第四章4
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エントランスの壁面にあるテンキーに数字を入力する。程なくして、横のスライドドアが音もなく開く。部屋は七階だ。エレベーターを使うべきなのは分かっているが、今は疲れたい気分だった。学校を中抜けしてきた為、元気が有り余っているのかもしれない。いや、そうじゃない。気分が悪いのだ。気分が悪い時は動くに限る。一段飛ばしで階段を駆け上がる。三階まで上がったところで、見知らぬ誰かとすれ違う。無視。マンションの良い点は挨拶しなくて良いところだ。田舎ってのは、なんでこう、同調圧力が強いのだろう。うちの周辺なんかは、どうしても家がブロック毎に固まっている為、その周辺での仲間意識みたいなのが特に強い。朝は挨拶。学校から帰ってきても挨拶。挙げ句、話し込む。日々、その繰り返し。
その点、集合住宅は良い。みんな知らない。誰も知らない。
中三の……いつだったか……ここに来るまでは知らなかった。そんなこと知るのはもっと先だと思っていたのに。コミュニティとか社会とか。そういう差異は。
独り立ちとか。大学生とか社会人とか。そのくらい先のことで。
家に帰りたい。
家族に会いたい。
みんなと話したい。
「はっ……はっ……」
角を曲がって折り返す。七階まで後十三段。口元が蒸れる。息が苦しい。気持ち悪い。早くこれを外してしまいたい衝動に駆られる。だけど外すわけにはいかない。
ゆっくりと、一歩一歩確かめるように歩を進め、七階まで到着する。
七〇四号室。四と九は縁起が悪いから部屋番号だと飛ばされやすいと聞く。オーナーの考え方次第だそうだ。馬鹿らしい。このマンションのオーナーはそういう噂に流されない合理的な考えの持ち主だということだ。一度話してみたい。
カードキーを差し込む。ピッ、と音がして扉が開く音。玄関で靴を脱いで、鞄を玄関脇に放り投げ、ダイニングに入り、マスクを外し、リビングへ。
広すぎる部屋。
高校生の一人暮らしには勿体ないくらいの間取り。
「だけど、こ~こが今の俺の城~。は~あ~。ただいま~。もう聞いてよ~」
仲間たちが出迎えてくれる。
だから俺は、なんとかやっていけてる。
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