18

「じゃ、お言葉に甘えるぜ」


 男は銃口を黒狗へ向けようとして、既に黒狗が小さく身を捻ってその先から外れていることに気付く。しかしほんの少しだ、次の瞬間には射線に……。


 ……入らない。


「どうした撃たないのか!? くはははははっ!!」


 ふらふらしているだけのように見えるが、どうしても銃口と目の前の全裸が合わない。刹那合っても指先が微動するより先に全裸はするりと抜けていく。


「来ないなら、さて、こちらから行こうかな!!」


 その距離僅か十歩足らず。近くなればそれだけまとは大きくなるはずなのに一歩、また一歩と照準が合わないまま間合いばかりが詰められる。

 まさか……。


 黒狗は当然の如くに全裸で鉄火場に乗り込んできてまったく臆した様子も無い。

 そのイカレた主が銃口に晒されていようと手下のふたりはロクに庇おうともしない。

 そして、自分たちの銃弾はそのイカレた全裸に一発も、それこそ一条の掠り傷すらも与えられていない。

 全ての光景が頭の中で繋がる。


 つまり、目の前の酔狂というにも度の過ぎたこの男は、恐るべき精度で完全に銃口を見切っているとしか言いようがなかった。


 この化け物め!


 だったら……だからこそ今すぐ引鉄を引くべきだ。

 手にしているのはフルオートの自動小銃だ。秒間十発以上をばら撒き、その代償として当然反動で手ぶれも起こる。本来ならその精度低下は忌むべきものだが、相手がで躱すのであれば逆にその無作為なにこそ光明がある。

 そしてなにより敵は全裸。致命傷でなくともとにかく一発当たれば一瞬だろうと動きが鈍りあとはそのまま蜂の巣だ。

 男が引鉄を引くと同時に規則正しい発射音と強烈な振動が伝わる。


 が、しかし。


 その瞬間には既に、黒狗は鋭い踏み込みで自動小銃の真横まで間合いを詰めていた。


「くははははは! 惜しい! 実に惜しい! ほんのちょっぴりだけ判断が遅かったなあっ!!」


「なん、がっ!?」


 大口径の自動拳銃が強引に口にねじ込まれる。前歯が折れたか男の口の中に血の味が広がった。


「君のことは本当に気に入っていたのだがね。くくっ、お別れだ」


 黒狗が心底残念そうな笑みを浮かべ、大きな銃声がひとつ響いた。

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