第四章2

 もしもーし?

 詩衣奈さんでいらっしゃいますでしょうかー? あのー、わたくし、そちらの高校に在籍しており、現在も通っております、あなたのクラスメイトでもあり、――はい。ふざけてます。すいません。

 実はですね……この度、わたくし、停学もとい、一週間の自宅謹慎処分を言い渡された次第でございますです。

 …………はい。そうなんです。またなんです。また停学です。

 怒んないで怒んないで怒んないで。ごめん、ごめんって。マジで。マジで。

 はい。またです。またなんです。また問題起こしました。

 いやもうこれ俺のせいじゃねーって言うか、停学の原因は俺だけど、発端は俺じゃねーっていうか。聞いてくれる? ああーん? この場合の発端って誰になるんだ? 春うららさんじゃね? 俺悪い?

 うん。もう家に帰ってるところ。

 酷くねー? せめて今日一日くらい――これが普通なの? へえ。どうでもいいや。

 経緯っつーか、なんつーか。聞いてよ。あのね? 良子と絵里からいきなし昼休み呼び出し喰らったの。本当、今更なにって感じだったんだけど……お前、あの時どこ行ってたの? トイレ? ふうん。

 ああそうそう。聞いてよ。良子のあの馬鹿、呼び出した場所どこだと思う? 生徒用の下駄箱。あっこ、職員室の真ん前じゃん? いってえな。ごめん。こっちの話。

 そう。そこで言い合い。喧嘩。俺が躑躅ヶ谷さんに付き纏ってるとかなんとか因縁付けてきてそれ止めろって。同じクラスで友達なんだって。泣きつかれたとか。

 そう。守護まお愛読家の。うん。読んでる時にちょっと話し掛けた。

 つっても休憩被っちゃったから、ちょっと時間繋ぎのつもりで喋っただけなのに。学校でなんてすれ違う時に、ちらっと話しかけただけだし。挨拶じゃん、あんなの。ねえ。

 なんか話、食い違ってない?

 んん? 違うよ。言ったじゃん。

 別人だよ。別人。

 バイト先が一緒なのは躑躅ヶ谷うららさん。

 お昼休み、旧校舎でいつも会っていたのは井ノ瀬未無生さん。

 躑躅ヶ谷さんは五組でしょ。それで一緒のクラスの良子と絵里と仲良くなったんだと思う。へ? 聞いてない? いや、言ったじゃん。話したじゃん。

 起きたこと、ちゃんと時系列通りに話したでしょ。却ってわかりにくかったかなあ。俺の話し方が悪かった? そんな話し方してたっけ。ごめん。気をつける。

 そう。で。付き纏ってないし、正直、躑躅ヶ谷さんにはいきなりバイト欠勤されてて、それで俺、バイト先から同じ学校だし事情訊いてきてって言われてたの。このまま辞めるにしても手続きは必要だし、第一、俺の負担が増える。それは困る。羽伊奈と会う時間が減る。

 ああ見えてもっと会いたがってるかもしれないでしょ!

 ツンデレなの! たぶん! きっと!

 でも良子と絵里からすれば、そんな事情まで聞いてないか、例え聞いてても当事者じゃないわけだから、さしたる問題でもないわけでしょ? それで言い合い――っていうよりは、良子が一方的にどついて来たわけなんだけど――になったの。その時、俺も咄嗟に防ごうとして、間に入った絵里に腕が当たって、絵里はバランス崩してズッコケて手ぇ摺り向いて怪我して眼鏡落としてレンズが割れて……って具合。そうそう。相変わらずのドン臭さ。なんだって、この御時世にガラスレンズのメガネなんてしてんだっつー。

 そこへ生徒指導教員がやって来る! ずんずんずん! あ、ビートルズのパロディ、分かった? はいすんません話進めます。

 江藤香子先生。きつめの美人の。知ってる?

 なにを言ったって――……言わなきゃ駄目? ……うん。

「碇ゲンドウみたいなポースっすね。おばさん。知ってます? エヴァ? ちょうどテレビアニメ版、世代だったりしません?」

「先生何歳ですか? 結婚してます?」

「今まで何人くらいと付き合ったんですか?」

「そんなんだからその歳で結婚できないんじゃないですか」

「だって先生結構美人じゃないですか。絶対、普通にしてたらモテるのに。損してます。損。学校の教職員の中から声掛けられた人とかいないんですか?」

「先生の昔の写真とかないんすかー。制服着てるのがいいですー」

「なんなら俺からお願いしたいくらいで!」

「あ。赤くなった」

「お主も初心よのお。あはは。もしかして処女だったり? あははうっそうっそ」

 …………以上です。

 いや、あのね? 言い訳を聞いて? 事情聴取だったの。とにかく双方から全ての事情聞くまで帰れまテン! 状態。喋るしかなかったの。

 あー七組の担任? へー。じゃあ、絵里を怪我させたことへの憤りってやつかな。反対? 俺の入学を? ……最後まで……反対してたの……へー……。

 あ~。

 そりゃそりゃ。まあ、伝わってるとは思ってたけど、入学に反対してましたって事、改めて人の口から言われるとショックでかいねー。この学校の生徒なのに。けっこう頑張って入ったのに。そこの学校の先生から入るべきじゃない人間って思われてたのね――……はあ~あ~。

 ……マジで? そりゃあ、怒るわ。逆鱗に触れたわけだ。

 ……フェミニストって、ねえ。

 つーか個人の考えなんてそれぞれだと思うけど、そういう思想? 的なモノを抱えた人間が学校の指導教員の立場に立ってるってどうなの? 割と問題なんじゃね? 個人の思想にたいしてとやかく言えないのは分かってるけどさー。

 単純にセクハラ? そいつぁごもっともで。まるで言い返せませんですわ。

 切る前に一つ頼まれごと。

 このこと、羽伊奈に一応伝えといて。苦手かもしんないけど。

 むしろ好き? 嘘つけ。んにゃ。まーお前だったらそれも自然なのかな? 俺と同じく。まあいいや。うん。じゃ。大人しくしとく。よろしく。

 はあ……。


 で? お前さっきから、何で付いてきてんの?


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