂乃花』は有名不動産会社が出資して、新たに神戸港を中心にクルーズ船として作られた船だ。真新しく真っ白な船が、九月の残暑の日の光で眩しく輝いている。『特別心理犯罪課』の三人がここに居るのは、新しく刑事局長に就任した
小日向は死亡した
その恒成は九月の秋の異動で、来年の春まで警察庁に出向になった。
この船の大株主である不動産会社社長と小日向には、繋がりがあるらしい。同じ大学の出身で、ゼミが同じだったらしい。小日向に依頼したのは、不動産会社社長――
「けど、紫苑――ドレスコード大丈夫?」
篠原は船から目を離すと、櫻子の隣にいる紫苑に目を向けた。櫻子はいつもと変わらぬ黒のスーツ姿で、タイトスカートにハイヒール。紫苑も、いつもと変わらないシャツに黒いジャケット。ダメージジーンズに、ソールの高いブーツ姿だ。ノートパソコンは背中に背負ったリュックに入っている。
「はぁ? うちは遊びに来たんやない、仕事しに来たんや」
紫苑はどんな手を使ったのか、九月から警察官に採用され曽根崎警察著の職員となった。一応階級は篠原の下の巡査だが、試験を受けて篠原より上に行くと口にしていた。
「いや、警察官なのにその髪やコンタクトも……いいんでしょうか?」
篠原は、櫻子に視線を向けた。櫻子は、心配そうな彼に小さく笑いかけた。
「いいのよ。紫苑は、このままで。刑事局長から、許可を貰っているわ」
ほっとした篠原は、頷くと船の方に振り返ろうと身を捩った。
「それなら、安心しました――では、自分達も行きましょ……って、わ!」
「篠原君、前!」
「きゃ!」
色んな声が同時に上がった。振り返った篠原に、誰かがぶつかった様だ。篠原は無意識に、ぶつかった相手に腕を伸ばしてその体を抱えた。
軽い。どうやら、女性の様だった。
「ご、ごめんなさい……」
篠原の腕にいる女性が、小さな声で彼を見上げた。
「豊城……凛良、さん?」
事前に確認していた、女性だった。淡いチョコレート色のブラウスはレースがあしらわれていて、濃いブラウンのスカートはふわりと優雅に舞う。人形のような可愛らしい服装に良く似合った、姫カットの長い漆黒の髪に大きな瞳。しかしその瞳はどこか遠くを見ているようで、細い体と相まって儚げに見える。
「……はい」
名前を呼ぶ篠原をぼんやりと見返して、そうゆっくりと頷いた。
「怪我してませんか? 大丈夫ですか?」
細い彼女を強く扱っていなかったかと、篠原は慌てて手を離した。写真で見るより、ずっと繊細そうだったからかもしれない。再び、凛良は頷いた。
「あの…私、行かないと……」
凛良はそう言うと、後ろで彼女のヴァイオリンケースを抱えている女性を振り返った。その女性も、篠原に向かってすまなそうに頷いた。
「あ! 引き留めてすみません」
篠原はそう言うと、一歩彼女から下がった。凛良は篠原に頷いてから、彼の後ろにいた櫻子と紫苑に視線を向けた。
――感情が、読み取れない。
凛良は櫻子達にも頷いてから、搭乗口へと向かった。
「ロリータ、似合う子やね」
しみじみと呟いてから、紫苑は篠原の背中をつついた。
「櫻子ねぇがおるのに、デレデレし過ぎやで」
「は!? ち、ちがっ!」
「あはは」
篠原は赤くなって慌てて紫苑の口を塞ごうとする。それを、ひらりと紫苑はかわした。
「ほら、私達も行くわよ」
櫻子が遊ぶ二人を置いて先に歩き出すと、慌てて二人はその後ろ姿を追った。
櫻子と篠原と紫苑――新生「特別心理犯罪課」の事件が、これから幕を開けた。
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