第二章3

 ――あ。ばいばーい。

 うん?

 彼女と一緒に帰ってるのに他の女にデレデレすんなって? 拗ねんなって。手を振っただけじゃん。

 え? そんなこと言ってない? ごめん。言ってみたかっただけ。

 あの子? バイト先一緒なんだよねー。

 そりゃあ同じ学年だから見たことくらいはあるだろうさ。

 避けられてないって! シャイなんだよ。あの子。

 してますー! おっぱいの為にバイトしてますー! 先週からはじめましたー!

 ソフト?

 それがな……あるんだよ。十八禁じゃなくて。CERO Cだから十五禁なんだけどさ。違う違う。ギャルゲーじゃなくてRPG。イベントの一つに主人公がすっ転んでヒロインに覆い被さるシーンがあるんだよ。もちろん、エロいシーンとは描かれてないよ? それやっちゃうとレーティング上がっちゃうかもでしょ? 俺、出来ないじゃん。そう。傍からゲーム画面だけ見てると、ただ、主人公がすっ転んだだけなんだよ。……けどさ、考えてみ? プレイヤーはほら、感触が伝わるグローブ付けてるじゃん? そうなんです! 主人公が覆い被さった時、ちょっと手の平がおっぱいに触れちゃってるんです! マジ! 感触再現してくれてるっぽいんだよ! それがもうネット上ですっごい話題になっててさあ! もうユーチューブの実況動画とかでそのシーンだけバンバン再生数上がりまくりで――。

 そ、それだけって。

 それだけですが、なにか!?




 おーっとお!?

 あっぶな。大丈夫? 怪我ない?

 ここの上段、結構重たいの入ってるから気をつけなね。

 そこに脚立あるし。ていうか、重かったら言ってって言ったじゃん――って。行っちゃった……。

 ははーん。これが俗に言う好き避けってやつだな?

 さあて。調子こいてないで仕事しよう!

 あ。お疲れ様でーす! いやあ、今日もここ蒸し暑いっすねえ。

 社長! そろそろ倉庫にエアコン導入してもいいと思うんすよねえ――。




 へ?

 隣に歩いてた子?

 ……あー見てたの? 帰り?

 あ~彼女。杜若羽伊奈ちゃん。うん。隠すもんでもないし。

 いや? 先週から。うーん。元から知り合いってわけでもないんだよねえ。ぶっちゃけ何で付き合ってくれたのか俺が一番分かってないっていう。ワロス。

 好きだよ!

 ……ごめん、嘘。本当は好きかどうかわかんないかも。

 おっぱい凄いじゃん? 引かないで引かないで。もうね。正直に話すけど。あのおっぱい揉みたいなってのが二番目の理由。本人は絶対揉ませねーって言い張ってるんだけど。あはは。そうそう身持ちめっちゃ固いの。鋼。いや、それを言うならあずきバーか? ごめんこっちの話。うん。キスどころか手繋ぐことすら許してくれないの。結婚するまで無理だって。えーって感じよー。

 一番はねー。俺、この学校入る前に高校デビュー的なこと狙ってて、もうとにかく可愛い子と付き合いたいなと思ってたの。それで真っ先にアタック掛けたのがあの子で。まあ、おんなじクラスだしね。席隣だし。とっつきにくいからむしろライバル少ないかなって思って。あはは。ひでー理由。

 オーケーはもらったけど未だに不安かな……。何でだろって。今は良いけど、この先も続くのかなって……。ああ……、とっつきにくいけど、仲良くなる奴とは仲良くなるし、ああも綺麗だとさ……。他に、俺みたいに話す男子が出て来ないとも限らないし。

 そいつが俺より魅力的だったらどうしようっていう。ね? こういうの考えたことあるでしょ? ない?

 そんなことよりさー。守護まおの白銀先生のデビュー作って読んでる? 読んでないの? だったら――って……そんな話したくない? えー?

