犬が可愛い

睡眠欲求

とにかく犬が可愛いから明日も生きようと思った


 人生を変えるのは恋だと思っていた時期が私にもあった。だが、違った。

 私にとって人生を変えたのは犬だった。


 犬…古来より人類の友と言われている動物。

 かわいい。

 とてつもなく、かわいい。

 パピー期(いわいる子犬)の頃の飼い犬を思い出す。

 両手でひょいっと持てるぐらい小さくて、お腹のあたりを触ると心臓の鼓動を感じた。生きてる。あぁ…生きてるんだと思った。


 私はとにかく、疲れていた。毎日、私なりに不器用に一生懸命生きていた。

 馬鹿にされたり、文句言われたり。それでも、ちゃんと人間らしく生きようともがいていた。模索していた。


 犬はパピー期も可愛いけど、成犬はもっとかわいい。

 夕方に散歩に行く。光に照らされて、犬の茶色の毛が神々しい黄金色に染まった。

 何もかもが美しいと思った。ありのままで。世間体もない。ただただ毎日、楽しく生きてる犬。幸せの塊だ。


 老犬期はもっと可愛い。積み重ねてきた時間が犬の目に宿る。この世で一番愛おしい。愛玩の塊だ。犬から見たら、私は寿命が長い種族だろう。私の寿命を半分あげるので、一緒に生きて死にたいと思った。


 私は雑種しか飼ったことがない。

 でも同じ犬種を飼う人の気持ちがわかる。

 二匹目の犬を飼うとき、一匹目の犬と同じ茶色の犬にした。

 一匹目の犬は柴犬気質だった。

 二匹目の犬はラブラドルレトリバー気質だった。

 性格がぜんぜん違った。


 遺伝子による気質というのが、あると知った。

 教育でどうにかできる部分もあるが、気質は生まれ持ったものだと犬が私に教えてくれた。

 だから、気が合わない人間はそもそも生まれ持った気質が合わないのだ。努力ではどうしようもない。


 あぁ…犬よ。

 どうして、お前はそんなに可愛いのだ。

 人間は嫌だ。

 建前、世間体、見た目の美醜。そんなものばかりに気を取られる。

 私も例外ではない。

 犬は自分の容姿など気にしない。

(わたしは自分の顔が嫌いだ)

 アスファルトを爪が叩く。

 ちゃっちゃっちゃっという音が愛おしい。

 目先のことしか考えていない瞳が愛おしい。

 こんな私に会えてうれしいと会うたびに目いっぱい喜んでくれるのが嬉しい。


 犬の目は、餌のこと、遊ぶこと、この世界の景色しか入っていない。

 手が届かない空を飛んでる鳥を、いつか捕らえてやると言わんばかりに眺める愚かな犬。

 でも、なぜかその姿に希望を感じる。私も届かない鳥を眺めようと思うから。


 だから、犬を飼え。人生変わるぞ。

 ただし、毎日散歩にいけること。

 狂犬病の予防接種をすること。

 犬を捨てるな。

 終生飼育をすること。

 それだけは守ってくれ。

 私の人生に恋はないけれど、犬はいる。

 それだけで、明日も生きていけるのだ。



 愛はここにある。

 明日を生きていけるだけの愛が。

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