第四章3

 ん。って。貸してくれんの? へー。知らない漫画家だ。三冊? これ、何巻まであんの? ふーん。お前、これもしかしてまーた一番良いとこで止めてるだろー。止めろよなー。そういういじわるー。

 これ、どこで読んでんの? 教室? いや、教えてくれたら乗り込んでって続き無理矢理読ませてもらおうかと思って。だあって、俺、まだバイト代入ってないし。一ヶ月悶々としろってことでしょ? まあ、俺が嵌るの前提だけど。お前に借りた漫画で面白くなかったのって今までないじゃん? つーか前に疎遠になった時だって俺あの貸してもらってた漫画一番いいところで返しちゃってそれで関係終了じゃん!? もーあれよ。どうせだったらお前んとこ行ってそれ全部読み終わってから改めて仲違いしようかって真剣に悩んでたくらいで――。

 ……はいはい。良子ね。良子。

 ……懐かしいよなー。こういうの。

 中二くらいまでは一緒に帰ってたじゃん? 非行に明け暮れる少女に付き合わせられる俺。いいえ。家出は立派な非行です。帰宅後速攻シャワー浴びて、食料だけ家からかっぱらい、その後帰らず神社の境内に度々侵入して布団を持ち込み寝泊まり……。

 ……今、考えると結構やべーことしてんな。若いってこえー。

 そうそう。めっちゃ怒鳴られた! わー! 神主さんきたー! って、思ったのに、佐伯のおっさん。確かそん時、「こんな地方の神社に神主なんか常駐してねーわ。俺らが管理してんだ。勝手に出入りすんな。問題起こすな。通報しといたぞ」とかなんとか。俺、アレ微妙にショックでなー。違う違う。神社ってのはどこでも神主さんがいるもんだと思ってたのに。なんだよ。佐伯のおっさんが管理してんのかよって。そっち。

 親共々平謝り。

 へ!? あそこ潰れたの!? あの駄菓子屋。うーわ、ショックー。おま……良子、ひたすらあのやたらすっぱいぶどうガムとよっちゃんイカと酢だこさんばっか食ってるから、お前、妊娠中かよって俺がツッコんで。したら絵里がツボって大爆笑。

 いって。いて。ごめ。ごめ。

 ……そうだな。あのくらいから俺と絵里が仲良くなってって、付き合うことになって、良子とはだんだん距離置くようになったのに……。

 絵里として、その後、良子にも……。

 ……それであんなんになって。

 おかしくなったのはその頃かな。

 前から兆候はあったけど。

 正直、俺、よくわかんねーんだわ。どうして、絵里と良子が今更二人して俺の目の前に現れたのかってことだよ。酷いこと言うかもしれないけど、お互いあのままフェードアウト、自然消滅、時の流れに身を任せ、後は全部忘れる――で、良かったじゃん?

 躑躅ヶ谷さんの件なんて、それこそ本人が直接言えって話じゃんか。

 本人から聞いてないの? そう。電話横で聞いてただろ? あの子、バイトバックレたんだよ。時間まで来ないあの子を心配してバイト先から電話したら今日休みますってたった一言。それだけ。

 その皺寄せが俺に来たの。

 俺、悪いか?

 もう一度言うよ。俺、悪い?

 躑躅ヶ谷さんだって、あの日、人手が足りてないのは分かってただろーに……あの日休んだら、結果的に俺に連絡が行くなんて分かりそーなもんだったのにさー。

 もちろん一人バイトに休まれたくらいで、そんなんになる仕事なんて、仕事としてどうかと思うよ? けど、綺麗事ばかりも言ってられないじゃん。結果的にそうなってんだから。

 俺は今、火金。躑躅ヶ谷さんが辞めたら水もたぶん入るかな……。家事もあるからあんまり増やしたくねーんだけど……。

 お前が入る?

 だからあ! 何でそういう話になるんだよ!

 ちげーよ! ぶっちゃけ躑躅ヶ谷さんの件はどうでもいいの! だってそうだろ! 辞めますって一言言えばいいんだから。それか、そんなに俺がイヤなんだったら、バイト先に言って曜日ズラしてもらうとかすればいいじゃん! 躑躅ヶ谷さんが俺みたいなの苦手だっつーんなら、もう今後、一切関わらないようにするよ! それは本人に直接伝えてもらっていい。

 ああ、男が苦手? 喋るのが? あー……そういえば……そりゃ悪かった。

 うん。そこは謝っといて。

 うん。ああ、そうだね。話しちゃっていい……いややっぱそれは止めて。

 ただ、一言。人に迷惑掛けるのは良くない。言えた義理じゃないけど、伝えといて。

 ……で。ええっと。なんだっけ?

 そうだ。なんで、頑張ってこの学校入っちゃったんだよ。うちの中学からの進学なんてほとんどいねーだろーなーって高括ってたのに。

 私立だぜ、ここ。

 ……割といるし。……良子も含めて。勉強頑張るのはいいことだけどさ。そう。上から目線だよ。けど――今はおんなじってわけだ。

 罪滅ぼしって――滅ぼされるのは俺の方な気がするんですが。滅ぼすも何もあれで終わりで良かったじゃん。

 俺の方がわかんねーよ。俺のこと、まだ好きなの? え?

 いてえな。泣くなよ。本当、昔から見た目に似合わず一番泣き虫だよな。だからあ、俺にデリカシーとかそういうの求めてんじゃないよ。

 だけど残念でした。俺、今彼女いるんだ。

 なんだよ。お前も詩衣奈も! 時間の問題って!

 わかんねーだろ! そんなこと!

 帰る! 漫画は……借りるよ! また読んで返すよ!

 質問止めろ! そうだよ! まだあそこに住んでますよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る