第25話 牛頭の出現
「旭将軍・・・」
粟津の戦いの時だった。
木曽冠者は鎌倉殿よりもいち早く上洛を果たし、後白河法皇は木曽冠者にありもしない旭将軍という称号を送った。
だがその後、後白河法皇は鎌倉殿に旭将軍の追討を命じ、鎌倉殿はそれを承諾した。
「行信、戦じゃ!旭将軍と戦じゃ!」
旭将軍は平家と和平を結んで、鎌倉と対抗しようとした。鎌倉殿は判官様を上洛させ旭将軍と戦わせようとした。
34年前、源氏同士の争いで旭将軍の父は彼が2歳の時に亡くなった。
その敵に鎌倉殿、判官様の父がいた。
つまり鎌倉殿、判官様は旭将軍の仇だったのだ。
「行信、これも世を平和にするための必要な犠牲だ!この先で良き世の中を創るのじゃ!」
判官様はそう言って旭将軍との戦を始めた。
判官様に仕えていた某は旭将軍を倒さねばならぬ。
「まずは、旭将軍と平家との和平を潰すか・・・」
某はうわさを流した。義仲が院を連れて北陸に下向するといううわさを流した。
平家は旭将軍を怪しみ、和平は実現できなかった。
これで戦は判官様の勝利となった。鎌倉殿の代官、蒲殿(かばどの)の兵3万の協力も得た判官様に味方の少ない旭将軍は敗北した。
だが、ここから某の最後の役目がある。
「来たか!」
旭将軍が予想通り今井兼平がいる大津の打出浜に来た。
北陸を目指せば生きれたやもしれん。だが、旭将軍は家臣を見捨てたりはしない。
残り100騎で今井兼平と共に最後の戦いを挑んできた。某は仲間と共に離れた場所で待機していた。
旭将軍が兼平を残して、こちらに向かって独り駆け出した。
某は弓を構え、こちらに走ってくる旭将軍に矢尻を向けた。
「ケェーン!」
遠くでキジの声がなった時、矢を放った。
カァーン!
矢は旭将軍の額に刺さった。
旭将軍の31年の人生が終わった。
旭将軍が真に好いていた巴御前は今は別の男の妻となっている。
* * *
「倶利伽羅峠(くりからとうげ)の戦いでずっと疑問に思っていることがある」
「倶利伽羅峠といやぁ、義仲が平家10万の兵を倒した場所だろ・・・あれ本当か?」
「大げさだ。だが、3万か4万はいたかもしれん。だが、それ以上に気になるのは旭将軍側に妖怪がいて平家の兵どもらを谷底に落としていったらしい」
某が旭将軍で最も警戒していた事はやはり、奴だった。旭将軍が挙兵したのは以仁王(もちひとおう)が旭将軍に近づいたためだ。
以仁王が来なければ旭将軍は挙兵することはなかっただろう。
以仁王の令旨によって挙兵した旭将軍の背後に奴の気配を強く感じていた。
そして鎌倉殿は後白河法皇の追討の命で大義名分で敵でもあった旭将軍を倒した。
「そいつは牛の頭をした妖怪だったらしい。鬼神の配下か?」
「牛頭(ごず)か?」
「あぁ、あくまでもうわさだが、某も粟津でその妖怪を警戒していた。だが、そんな奴はいなかった」
「そいつは鬼神の手下かもしれねぇな。平家が権力を握ったのも鬼神が味方をしていたからだ。だが、奴は清盛に興味があったんだよ。だから清盛亡き後、平家は終わった。義仲は奴が一瞬興味を持ったが飽きた・・・あるいは初めっから弄ばれてたのかもしれねぇ」
「裏切られたのにまた鬼神に頼るのか?」
「みんなそうなるんだよ。人間は運を味方に付けてぇ。それが奴なんだよ。だから裏切られても奴に頼りてぇんだよ!」
哀しくなる話だ。
だが、確かに人間は不幸になることを恐れ、強い力に守ってもらおうとする。
「どちらにせよ今、義仲は俺らに喧嘩売ってんだろ?ぶっ飛ばしてやる!」
ホロの身体が光に包まれる。
そしてホロの頭から狼の耳が現れた。
「どうだ、俺の狼の姿はかっこいいだろう!」
「・・・・・・・・・・」
「何黙ってんだお前?」
「いっいや・・・・そうだな・・・・」
今のホロの姿について自分の感覚とホロの感覚どちらが正しいのか分からなく、答えられなかった。
「お~牛が来たぜ」
ホロが刀を抜いた。
暗闇の中、1頭の真っ黒な牛がいた。よく見ると眼の部分は大きな穴が開いていた。
「式神か?旭将軍の・・・」
某も神斬を抜き牛の動きに警戒した。
牛は前足を蹴りながら頭を下げていた。
「森の奥でもう一頭、様子を見てやがる。俺たちがこの一頭に集中している隙を突こうって腹か?」
「奥の奴を頼む!手前は某が倒す!」
「牛に突き殺されるなよ!」
某とホロは分かれた。
師匠から牛との戦い方を教わった。
まずは直垂(ひたたれ)を脱いだ。
それを牛の前で動かした。
牛は動くものに攻撃したがる。
ドンッ!
