第二章4
★
「ってなことがありましてねえ……」
頬を掻き掻き、ここ最近起きたことを全て包み隠さず報告する俺に、詩衣奈はだんだん聞いてる内に苦虫を噛み潰したような顔へと変貌していき、終いには頭を抱え出した。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ほんっとにもうっ!」
ダンッ! と、机が叩かれ、教室にいるみんなが一斉にこちらを向く。万が一にも話の内容が聞こえないように、教室の隅っこで静かーに話していたとはいえ、今のは誰であっても気にするだろう。俺は「なんでもないですよ~あはは~」なんて言いながら適当に誤魔化すが、誰も何も言わない。
普段は落ちついている詩衣奈の剣幕にみんなびびったに違いない。
「あんたねえ! 自分の立場わかってんの?」
「立場も何も無いが……」
「あんたには無くっても私にはあるの!」
どうどうと詩衣奈を抑えるジェスチャー。多少落ち着いたのか改めて息を吐いた。
「深入りすんなってこと」
「声こわ」
落ち着いたのはいいが、声の温度も低くなっている。恐怖を覚える俺。
「あんた分かってんの? これじゃあ中学の時の二の舞、一直線じゃない? 同じこと繰り返してどうすんのって話。自分が何やったのか忘れたの?」
「その節はとんだご迷惑を――」
「やかましい。いちいち茶々入れてくるんじゃない」
「そういうサガだし」
「はあ。なんかお昼からいないなあって思ってたらそういうわけだったのね。てっきり羽伊奈さんとどっかでお昼食べてるのかと思ってたけど」
「羽伊奈さんも誘ったら丁重にお断りかまされましたわ」
「……羽伊奈さんにも今の話言ったの? 全部? 包み隠さず?」
本気? みたいな顔して訊いてくる。
「隠し事は嫌だし」
「ふうん。ま、彼女だもんね。一・応」
「一応って」
「一応よ、一応。正直、羽伊奈さんの狙いが見えないの。話すなとは言わないけど、気をつけた方がいい。つーか、とっくに気づいてそうだし。例え気がついてなくっても、あの子絶対頭良さそうだし、いずれにせよ時間の問題ね。そうなったら何されるか分かったもんじゃないから」
「それ、前も聞いた……。人を疑い過ぎじゃない? みんながみんな、悪人ってわけじゃないよ?」
「あんたが人を信用し過ぎだって言ってるの。というか聞いてないんだけど。なに部屋上げようとしたって。マジで」
吊り上がる眉に眉間の皺に腕組。全身で怒りを表現している。
「揉めるかと……」
「んなにおっぱい揉みたいなら私の揉んどけばいいでしょ」
「マジで勘弁して下さい」
俺は心底嫌な顔をしていたと思う。
「はあ……つーか、その子どうするの? 小説、ちゃんと読んであげるの?」
「当たり前田の助」
「はあ……入学一ヶ月も経ってないのに次から次へと厄介事抱えてきて……彼女いるんならその子に希望持たせるんじゃ――ん」
突然黙りこくって頭上を見上げた詩衣奈。衝動に駆られて頬をつっつく。やわい。もう一回つっつく。やわい。詩衣奈はやかましげに俺の手を振り払う。
さっきまで怒り顔はどこに行ったのか笑顔になっている。
「その小説、私に見して。今すぐ」
「は? そりゃ本人の許可無しに見せるわけに」
「あんたにしか小説書いてること言ってないのに、私にそれ報告した時点でたいして変わらないでしょ。なにも最初っからじっくり読みたいって言ってるわけじゃないから。ここでさらっと確認だけさせて」
「ええー強引ー……んー……了解」
罪悪感が首をもたげたが、詩衣奈の厳しい視線に耐えかね、仕方なしに小説の入ったクリアファイルを鞄から取り出した。詩衣奈が黙って受け取る。
「確認だけど……その子、ほとんど小説読んだことないのよね? 守護まおだけ?」
「うん。元々本好きかと思ってたけど、そうでもないみたい。どっちかって言うと、今どきの子。スマホで時間潰すのが好きな感じの。守護まおはほら、この前アニメやってたでしょ? それ見て面白かったみたいで、気になって原作買ったらどっぷりハマったってパターンだって」
そんな会話をした。
詩衣奈は俺が言ってることを聞いているのかいないのか、小説を読み始めた。顔は笑ったままだ。
「なに考えてるんだか……。ああ、見られたら嫌だなあ。早く済ませてくれよー」
キョロキョロとしだした俺の頭に、詩衣奈が渡した紙束をぽんっ、と乗せる。もう読み終わったらしい。五分も経っていない。俺はそそくさと紙束を鞄に仕舞いながら言う。
「いくらなんでも、早くね?」
「言ったでしょ。確認したかっただけだって。うん! 確認してみたけど、これなら問題ないわ。じっくり読んで、存分に感想を伝えてきなさい。くれぐれも、忖度して適当な感想言わないであげなさいね? わかった?」
詩衣奈は満足そうにそう言うと「あはは」と、笑った。
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