金子ゴジラ
私は山根美恵子の家に向かっていた。鉄菱姉に倒された後、目を覚まして直ぐに山根美恵子の家を目指した。
「今から山根美恵子に会うっていうの?」
「あなた死にたいの?」
鉄菱姉妹はそう言っていた。
「会わずにはいられないのです。」
私はそう告げると空手道場を後にした。
山根美恵子とは何者であろうか。道中そればかり考えていた。怪獣の王ゴジラである事は間違いない。しかし、ゴジラと言えども色々いる。初代ゴジラは災害であった。破壊の限りを尽くしたゴジラはオキシジェンデストロイヤーによって葬られた。災害にコミュニケーションの余地はない。ただし、時が進むにつれてゴジラも変わっていった。そしてゴジラもコミュニケーションが可能となったのだ。叫び声は変わらない。あのコントラバスの重低音。ジェットジャガーがゴジラを呼びに行き共闘した。吹き出しでアンギラスに命令する場面もある。ゴジラは他の怪獣とコミュニケーションが取れるのだ。
また人類もゴジラとのコミュニケーションを試みていた。ESP、つまり超能力によるゴジラ探索などを行った。小美人がテレパシーによってコミュニケーションをとっていたことから、怪獣との交流に超能力を持ち出したのは自然な事だと言えるだろう。
モンスターバースのゴジラもまたコミュニケーションが可能であることが伺える。米国艦隊と並走するゴジラ。モスラがゴジラに呼びかける。何よりオルカという怪獣コミュニケーションツールが登場したことがそれを決定づけている。
山根美恵子はどうか。コミュニケーションは可能なのであろうか。私が知っている山根美恵子は暴力の権化だった。山根美恵子に蹂躪される男子達。振り上げられた包丁。殴られた感触。包丁が刺さった痛み。対話可能だとは思えない。例えるならば金子ゴジラのようである。
『金子』ゴジラについて軽く説明しよう。ゴジラは監督によって多種多様な解釈がつく。ゴジラに監督の名を冠する事でゴジラを区別することが界隈では一般的である。
金子ゴジラの特徴は完全なる悪役である。人類の敵、恐怖の象徴だ。特にゴジラ✕モスラ✕キングギドラ大怪獣総攻撃におけるゴジラが特に色濃く描写されている。ゴジラとは怨霊の集合体であるという。世界大戦で散っていった人々の怨霊が集まりゴジラ姿を変えた。このゴジラは白目を向いて街を壊し人々を殺し続けた。
しかし、山根美恵子は学校へとやって来たのだ。それは次の事を意味している。山根美恵子には正気の状態もある。でなければ、学校に来る、最低限の生活を営む事すら出来ない。
つまり、憑きもの筋みたいなものか?ならば、やはり山根美恵子はゴジラであったのだ。
山根美恵子の家についた。前回よりも荒んでいる。壁の一部が破壊され柱がむき出しになっている。家の周りには焼け爛れたカラスが散乱していた。
熱線か!?熱線すらはけるのか、山根美恵子は。興奮が隠せない。居ても立っても居られずチャイムを押した。
せめて鉄菱姉妹にモスラの歌を歌ってほしかった。そうすればモスラがやって来る。ゴジラ✕モスラ✕メカゴジラ東京SOSの展開に持ち込めるはずだ。しかし、今は私1人。援軍は望めない。
山根美恵子は現れた。寝間着姿の彼女は焦点が定まっていない。寝起きなのかもしれない。私を確認すると、何故ここにいるのかわからない、という顔をした。
まるで憑物が落ちたような山根美恵子の姿に動揺した。私はゴジラとしての山根美恵子しか知らなかったのだ。理屈ではわかっていたつもりではあったのだが、実際に目にすると大きな失望を隠せなかった。
怯えて動け無い山根美恵子。今すぐにでも家の奥へと逃げ帰りそうだった。それを引き止める為に私はこう話始めた。
「はじめまして。山根美恵子さん。わたしは……。」
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