なるほど、確かに言われたとおり直垂に突進した。横へ飛びながら、右往左往しながら牛の攻撃を何度も躱していく。
「よし!」
某は牛の前に立った。
牛が突進してきた。
ザスッ!
呼吸を合わせて横に躱しながら牛の腹を神斬で斬った。
師匠の言ったとおりだ、これならば倒すことが出来る。
バキ・・・。
牛が立ち上がった。
姿が人間のようになっていく。
「やはり・・・いたのか!?」
大岩のような人間の身体に牛の頭、右手に剣、左手に盾を持った牛頭が現れた。
「グゥオオオオオオ!」
しびれが来る牛頭の叫びに腹の底の奴の血が騒ぎ出す。
「おい牛!死にたくなかったら義仲がどこにいるか教えろ!」
ホロもやって来て牛頭に怒鳴った。
「グゥオオオオオオ!」
牛頭が剣を振り下ろした。
ホロは躱した。
風がおきるほどの勢いで盾を某に振ってきた。
躱したが剣も某を襲ってきた。
シュ!
躱しながら、手裏剣を放った。
牛頭の片目に当たった。
「よっしゃ、隙があるぜ!」
片目に手裏剣が刺さって動きを止めた牛頭にホロが突進して飛んだ。
刀で牛頭の首を飛ばそうとした。
牛頭はホロの攻撃を盾で防いだ。
「お~以外と反応が良いじゃねぇか!?だがよぉ、おめぇやっぱり図体でかすぎだぜ!」
確かにホロの機敏な動きに対して牛頭は反応が鈍かった。ホロの攻撃に牛頭は反撃したくても盾で防戦しかできなかった。
「そろそろ止めだ!」
ホロが牛頭の盾をかいくぐって止めを刺そうとした。
ドォン!
「うおっと!」
牛頭が飛び上がった。
意表を突かれたホロは後ろにさがった。
ホロと距離を開けた牛頭は背を向けて全速力で走り出した。
「サクヤ様を狙う気か!?」
某が手裏剣を放った。
牛頭の背中に刺さったが、牛頭はそのまま走った。
某とホロも後を追った。
ダッダッダッダッ!
「でっかい図体して足速いぞあいつ!?」
「牛をなめてはいかん!」
ホロと某は足は達者だが牛頭も速かった。
「おい、光見ろ!」
「サクヤ様!?」
牛頭の先にサクヤ様の姿が見えてきた。サクヤ様は立ったまま右手で刀印を作っていた。
牛頭が剣でサクヤを突き刺そうとした。
その瞬間、牛頭の足が止まった。
牛頭の足下に五芒星が現れた。
岩の陰から青い甲冑を身につけ弓を構えたククリが現れた。
「終わりじゃ!」
ククリの右手から矢が現れ髪が水色に輝き出す。
渾身の一矢を牛頭の心臓に放った。
牛頭は炎と共に消えた。
ザッ!
ククリの横から一騎の騎馬武者が現れ、ククリに太刀を振った。
「あぅ!」
ククリはとっさに躱したが右腕を切られた。
騎馬武者はサクヤを片手で掴むと走り出した。
「待たぬか!」
右腕から血を流しながらククリはもう一本、矢を具現化させると放った。
矢は兜に当たったが弾かれた。
騎馬武者は森の奥へと消えた。
「ククリ~~~~~~~~!」
「わらわは無事じゃ・・・だが、サクヤ殿が・・・」
「ホロ、お主はククリ殿の側にいてくれ。あとは某だけで行く」
某は後を追った。
少し走ると目の前に甲冑武者が弓を構えていた。
「義仲か!?」
バッ!
旭将軍が放った矢を躱した。
旭将軍はそのまま真っ直ぐ走って消えた。
某は後を追った。
* * *
暗闇の部屋でサクヤが座っていた。
目の前に薙刀が置かれ、甲冑武者が立っていた。
旭将軍こと源義仲だ。
「これでわたくしにどうしろと?」
旭将軍は何も答えず。薙刀を手に取るともう一度サクヤの前に置いた。
サクヤは目の前におかれていた薙刀を取った。
「わたしとて・・・戦えます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます