ペットたち

武智城太郎

ペットたち

 この古書店には昔の漫画をさがしによく来るんだけど、今日たまたま見つけたのは、まっ黒でボロボロでズシッと重い本だった。

 もしかしたらと思って開いてみると、ぜんぶ英語で、しかも手で書いたつづき文字だ。五年生になってから英語の授業がはじまったけど、これはぜんぜん読めない。

 でもところどころ、日本語に訳した鉛筆書きのメモ用紙が張りつけてある。たぶん、前の持ち主のものだろう。そこには、〈透視の術〉とか〈恋人を得る呪文〉とかの魔法名と、それをおこなう方法が書いてある。

「やっぱり本物の魔法書だ!」

 ぼくはすっかり興奮して、どんどんページをめくっていく。

〈蘇りの魔法〉というのを見つけたとき、ぼくはハッとして手をとめた。骨さえ残っていれば、死んだ動物を生き返らせることができる魔法の薬なんだって。

 ぼくはどうしてもこの本がほしくなったけど、最後のページに書いてある値段はなんと三万円! とても買えるわけがない。

 でもさ、この日本語訳のメモ用紙は、本の値段にはふくまれないんじゃない?

 ぼくは店の人の視線を気にしながら、〈蘇りの魔法〉のメモ用紙をページからはがすと、こっそりポケットに入れて店を出た。


 まっすぐ家に帰ってきたぼくは、自分の部屋の収納棚の上をジッとながめる。ズラッとかざってある、五つの写真立て。ぼくが飼ってたペットたちの写真だ。

 みんな、かわいくて面白い子たちだった。だけどそんなかれらを、ぼくは寿命がくるまえに死なせてしまったんだ。 

                               

 ①犬のケン太は、リードをゆるめたとたん車道に飛び出し、トラックにひかれて。

 ②ハムスターのハム次郎は、あたえてはいけないお菓子を食べさせてしまって。

 ③ミニブタのプーちゃんは、庭で日なたぼっこをさせてたら野良猫におそわれて。

 ④インコのセキは、部屋で放鳥させてたら、お母さんの掃除機にすいこまれて。

 ⑤ミドリガメのカメ蔵は、水そうの水が深すぎたせいでおぼれて。

 

 運だって少しは悪かったと思うけど、やっぱり飼い主であるぼくのうっかりが原因だ。悔やんでも悔やみきれない。もうけっして、ペットは飼わないと誓いもした。

「だけどこれさえあれば、みんなを生き返らせることができるんだ!」

 ぼくは〈蘇りの魔法〉のメモ用紙をポケットからとりだす。そこには、材料集めから混ぜ合わせる順番まで、魔法薬の作り方がくわしく書かれている。


 二週間後。ようやく完成した魔法薬を手にして家の庭に出る。

 庭のかたすみには、ぼくが作ったペットたちの墓がある。それぞれの名前を書いたアイスの棒を地面にさしてあるのが目印だ。

「よし、やるぞ!」

 ぼくはドキドキしながらビンのフタをあけ、魔法薬を墓下の地面にドボドボとかけていく。〝十年生きた猛毒のサソリ〟だけはどうしても手に入らなかったので、代わりにザリガニを材料に使ったけど、似てるからたぶん大丈夫だろう。

 しばらく待ってると、そのうち墓下の地面がもぞもぞと盛りあがってくる。

「やった! 成功だ!」

「ブヴォーッ!」

 でも地中から飛び出してきたのは、得体のしれない不気味な化け物だった。

「わーっ!」

 あ、ちがう! 一瞬びっくりしたけど、落ちついてよく見てみると、鼻とか羽とか甲羅とか、すごくなつかしい。どうしてかわからないけど、ぼくの5匹のペットがみんなくっついて、大きな一匹になってるんだ……!

「ブゴピヨ! チュワワン!」

「ケン太! ハム次郎! プーちゃん! セキ! カメ蔵!」

 姿は少し変わってしまったけど、まちがいなく、ぼくのかわいいペットたちだ。ひさしぶりに会えて、うれしくて涙が出そうになる。

 そこでぼくは、いちばん気がかりだったことをたずねてみる。

「みんなは、みんなを死なせたぼくのことを怒ってない?」

 そのこたえは、表情とか耳やシッポの動きとかですぐにわかった。かれら動物はそんな昔のことなんかより、今、おなかがすいてることのほうが大事なんだ。

「ブヴヴォーッ!」

 みんなが、ぼくの目の前でグワーンと口を開ける。するどい牙からはよだれがたれている。おどろいた。こんなにも大きく開くもんなんだ。ちょうど、ぼくの身長とおなじくらいかな?

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