第七章

 ★


「……どっかで聞いた台詞だな」

 いつだかのふざけたやりとり。覚えていたのか。

「ふふ。流石に扇子までは用意できませんでしたけれど」

 格好付けてる羽伊奈に俺は言った。

「格好付けてるとこ悪いけどさー。台詞と状況、大して噛み合ってなくね? 真実を暴くも何も。羽伊奈も知っているとなれば、ここにいるほとんど知ってる周知の事実みたいなもんだし……ふっくく。くくくく。って、あいったあっ!」

「うっさい!」

 言ってる内におかしくなって笑ってしまった俺にスコーン! と、何かが当たった。

 頭を擦りながらなんだこれ、と手に取ってみれば扇子だった。漆黒の、羽伊奈によく似合いそうな高そうな一品。

「持ってんじゃねえか!」

 扇子片手に思わずツッコんだ。

「そこまでやるのは恥ずかしかったんですわ!」

 ふん、と腕組して、赤くなってそっぽを向く。

「かわええ……」

 見て見て? 真っ赤になってるよ? 見て。あの子。あれが俺の彼女さん。

「阿呆カップル……」

 俺の言葉に、詩衣奈が呆れて頭を手をやって首を振っている。

「あなたは確か――」

 呆けていた井ノ瀬さんが詩衣奈に目を向けた。

「そこで阿呆面晒してる奴の姉。姉って言っても双子だから歳は同じなんだけどね。数分差ってやつ。若紫詩衣奈。よろしく」

「おんなじ、名前なんだ……」

「そ。パパもママもどうかしてるわ。双子だからってんで同じ名前付けるんだもの。余計にわかりにくくしてどうすんのって話よ。詩衣奈と椎那。だから私はそいつのこと、あまり名前で呼ばないことにしてんのね? 自分で自分の名前呼ぶのってなんだか気持ち悪いんだもの。そいつは気になんないみたいだけど。まあ、しいなって男でも女でもイケる名前よね。そこはパパとママにちょっと感心してるの。よく考えたもんだなーって。あ、ごめんね? 私もそいつと一緒でお喋りだから。そいつ程じゃないけどさ。とりあえず、服着たら?」

 そこで始めて己の格好に気づいたのか井ノ瀬さんは赤面して自分を抱いた。

 俺は少々の気まずさを感じながらも井ノ瀬さんに服を渡す。井ノ瀬さんは受け取ってのそのそと下着を付けだした。

「あなた――良子さんだったかしら? 酷い格好ね。未無生さん。ブレザーを貸してあげなさい」

「なんでわたしが」

 井ノ瀬さんがシャツを着ながらも不満そうに漏らした。

「あなたがやったんでしょう?」

「……」

 その言葉で結局何も言えなくなったのか、椅子に掛かっていたブレザーを機嫌悪そうに良子に手渡した。良子は毟り取るように受け取って、ぼろぼろになったシャツの上から羽織った。羽織るだけ羽織ったという形だ。

 そんな着方でも、残念ながらパイパイは見えなくなってしまう。

「眼福タイム終了のお知らせ!」

「……椎那さん。喋るとややこしくなりそうだからしばらく黙っていて」

「あ、はい。畏まり!」

 助かるわー。

 いらんことを喋ってしまいそうだったから。いや、既にたくさん言っているような気もするが。俺は指摘通りに黙っていることにした。

 マスク装着!

 そんな俺を井ノ瀬さんは不思議そうに見ている。

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