20

 黒狗がひとり上機嫌で奥の扉を抜けて行く。

 角から様子を覗いた頭を間髪無く撃ち抜き、そのまま死体を蹴飛ばしながら一見無警戒にその角を曲がると、その先には四人が列を組んでライフルを構えていた。

 しかし威力や弾速にどれほどの意味が有ろう。単発で黒狗を撃つというのはあまりにも相性が悪い。視界に入った瞬間にふたり、照準を合わせるより先にもうふたり。引鉄に掛けた指を動かす間すらなく血の海に沈む。


「くははっ、悠長に狙いなんか付けてるからこうなる! もっと思い切って撃って来たまえ!」


 狭い昇り階段へ差し掛かると護衛達はなんとか階上から仕留めようと試みるが、この狭さでは数の理を活かせない。階下を覗き込んで黒狗の視界に入った者から銃弾の餌食となってただひたすら死体を積み重ねていく。

 挟撃しようにもこの館の作りは出入り口が限られていて、ここまで侵入されると窓から階下へ飛び降りるしか背後を取る方法がない。


「ほらほら肝心の頭が丸出しじゃあないか! 全裸のほうがまだマシなんじゃあないかね!?」


 爆発物、せめて手榴弾なりがあればどうにかなったかもしれないが、屋敷の襲撃側ならまだしも警備にそんなものあろうはずもない。物陰から頭を出さずに自動小銃で弾をばら撒くことを試みたものも居たが引鉄を引くよりも銃や腕を撃たれるほうが早く文字通り手も足も出ない。

 まさに無人の野を往くが如く、だ。


 そんな調子で一方的に突き進んでいた黒狗の足が止まった。重厚な扉だ。剣鍵ならまだしもわからないが、黒狗ひとりで破壊することは恐らく出来ないだろう。

 しかしそれで構わないのだ。どうせ鍵は掛かっていない。


「さてと、くく、改めてご対面と行きますか」


 扉を丁寧にノックし、しかし返事は待たず勢いよく開いた。


「お邪魔するよ鼈甲小姐!」


 気分は最高潮だ。

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