第三章2

 はーいなさーん!

 お昼ご飯、一緒しませんかー?

 ……そんな冷めた目で見なくてもいいじゃない。

 藤堂さんと? あんたも好きねえ。ああ、ごめん、行かないで! たまには俺と一緒に食べてくれたっていいじゃん!

 怒ってないよ!

 あ……それ言われると何も言い返せないものがあります。はい。わたくしめが悪うございました。彼女ほったらかして他の女といちゃこらしてたのはわたくしです。ええ。でもあっさり許可だしてくれた羽伊奈さん側にも非はあると思う次第でございます。……ところでいちゃこらって単語、どうしても頭にいちゃこらセックスって単語が思い浮かんで来るんだけど、わたくしだけかしら? ああっ! 殴らないで! グーはやめて! 蹴りならいいとかそういう問題でもないから!

 どういう風の吹き回しってリアルに言ってくる奴はじめて見たよ。

 ずっと気になってたんだけど、羽伊奈のその口調、素なの? おばあちゃんから感染った? うわ。割と普通の理由。今までてっきり遅れてきた中二病かと。

 おう。人を怒らせる天才とは俺のことだ。

 ……いいの? サンキューゴッデス!

 それじゃ、失礼して……。ていうかおばあちゃん何歳よ? 大正の人? すげーね。よく生きてるね。お嬢様学校? はあ~。大正ってそういうの本当にあったんだ~。

 ああ~。意外とおばあちゃん子な羽伊奈かわいい……。

 照れ顔マジ尊い。

 さて食うぞ。

 いただきま……それ弁当? でっけー。栄養が全部胸に……言われ慣れてる?

 これ? 雑? いーんだよ、男の料理――しかも朝なんて適当な冷凍食品と昨日の残りにどうしてもなっちゃうの! でも大変なんだぜ? その日の朝のことまで考えながら夕飯作んの。カレーが楽ちんだし、カレーでいいかなあって思っても、次の日の朝のこと考えると、やっぱ次の日休みの金曜までカレーは取っておこうってなったりな。教室でカレーの匂い充満させるのもちょっとねえ、って感じじゃん? めんどくせーけど肉じゃがでもやるかーってね。まあ肉じゃが弁当も飽きてきたんだけどね。これで二日目だし。とにかく大量に作るのよ。そんで、冷蔵庫に突っ込んで、それでどこまで乗り切れるかチャレンジ一年生。

 あれ? 言ってなかったっけ?

 うん。そう。俺、一人暮らし。

 普通のマンション。でも割りかし広いかも? 2DKって言うの? こっから十五分くらいだね。って、これこの前言わなかったっけ? 実家? ああ、実家はマンションから歩いて二十分。中学は東第一。

 近いねー。ここから。

 ああ、この光景……胸をおかずにメシを食ってるような気分……。

 はよ食え? はっ! そうだ。忘れてた。ちょっとまってて……。

 ……! ……!

 ……! ……!

 んぐっ……んぐっ……ぷはあっ! あ~~~死ぬかと思ったあ。

 え? ああ、いやあ、実は人と一緒にメシ食うの苦手なの忘れてて……。生き急いでますからな。ゆっくり食うってのができないのだ。わっはっは。

 その可哀想な人を見る目やめて!

 さてと。食い終わったことだし、メシ食べてる羽伊奈でもゆっくり眺めてるか。

 痛いって! 脛は反則!

 んあ? ああ、ごめん忘れてた。

 本当は話したくないっつーか、話しちゃいけないんだろうけど、羽伊奈だから話す。

 実はね。昨日、女の子泣かせたの。

 何もしてねえ! いやなんかはしたんだけど! そういうんじゃなくって!

 ……とりあえず食べながらでいいから聞いて。俺、勝手に喋ってるから。

 えっと――。


 ――と、いうわけなんです。

 ところで、これ全く関係ない話なんだけど、すぐ泣く女は地雷だって言うじゃん? 実際のところどうなの? やっぱり? あ~~~羽伊奈嫌いそうだね~。なんかもうすぐ相手の意図見抜いて口撃してきそう。

「あなたのその演技、わたくしに通用すると思って? わたくしが真実を暴いて差し上げますわ」とかなんとか言ってきそう。椅子座って脚組み直してふんぞり返って扇子持ちながらたいして暑くもないのに自分で自分パタパタ仰いで……ふっ。くくっ。あははっ。やっべ。自分で言っててツボっ――いったあ! 