 ああ、うん。確かに話の変え方強引だったか。

 他? 他にもクラス回ったよ? 可愛い子なら誰でも良かったってわけじゃなくって。何人かいた中でも、愛想の良い子は無理かなってなんとなく考えてたね。

 藤堂不妃、井ノ瀬未無生、躑躅ヶ谷うらら、白石聖子、宇堂ミサキ、羅々恋鈴。

 そうそう。可愛いなって思ってたよ。ってか、この前言ったじゃん。ここ来るのずっと見てたって。

 可愛いよ。

 ぎゅって腕を体にまわす仕草とか、上目遣いで見てくるところとか、こっちの話に身乗り出して真剣に聞いてくれてるところとかさ。

 抱きしめたくなるくらい。

 男子と話すの苦手なんだっけ? でも、今ラノベ好きって多いよ? 話してみれば案外こうやって打ち解けられるんじゃないかな。話したくない? 俺以外と?

 ……返答に困るねえ。

 あ。

 なんか凄いこと口走ってたけど、忘れてくれると……。

 いや、嘘じゃなくて本音だけど。

 ……予鈴だ。

 ごめんまた明日来るね。




 うーい。予定通り来ましたー。

 へ? ライン?

 あー……ごめん。ガラケーなの。今どき珍しいよね。ライン出来るガラケーもあるの? んにゃ。俺のガラケー大分古いやつだから無理だね。

 いやあ、実はメールの機能も切ってるんだよね……通話のみってやつ。そんなこと出来るのって? 出来る出来る。ネットするにもメールするのも一応オプション加入が必要なのね? 三百円くらいなんだけどさ。入ってないのよ。

 通話だけだったら出来る。まあ、緊急連絡用に持ってるだけ、みたいな感じ。アドレス帳だってほとんど家族だけだよ。羽伊奈すらないし。

 嫌なわけじゃないけど……。こうやって時々ここで話すだけじゃ駄目なの? まあ、話し相手が出来るのは嬉しいけど……。

 うーん。じゃ、はい。これ、俺の番号。




 ……もしもーし?

 はい?

 バイトのヘルプ?

 今日? 今からですか?

 ええー……。はい。はい。わかりました。もー。めっちゃ給料上乗せしといて下さいね。

 ごめん。なんかバイトのヘルプ入ったから家行くのまた今度でいい? 今度っつーか明日でもいい? って、明日は駄目だっけ?

 じゃあ来週の月曜でもいい? ていうか大変すいません。今までバイト週二だったけどこれから週三、四くらいに増えるかも。

 機嫌直して下さいよー羽伊奈さーん。

 はあ……今日は抱けると思ったのに…………って、いったあ!? ごめんってごめん!!




 最早第二の家感あるよ、ここ。

 ただいまーとか言いたくなるもん。分かる? でしょ?

 じゃあちょっと待ってて。お昼食べちゃうから。

 ……! ……!

 ……! ……!

 むぐむぐ。……んぐっ。……んぐっ。ぷはあっ! あ~ありがと。ていうか美味しいね、これ。手作り? もしかしなくてもはちみつレモン水? うはー。スポーツ漫画で女子マネが持ってくる定番のやーつ! 分かってますなー! いや、マジ美味い。ありがと。

 味噌汁も? なにこれ新婚さんごっこ?

 ……。

 ごちそう様でした。大変美味しゅうございました。うん。また食べたいでござい。

 ……今日いつもより静かだね。どうしたの?

 ……なにこれ。これ全部コピー用紙?

 読んでってこと? んー?

 あ――これ、もしかして小説? あー……まじかあ……。

 へ? いやいやいやいや!? 読んでみたい読んでみたい!! けど、俺なんかにいいの? 俺だから? そっか。はい。真剣に読ませてもらいます。感想はまた後日ね。

 それにしてもそっかあ。小説家になる夢、ね。

 最近? 書き始めたの? そう。ラノベ以外にも小説読むの? ふうん。守護まおだけしか読んだことないの? 他は? 一切? へー! それでこれだけ書こうと思えるのも凄い! 元々漫画映画好きってわけでもなく? ちょっと? それで一作書いたのかあ。すげーな。あ、馬鹿にしてるわけじゃないよ。

 これジャンルは? ラノベ? 女の子同士……百合ってこと? んー、ちょいパラ読みした感じ、これ、エロ入ってる? マジ? まーたニッチなところ突くねえ。あはは。好み好み。んーん?


 エッチな女の子が嫌いな男の子なんて、この世の中どこ探してもいないと思うよ?

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