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「いや、全裸はちょっと【大奥様】に煽られたときに売り言葉に買い言葉でね。しかしまあ、慣れればなかなか良いぞ。君もどうだい全裸」


「くだらな過ぎる……死んでもお断りヨ」


 鼈甲の今日一きょういち侮蔑の込められた視線にさすがの黒狗も少しだけ、ほんのちょっぴりだけたじろぐ。


「そ、そうかい、残念だな。ああ、それから手足については誤解だよ。これは俺の意識もないうちに貢がれたんだ。彼らの忠心を侮辱して貰っては困る」


「ふン。どーだカ」


 鼈甲も気持ちの上では負けていないがその反撃はどうにも苦し紛れだった。言葉の応酬ではやはり黒狗に分があるようだ。

 彼は周囲の気配を探るように視線を低く巡らせると改めて鼈甲を正面から見詰めた。


「さてと、舌戦は嫌いじゃあないが、こうも一方的じゃあ興も乗らない。そろそろ続きといかないか。俺はあの酒を持ってさっさと帰りたいんでね」


「ふン。あれに気付くなんテさすがじゃないノ」


「まあ二つ名は伊達じゃないってとこかな。それより君だよ鼈甲小姐。わざわざ締め切って俺を閉じ込めたってことは、なにか細工があるんだろう? もしかしてこれから毒ガスでも撒いて俺が苦しみ悶えて死ぬところを見物しよう、みたいな愉快なディナーショープランかな? もっとも、酒も肴もないようだが」


 図星を突かれてぎくりとしたものの、黒狗が目の前で自分に囚われている事実に変わりはない。こんな態度所詮は虚勢だと鼈甲は自分に言い聞かせて笑みを浮かべる。


「心配せずトもオマエの死に様を思い出しながらゆっくり吞ませてもらうワ。《大暴食》もここで終わりヨ!」


 それなりに豊かな胸の谷間から取り出した小さなリモコンを操作する鼈甲の顔が、余裕から疑問、そして焦りへと変化していく。


「なニ? どうしテ!?」


「くくく…くはっ」


 黒狗が堪え切れずに笑いを漏らしはじめ、その声に察した鼈甲が顔を上げた。


「まさ、カ…」

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