 すんません。マジすんません。

 ふうん。

 依存してくる女、

 我儘で幼児性が強い女、

 男を操作しようとする女、

 単に涙腺が緩い女、

 ね……うん。覚えとくわ……うん? 最後のも駄目なの? あ~とりあえず狼狽えるかも。どうすりゃいいのかわかんないし。……譲歩ってどういうこと? ああ、なーる。相手に譲歩……それ、操作と意味一緒じゃね? 故意か天然の違いね。なーる。ま、確かに後者の方が厄介そうだな。どっちもどっちか。

 て、ちげーや! 今回の件とは全く関係ないの!

 そう。パッと頭に浮かんだから言ってみただけ。

 初めての作品……頑張って書いただろうに、九割方否定で批評しちゃったんだよ。偉そうにね。そりゃびっくりして泣くでしょう。

 たぶん期待してたのは、ここが良かった、このシーンが良かった、面白かった、また次も読ませて――こんな感じかな? あの旧校舎で二人、そんなのを続けていけば、確かに青春のワンシーンっぽくはあるもんね。創作物事態そんなに読んだことないみたいだったけど、そのくらいは夢想してたんじゃないかな……。

 それなのに、いきなり全否定噛ます俺! 空気最悪!

 は!? いや、下心は無かったんだよ!? ……やっぱあったかもしんないね!? 

 いっだっ! 断れる自信がはあったの!

 ……俺の言ってることどっちにも失礼過ぎね? 向こうが好意を持ってること前提で話進めてるけど。んー。ねーんじゃねー?

 あ、でも知ってる? 男の視線って顔見て胸見て脚見てその繰り返しなの。性的に感じるところ。肌の露出があったらとりあえずそこだけジーッと見てって具合。だから世の男のだいたいが、口では良いこと言って人畜無害装ってるけど、心の中ではかわいい! 美人! やりてえ! 巨乳だ! 貧乳も捨てがたい! パイスラ! 脚! 脚! 脚! 脚! 脚! 脚! 脚! お○んこ! お○んこ見たい! 筋! 筋! 鎖骨! うなじ! 脇! くらいしか考えてないわけよ。脳みそピンク色。マジで。マジで。

 やー。

 表面上は目の前の人との会話に集中力割かれてても、深層心理、本人の気づかないところではみーんなこーんな思考だって。

 絶対そう。

 脚フェチ? そんなはずは……脚って俺そんなに言ってた?

 羽伊奈さんの御御足で遂に俺も脚フェチに目覚めたか……無意識の内に…………あ。胸が駄目なら脚って線も――はい。すんませんした。

 ……何の話でしたっけ?

 そうそう。浮気はしない。その脚に誓って。

 冗談。

 羽伊奈は俺が見た限り、この学校の中だと一番可愛いよ。

 こんな可愛くて口調も素敵で性格も――まだ分かんないところもあるけどさ――良い子を裏切りたくない。そうだよ。人間、こんな短期間で相手のこと全て分かるはず――。

 ふおおおおおおお!?

 なに!? なに突然!? なんでいきなり脚すりすりしてきたの!? ご褒美!? なにこれ飼い主から餌与えられてる飼い犬の気分なんですけど!? もっと頂戴っ!!

 はっ! ちくしょう! どうして俺はこう調子に乗るんだ。このままいっとけば或いは……或いはも何もない? なんだったのこれ? ていうか今の最後、俺の渾身のピーコのモノマネどうだった? 知らない? マジかよ。

 ……だから何の話だっけ?

 うん。そう。ねえ、どうすればいいと思う? 彼女に相談することじゃないと思うけどさ。

 また行ってこいって……それ、マジで言ってるの?

 ……ねえ。ずっと聞きたかったんだけど……羽伊奈って俺のこと好き?

 言ってもらったこと一度もなくない?

 嫌いじゃないよね?

 嫌いにならないよね?

 嫌いにならないでね?

 ……あ、はい。お粗末さまでした。ああ、俺が答えるのも変だね。

 え? 行っちゃうの? 藤堂さんのとこ? あんたも好きねえじゃなくって、え? 質問の答えは? ――行っちゃった。

 ……明日もう一度行ってみるかなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る