第7話 神を斬れる太刀
「つまり、この先はあたいを信じてあたいの言う道に従うか、疑って自分が思う道を行くか?」
太郎坊殿が2択を迫ってきた。
師匠が言っていた。
生きるためには信頼できる仲間が必要。自分1人の強さなどたかが知れている。
故に自分を助けてくれる仲間が必要。
だが仲間というのがくせ者である。
仲間と思っていた相手の裏切りによって死ぬこともある。
「選択を間違えたら?」
「太刀は手に入らない。あんたはバカ」
社の左奥を見た。
道がある。
人間界の鞍馬山では魔王殿へと続く道がある。だが、異界のこの鞍馬山ではどこに続くか分からない。
太郎坊殿は知っている。
太郎坊殿が必要だ。
だが、太郎坊殿には過去に何度か振り回されたことがある油断ならぬお方である。
信頼とはこのような時に確かめるものか・・・。
「・・・信じよう」
太郎坊殿を信じることにした。
太郎坊殿が眼を細めた。
背中に一筋の寒気が走った。
「ではこちらに来なさい!」
太郎坊殿が某の腕を掴んで社へと入っていった。そして本殿右奥の階段を降りていった。
「広い・・・迷いそうだ」
この異界の本殿にも地下はあった。
その規模は人間界とは比べものにならない大きく、いくつもの道に分かれている回廊があった。
「さぁ、行信。進みなさい!」
太郎坊殿が先を進めと言ったので進んだ。天井や壁のほのかな光が夜に見上げる星の光よりも綺麗に感じる。
この中にどんな罠が仕掛けてあるか分かったものではない。
無数の道の一本の奥に最も光り輝く道があった。
「いっくよ!」
太郎坊殿を信じてその光輝く道を進んだ。無限に続くかのような回廊の暗闇に浮かぶ無数の光。
綺麗ではあるが、怖さを感じる広がりと深みの光の世界だ。
後ろから太郎坊殿がついてくる。正直、守護神なのか死に神なのかよくわからなかった。
突然、光が消えて漆黒の闇と化した。
「太郎坊殿、某から離れないように!」
「行信・・・あたいを守ってくれるの?」
「あ・・・」
太郎坊殿の手を握ってしまった。
仲間を守らねばと、思わず女天狗の太郎坊殿の手を握ってしまった。
暗闇で助かった。
今、某は火が出るように顔が真っ赤に違いない。
「行信、向こうに小さな明かりが見えるよ!」
太郎坊殿が指さす方を見た。右側の方にうっすらと上道が見え、その先に小さな明かりが見えた。
そこに行けば、暗闇の中で震える自分を救ってくれるように思えた。
「あの光、危ないよ・・・あたいを信じて・・・」
側で太郎坊殿が怖いことを言う。
太郎坊殿を信じるべきか。
「・・・左に別の道がある・・・」
左から下から吹いてくるわずかな風を感じた。
下へと続く道があるのか?
「おっ見つけたな!急勾配で滑り降りたら戻れないよ!」
「行きましょう!」
左へと歩を進めた。
そして勢いよく滑り落ちていった。
ドン!
「・・・暗いな」
滑り落ちたのは所は、ほのかな光もないさらに暗いところだった。
「大丈夫。今明るくしてあげる!」
太郎坊は刀印を作った。
「行信、あたいが今から光を出すけど・・・敵も来るわよ」
ガン!
「なっ!?」
太郎坊殿がそう言った途端に何者かが暗闇の中、某を襲った。某は地面に倒れた。
何者かが乗っかかってくる。
「ぐっ!」
一発くらった。
暗闇の中で見えぬ敵と戦わねばならなかった。
感触からして人間と同じ姿の妖怪か?
何かとてつもない恐怖を感じる。
「行信、死んじゃうよ~」
太郎坊殿の笑い声が聞こえた。
やはり騙されたのか!?
「冗談では無い!」
腹の底から力が湧いてきた。
敵の振り下ろした腕を絡めとった。
形勢逆転、今度は某が上で相手が下になった。
ドン!
