第一章2
★
「ふっうーーーーーーーーーん」
羽伊奈の席で頬杖付いてこちらに向いて座る若紫詩衣奈(わかむらさきしいな)が、眉で八の字を作って口をへの字に曲げている。
心の底から納得いってませんってのが雰囲気で伝わる。
「不満? はっ! もしかして嫉妬か?」
「馬鹿。不満っていうか……、あんたみたいなのがどうしてって感じ。私や礼二ならともかくね。ま、付き合ってまだ一週間も経ってないんでしょ? そのうち向こうから振られるのは分かってるけどね。私が意外なのは、羽伊奈さんってあんたみたいなタイプ、むしろ嫌ってそうじゃない? やっぱり注意しといた方がいいわ」
礼二。中学の時の親友だ。詩衣奈とも知らない仲じゃない。
あの頃の、数少ない、最後まで俺の味方をしてくれた友達。
「なんでそんなことが分かるんだよ。詩衣奈だって、羽伊奈と出会ってまだ二週間だろ? 同じクラスだけど、口を交わすことさえ今のところ無いじゃないか。それで羽伊奈のこと分かったような口を効くのは傲慢ってもんだろ」
「私が言いたいのは――」
詩衣奈は頬杖を解き、俺を睨めつけた。
「時間の問題ってことよ。あんたは羽伊奈さんが女子相手だと社交的だって思ってるかもしんないけど、男子とそう変わらない。気に入った相手となら羽伊奈さんは仲良くなるけれど、気に入らない相手とはとことん相容れない。自分で言っててわかるでしょ? はあーあ。ま、今は入学して間もないからあんたのことに羽伊奈さんも気づいていないんでしょうけど――」
そこで俺は詩衣奈を遮って言う。
「分かってる分かってる。俺とお前だけじゃないもんな。うちの中学から上がってきてる奴。幸い、このクラスにはいねーけどさ。他のクラスにはいらっしゃいますし。つったって、向こうだってもう俺のことには気づいていそうな……って、んなわきゃねえかー。いやでも待てよ中学の奴らと接点があったらほら絵里とかと話してるとこだって俺見たことあるし。あれそもそも絵里って俺んこと知ってるんだったっけってむぐぐぐぐぐ」
詩衣奈が俺を無理やり黙らせて言う。
「例え気づいていたとしても――時間の問題ってことよ」
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