第24話 闇夜の太陽
「どこだここは?」
猫又に教えられた異界から異界への抜け道を歩いていた。そこは最初は小さな岩穴だった。
腰をかがめながら歩いていた。
やがて、腰をかがめなくても良いくらいに天井が高くなり、その天井はどんどん高くなり、狭かった幅も広くなり、いつの間にか我らはとてつもなく大きな岩が転がっている川原を歩いていた。
「あと、今何時だ?」
「多分、丑の刻あたりだと思うが・・・それにしては川がやけに綺麗だ・・・」
ホロが川を見て不思議がっている。
確かに辺りは闇に包まれているのに側を流れている川は青々しく透き通っていた。
そして太陽に照らされているかのように光っていた。
「あれが照らしてやがる!」
「あの妙な月か?」
空には大きな月が昇っていた。
「・・・見ていて怖くなるな」
その月は赤く照っていた。
「いや・・・あれは太陽だ・・・」
「太陽!?」
ホロがおかしな事を言った。
「今は丑の刻であろう?」
「あぁ、だがあれは間違いなく太陽だ・・・周りを照らしては
いないが、この川だけは照らしてやがる・・・」
某は見直してみた。
「・・・太陽だ・・・」
光が四方八方に伸びている。
あの輝き方は月ではなく太陽だ。
「ホロ、異界にはあんな太陽が昇るのか?」
「いや、俺もあんな太陽は初めてだ。確かに異界ってのはとてつもなく広いから、あんな太陽があるかもしれん」
不気味な場所だ。
もう一度辺りを見回す。
「この景色はどこかで見たことがある・・・」
どこかで見覚えのあるような景色だった。この川の形もどこかで見覚えがあった。
「・・・まさか、ここは木曽か!?」
「何、木曽?」
昔、判官様に会いに奥州に行った時に見た木曽の光景だった。岩や川が本物より大きいが、この光景は間違いなく木曽だ。
「何言ってんだ?ここは異界だぞ?」
「だが、この光景は木曽川によく似ている。何故だ?」
「・・・光さま」
サクヤ様が怖がりだした。
震える身体を抑えている。
「サクヤ様どうなされました?」
「・・・誰かが、誰かを呼んでいます・・・」
「それは真ですか!?」
「はい・・・」
サクヤ様は耳を研ぎ澄まして聞いた。この地の何か不吉なものをサクヤ様が感じ取った。
「ククリ殿は何か感じ取れますか?」
ククリ殿にも尋ねてみた。
「わらわが感じておるのは、あの太陽とこの川じゃ・・・」
「太陽と川?」
「あの太陽、この川から離れたくないのかもしれん・・・それで丑の刻じゃというのに沈むことなく、空に浮かび続けておる・・・」
「どうやら、出たみてぇだな・・・」
ホロも何かを嗅ぎ取った。
「奴が来たのか!?」
「いや、人間くせぇ・・・怨霊だな!」
虫の声一つしない周りをこちらも音を立てず警戒した。だが、怨霊は現れない。
「・・・どこかで罠を仕掛けているのやもしれん・・・その怨霊が鬼神の配下であれば、確実にこれは罠だ!」
悔しさと恐怖が襲ってくる。我らは奴を欺くように異界への道を歩いたつもりだった。
「筒抜けなのか?・・・我らの行動は?」
「ケェーン」
キジの鳴き声がした。
「キジだと!?」
その鳴き声に某の心がざわついた。
「取り憑かれています!」
サクヤ様が叫んだ。
「怨霊はわたしたちに取り憑き、叫んでいます!」
「何と?」
「巴(ともえ)と呼んでいます!」
「巴だと!?」
巴の名を聞いて某はこの光景に納得がいった。
太陽と川。
あの御仁だ。
そしてこの光景は、あの御仁が強い怨念で、幻術を見せているのに違いない。
「その怨霊、知り合いか?」
ホロが尋ねた。
某はホロにその怨霊を教えた。
「旭将軍だ・・・」
「旭?あぁ、木曽義仲か!?あいつは粟津(あわづ)の松原で馬の脚が深田に取られたところを討ち取られたんだろ?額を打ち抜かれて」
「其れがしが討ち取った・・・」
「何、お前か!?戦で負けた恨みか?」
「違う恨みはそこではない。巴御前だ!」
旭将軍には共に野山を駆け巡っていた幼なじみの女がいた。
巴御前という女武者だ。
正妻にはならなかったが、おそらく旭将軍が一番好きなのは巴御前だろう。
巴御前はまだ、生きている。
「だから、自分も死にきれないのか!」
「ホロ、この足跡を見てみい」
ククリ殿が川原に付いた足跡を見た。
その足跡はまるで2本の角が寄り添うように付いた足跡だった。
「こりゃ牛の足跡じゃねぇか?」
「・・・この牛・・・立って歩いておらぬか?」
ガァン!
突然、暗闇から一頭の眼に大穴が開いた黒い牛が岩を砕いて突進してきた。
「みな避けろー!」
某が叫ぶと皆、牛が突進する進路から逃げた。
間一髪、全員牛の串刺しにならず、避けることが出来た。
「このやろう!」
ホロが刀を抜いた。
牛は振り返り、再びこちらに突進した。
ホロも突進した。
ガッ!・・・・ザザザザッ!
牛がホロを突き飛ばそう角を振り上げたが、ホロは牛の角を掴んで牛の喉仏に刀を刺した。
牛は、炎に包まれて消滅した。
シュ!
ホロが牛を倒したと同時に矢が飛んできた。矢はホロをかすめ、サクヤ様のところまで飛んできた。
パシッ!
間一髪、某が矢を掴んだ。
カッ、カッ、カッ・・・・。
森の奥で馬の蹄の音が聞こえた。
「ケェーン!」
キジの鳴く声がした。
粟津で旭将軍を討ち取った時に聞こえたキジの鳴き声だ。
「ちきしょう~、鬼神は我らがここへ来るのを知って、旭将軍をここで待ち伏せさせていたのか?」
「ちなみに光、旭将軍はそんなに巴御前が好きなのか?」
「旭将軍は正妻とは子供を作っていない。だが、巴御前とは2人の子供を作っている」
「なるほど、鬼神のやろう恋の怨みを利用しやがったな・・・倒しちまおう!」
「旭将軍は姿を隠している。旭将軍を探さねばなるまい・・・だが下手に森の中でどこにいるか分からぬ旭将軍を探すのは大変だ」
森を見回した。
旭将軍は襲ってこないようだ。
「ホロ、森を見て何か感じるか?」
「・・・手練れの妖怪が潜んでいる気がするな・・・下手に森の中に入ると罠にはまってあぶねえ・・・この川原なら周りも見えて安心だが・・・」
「だが、ここで動けずに我らの体力が尽きても奴の思惑通りだ・・・」
「この際、森の中に入って義仲をおびき出したらどうだ?どうせ森の中に入ったら義仲が出てくるんだろ?」
「そうはいってもサクヤ様も守らねばならぬ!」
牛を相手にしながらサクヤさまの身を守り、旭将軍を探し出す。
どうすれば?
「サクヤどのはわらわが守る。安心せい」
ククリ殿が弓を構えて応えた。
「先ほどは避けてしまったが、次に姿を見せることが出来たらわらわの弓で射貫こう」
サクヤ様を見た。
サクヤ様は頷いた。
「ククリ殿、お頼みします」
「そなたも死ぬでない」
「よし光!俺達でおびき寄せて義仲を引きずり出すぞ!」
作戦は決まった。
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