第二章2
ふんふーん♪ うおっ。
お邪魔しましたー……。
あ。ごめん。ここでお昼食べようと思って。まさか誰かいるとは思わなくて。いや、だってこんな場所に……。
え? いいの? んー。じゃ、ちょっと待ってて。すぐ食べるから。
……! ……!
……! ……!
ごふっ! む? むいん? ……んぐっ……んぐっ……ぷはあっ。あ~~~死ぬかと思ったああああああ~。水、ありがと。そんな急いで食わなくても、ってねえ。
実は人に食べるところ、見られてるの駄目でさ……。
ああああっ違う違う! 謝んないで! あるじゃん? 知られたくないこととか。癖とか。性癖とか。苦手な物とか。……って、性癖は関係ねえや。
だから――って……それでこんなところに、って意味で合ってる?
うん。そう。
流石に特別棟の、しかももう使われていない、旧校舎にまで来る一年生が俺の他にいるなんて思わないじゃん? しかもこの時期よ? もし上級生が根城にしてても、「迷っちゃいましたー。てへぺろ!」とでも言っておけば、まあどうにかなるだろって思ってたのに。
まー私立の進学校だし、そんな不良もいねえだろって高を括ってたのはあるけどさ。
そーそー。滑り悪いけど一階の西側にある窓、無理矢理こじ開けてそっから入ったのよ。トイレの隣。
え? ああ、あそこ入れたんだ……次からはそっち使おうかな。サンクス。
うん。二階まで全部見て回ったけど、ここ以外汚くってさあ。椅子とか机も全部片付けられてたね。
たぶんこの教室、ずっと俺たちみたいな奴が勝手に出入りして使ってたんだろうなあ。
ここだけやけに綺麗だし。
今の在校生は使ってないのかな? 誰か来んの? 会ったことはない……ってことは、授業中か。サボりに使ってんのかな? まあ、サボるのには最適の場所だしね。本当だ。ペットボトルにクッション、それから菓子ゴミ……じゃねえや。これ中身入ってるな。しかも湿気ってない。……戻しときましょ。そうしましょ。
ていうかさ。もしかしなくても、入学してから結構早い段階でここ出入りしてた? やっぱそうだよね! いやー実は、休み時間、変な方向に一人向かってる可愛い子発見! あれ? あの子見たことあるぞ? って前々から気づいてたの。
口説いてるわけじゃないからね! 跡付けてきたわけでもないからね! ここ来たのは全くの偶然! そう! 可愛いって思ってるのはホント。……そう? 俺以外にも可愛いって思ってる人絶対にいると思うよ? こんな面と向かって言われたことない? あはは。
そりゃそっか……。
俺?
いやあ。教室にずっといるのも気張って疲れるでしょ? だから俺、中学とかでも誰もいない自分だけの居場所とか空間よく探してたんだよねー。保健室とかはもう絶対既に誰かたむろしてるでしょ。作り物でよく見る屋上なんてまず入れるわけないし、漫画やラノベなんかでぼっちの生息地として、階段の隅っことかよく描かれるけど、俺、まず誰かが来そうって雰囲気だけで落ち着けないし。階段なんてその筆頭。トイレなんて以ての外!
分かる? だよねー。人が来るかもって可能性があるだけで落ち着けないっていうかさ。
いやいやこう見えて結構苦手なのよ。
人。マジ無理。
見えない?
あはは……。
……ここで何してたの?
あー。守護まお最新刊ね。買ったんだ。
読んでるよ? うん。一巻からずっと買ってるんだ。当たり前じゃん。俺、著者のデビュー作から追ってる生粋のファンですから。どやあ。
ねー! やっぱり二巻が傑作だよねー! ここ最近もいいけどさあ。前巻で盛り返した感あるけど、やっぱ二巻には敵わないよねー! ただあれ超えるのを書けるのはなかなか難しいと思いつつ、期待しちゃってる俺がいる。この作者なら出来るはずって! 分かる? 分かりみ? み? み?
アニメから入った口? へー。まあ、アニメもなかなか良かったね。最終話は俺ちょっと納得いってないんだけどねー。演出がねえ。作画は良かったのに。
うはは。
あ――もしかして最新刊読んでる最中だった!?
うわー! ごめん! ごめん! すーぐ退散するから!
駄目! むりむりむりむり! 俺、一緒にここいたら絶対ネタバレ喋っちゃいそうだもん! だからすぐ行く退散する!
……え? また?
そりゃあいいけど……むしろこっちが訊きたいよ。いいの? また来て? えーっと、それ、もう一回話したいって意味で合ってる?
いちいち訊くなってか。みなまで言うなってか。あはははは。こりゃまた失礼。よく言われやす。
はは……でも、そう言ってくれるなら。
また、ね。
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