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表向きの社会で生きられなかった自分。辛うじて裏社会で【大奥様】に拾われて、それでもその社会で上手くやれないところを部下達に辛うじて救われた自分と、つい重ねてしまう。
「やれやれ。君はこの世界には向いてないようだ」
こんな言葉になんの意味も無い。
「そうかい?」
男の答えにもなんの意味も無い。
「そうだとも」
黒狗は手の振りでふたりの部下を下がらせて、指揮官の男と同じように自動拳銃の銃口を下げたまま正面に相対する。
片や軍用から流れて来た戦闘服姿に自動小銃、片や全裸に二丁の自動拳銃。不公平のようで、それぞれお互いが選んだ姿でもあり、どのみち当たれば必死であることに変わりはない。
「まあ、とはいえ君のような男は嫌いじゃあない。もしここで恭順を示すならうちで使ってやらなくもないぞ。俺は寛大な男だからね」
悪い話ではない。もはや間違いなく鼈甲娼館は女将の命運と共に今夜で終わりだ。この屋敷にこんな化け物どもを止める手立ては存在しない。これ以上義理立てしても、それは本当に義理に殉じるだけの無駄死にだ。
しかし。
「《大暴食》直々とは破格のお誘いだが、義理を欠いて生きるってのは俺の趣味じゃないのさ」
片頬を歪ませて笑ってみせる。我ながら愚かだ。しかし、虚勢でしかないが、ここで虚勢を張るのが指揮官の、指揮官だった男の生き様だ。
「くくく、趣味と来たか」
黒狗の口角が吊り上がる。彼もまた己の発した問いが愚かなものであるとわかっていた。ここで折れるような相手であれば最初から誘いはしない。手に入らないが故に欲しくなり、こうやってわかっていてもつい口にしてしまう。
悲しいサガだ。
「ああ、趣味だとも」
静かな男とは対照的に肩を震わせ、大きく息を吸い込み、その目をギラ付かせた漆黒の狗が吠える。
「くく、そうか、くはっ、趣味じゃあ、は、仕方がないな! はははははっ! よかろう先に引くといい! サービスだ! 俺は寛大な男だからねっ!!」
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