一撃を食らわした。
「すぅ・・・・・・」
冷静になるために大きく息を吐いた。
奴の力は出てきて欲しくない。
「幾億の光よ、我の元に集え!」
太郎坊殿の周りから星のような無数の光が現れると、周りに飛び、部屋を明るく照らした。
「!?」
襲ってきたのはもう1人の某だった。角が生え、恨めしい眼で自分を見ていた。
「ガァアアア!」
大きな口からとがった歯が見えた。
その姿は自分が一番なりたくない、姿だった。
「あんたは偽物、本物の行信はあなたのように弱くは無い!」
太郎坊殿が鬼になった某の襟を掴んだ。
太郎坊殿が鬼になった某を某から引き離した。鬼は恨みを込めてこちらを見ている。
「・・・貴様のようにはならぬ・・・」
毅然と言い放つと鬼になった自分は消えた。
消えたところで辺りを見回した。
先ほどまで回廊にいたはずなのに、いつの間にか本殿に戻っていた。
そして外に鳥居があった。
「あの鳥居をくぐれば、鞍馬がいるわ」
太郎坊殿が背中を叩いてそう言ったが、太郎坊殿の眼が何やら怖い。
「あたいが信じられない?本殿の横に道があるよ」
本殿の横には道がある。
それが正解か?
最後の最後で罠がある。
よくあることだ。
師匠が言っていた。
人間が迷ったときに求めるのは正しい判断。
だが、結局は己の判断。
心を落ち着かせ、己の力量で判断する。
その結果は紛れもなく己の判断。太郎坊殿を信じるも疑うも、己が選んだ結果。
「行きましょう」
鳥居へと足を向けた。
ゆっくりと歩を進める。
「行信・・・おめでとう・・・」
無事通り抜けた。鳥居をくぐり抜けると、別の山のてっぺんにいた。
後ろで太郎坊殿が優しい笑みで両手を握ってくれた。
「ねぇ、行信。あんたはどうしてあたいを信じたの?あたいは嘘を平気でつくのは知ってるでしょ?」
「確かに太郎坊殿の嘘つきは油断なりません。ですが太郎坊殿は・・・仲間ですので・・・」
耳がかゆくなったので耳をかいた。
そんな某に太郎坊殿の顔が近づいた。
「あんたが奴の苦しみをずっと耐えているのをちゃんと知ってるよ・・・だからあたいを信じてくれてうれしい!」
太郎坊殿にそう言われるとますます耳がかゆくなってきた。
「一つ忠告!」
「何でしょう?」
「女選びは慎重に。世の中には良い男をだまして自分の思い通りに操る腹黒い女がいるからね!」
「おー、ここまできおったか」
「あらあ、くらまー!」
師匠が空から降りてきた。
「まぁ良いだろう」というような表情だったが合格したことは間違いない。
それ故、師匠は約束の太刀を某の所まで持ってきてくれた。それは真っ白な鞘に収まっていた。
「この太刀は強力だが、これを持っただけであれを斬れるほど奴は容易ではない。一番肝心なのは己の強さ。仲間と共に修行を怠らぬ事だ。汝を信じ、この太刀を授けよう!」
「ははっ!」
師匠から太刀を授かった。
「・・・重さを感じない?」
軽いわけではない。
受け取ったときは確かに重さを感じた。
だが、握ると他の太刀に比べて身体と一体になった気がした。
鞘を抜いた。
刀身が透き通り向こうが見えていた。その刀身に呪禁が掘ってあった。
「これを人間が作ったのか?」
「人間の力も侮るなかれ・・・だが、それ故に、あれの餌食にもなる」
「名は何と?」
「神斬(しんざん)!」
「しん・・・ざん?」
「1人の刀工が最強の太刀を目指して、ついに神をも斬れる太刀を作り上げた。故にふさわしき者が持つべき太刀じゃ。それを授ける」
「ありがとうございます!」
「もとの鞍馬山には来た道を戻れば良い。普通に下山できるぞ」
「はっ」
行信は神斬をもらって下山した。
「ねぇ鞍馬、行信に神斬を渡したのは何故?だって今まで、人間の弟子に強力な武器を渡さなかったじゃ無い?」
太郎坊が鞍馬天狗と二人っきりになると、神斬を行信に渡した理由を尋ねた。
弟子の背中を見ていた鞍馬天狗はゆっくりと口を開いた。
「行信は8人目の弟子だ。あの娘が弟子になって間もなくあいつが弟子になった。8人弟子を作って4人あれに殺された。行信はあれの血を飲んで生きておる」
「仇討ちでもして欲しいの?」
「生きて欲しいんだよ・・・約束があってな・・・故に生きて欲しい」
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