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「ははははは! さあて諸君、俺は今! この上なく機嫌がいい!」


 大口径の自動拳銃を握ったまま両手を広げて、本当に悪気の無い満面の笑みを浮かべて言い放つ。


「だから今すぐ背を向けてこの屋敷から逃げ出すなら諸君らのことは忘れてやろうじゃないか! 俺もこの酒を不要な危険に晒したくないからね。どうだい、これはWin-Winな取引だろう!?」


 一瞬の空白があって、その場が沸騰した。剣鍵の暴威にすっかり意気消沈し、場違いな笑い声に静まり返っていた空気はどこへやら、全員が気色ばみ手にしていた各々の武器を黒狗へと向ける。


「ふざっけんなよこのキチ〇イ野郎がっ!」


「取り巻きがいくら強くたってのこのこ全裸で出て来やがってこの間抜けっ!」


 叫ぶが早いか引き金が早いかの勢いで鉛弾が飛び交う。


 そう、


 引き金を引いた中から速い順にふたりが即座に脳漿をまき散らして仰向けに倒れた。

 彼らの銃弾は身をよじって避けた黒狗に掠りもせず、黒狗の両手から放たれたそれは過たずに一撃で彼らの頭に着弾した。

 一息も待つことなくさらにもう一発ずつ。発砲した四人全員が瞬殺される。


「くははっ! 俺に弾を当てようなんて十年早かったな!」


 部下が宴会芸ですべったくらいの軽い笑顔で残った面子を見回す。


「さてと、戦意が折れたならいつでも退場して構わないぞ?」


 その声はどこまでも優しく、だからこそ死を直感させるに十分だった。


「俺は寛大な男だからね」


 そう、の男こそが、娼館の元締めなどというしみったれた地位に納まった老婆の子分のただひとりなのだ。

 しかしこの場に居る誰も彼もが、その恐ろしさをようやく本当に理解した。

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