7話「放課後も一緒」
お昼からは、テストが行われた。
国語、数学、英語の3科目で、入学するまでに事前課題がどれだけ出来ているか、調べるものである。
どっちにしても課題は提出しないといけないので、一通り解いている問題しかない。
普通に課題を自力でやっていれば、解けない問題は殆ど無い。
数学の応用問題や、国語の記述問題ぐらいでしか、差が出ないだろうなと感じた。
そのテストが終わると、今日1日がやっと終わる。
「ふぅ……」
テスト以外大したことはしていないが、想定していなかった事態が立て続けに起きて、かなり疲れた。
早く帰って、休みたいところ。
「学級委員長君〜? 今日、見学どうよ?」
「中原さん!? えっと……」
帰ろうとした時、中原さんから部活の見学に来ないのかと、声をかけられた。
今日は見学に行く気が全く無かったのと、苦手な雰囲気がある中原さんに声をかけられて、戸惑ってしまう。
「また、別の日に見学に行かせてもらうよ」
「ふぅん、そっか。じゃあまた今度おいでね〜」
俺の適当なその場しのぎの言葉に、中原さんはあっさりと納得した。
そしてそのまま俺に手を振りながら、部活へと向かっていった。
「あっさりした感じなのか……? それならすごく助かるけど」
見た目の雰囲気から、「何でこんなに言ってるのに来ないのか!」と言いそうなイメージでいたが、そうでもないらしい。
良い言い方をすれば、そこまで無理して引き込もうとはしないということだろう。
悪い言い方をすれば、俺に全然興味がないということだろうな。
顧問があれこれ言ってるから、一応声は掛けておかないといけないというくらい話。
「ノルマみたいに毎日声掛けさせるのも、悪いような気がするな……」
中原さんにとって、面倒な仕事が一つ増えている状態。
俺が見学に行けば、いちいち声掛けをするということをしなくて済む。
いくら苦手なタイプの人とはいえ、こちらを気にしてくれている相手に、迷惑を掛けるわけにはいかない。
早めに行く日を決めて、見学だけはしないといけないか。
「取り敢えず、今日のところは撤収しよう……」
慣れない環境で朝から夕方までは、想像以上に疲れてしまう。
平日が厳しいなら、土曜日の午前に練習を少し覗かせてもらうとか、考えた方がいいかもしれない。
相変わらず勧誘者が多い校庭を抜けて、駅までの道のりを歩む。
電車に乗り込むと、市街地が終点なのをいい事に爆睡してしまった。
電車から降りて、バス停へと歩みを進める。
「あ、奥寺君」
「あ、姫野さん。お疲れ様」
先に姫野さんが、ベンチに腰掛けてバスの到着を待っていた。
「お疲れ様。今日は色々と大変だったね」
「ほんと。いきなり、学級委員長やれとか言われるし」
「私は何となくそうなのかなって構えてたけど、奥寺君は分かんないよね」
「うん。それに生徒指導の先生には呼び出されて、注目を集めたし……」
「あれ、何だったの? 周りも何事ってざわついてたよ?」
「聞いて驚かないでよ? 部活の勧誘」
「ええー……。それであの時に呼び出し?」
「まぁ待つだけで何もしてない時間だったから、別にいいんだけど……。とにかくびっくりするよね」
「それで部活、入るの?」
「いや、入らない……。俺より強い人、他のクラスに何人もいるし。姫野さんは部活、どうするの?」
「んー、入らない可能性が高いかなぁ。興味ある部活、無いし……。とにかくマネージャーの誘いが多いね。即断ってるけど」
マネージャーの誘いが多いのは、大体予想通り。
そもそも、姫野さんだからという誘いたいというところもあるだろうが、どこの部活もマネージャーがあんまりいないようだ。
どこも女子マネージャーを欲しているのが、勧誘チラシを見ればよく分かる。
「勧誘されるのも、なかなかにしんどいね。うまく穏便に、話を終わらせる方法が無い」
「奥寺君の場合、相手が先生だもんね。なかなかはっきり拒否とか出来ないよね」
「色々と話を聞かされて、聞かないわけにもいかないから、大変だったわ……」
そんな今日あった話などをしていると、あっという間に降りる駅に着いた。
降車ボタンを押して、二人揃ってバスから降りる。
「今日も公園に行くの?」
「そのつもりだよ」
「じゃあ、私もついていってもいい?」
「もちろんいいよ」
昨日に引き続き、姫野さんと一緒に運動公園へと足を運んだ。
夕方の運動公園は全く人が居らず、遊具も貸し切り状態である。
背負っていたリュックを芝生の上において、高鉄棒に掴まって懸垂を行う。
一方、姫野さんは俺が使っている高鉄棒の横にあるブランコに座って、ゆっくりと揺られている。
「本格的にトレーニングしてる……」
「体育の授業やクラスマッチで、バカにされない程度の体力とかは付けておきたい……!」
「運動は出来る方なんだっけ?」
「微妙なとこだね。センスが無いのは確実」
雑談を続けながら、懸垂をひたすら行う。
と言っても、長い時間やることは出来ないので、ある程度の回数をこなした後、姫野さんが座っている横のブランコに俺も座った。
「テストどうだった?」
「んー、何か課題してればほとんど出来るって感じの内容だったような気がする」
「うんうん。これは、ミスがあるかないかの勝負になってきそう!」
「後は、記述問題の部分点だな」
「だね。あ、今回勝ったらお願いしたい事、見つかったんだけど言ってもいい?」
「うん」
「……放課後、こうして奥寺君と一緒に運動公園で過ごしてもいい?」
姫野さんはちょっと言いにくそうにしながら、今回お願いしたいことを言ってきた。
「……別にテストで勝たなくても、姫野さんが良いなら、一緒にいてくれていいよ?」
「え、いいの?」
「うん。話する相手いる方が楽しいし」
「い、いいんだ……」
「何故ダメだと思われた?」
「え、だって邪魔になるかなって……」
「なるわけない! むしろ、一人でこんなことをしてたら、不審者みたいに思われるから、姫野さんがいてくれたら助かるよ」
「ま、まぁ確かに知らない人がここで懸垂してたら、ちょっとビックリするかもね」
「それに、ここでキャッチボールとか二人で出来ることして遊んでもいいし」
姫野さんがいてくれるのは、俺からしても嬉しい。
話し相手が居てくれると楽しいし、不審者として疑われにくくなる。
それに、女の子が放課後に一緒に居たいと言われて、嫌な男なんてなかなか居ない。
……それも、びっくりするくらい可愛さが増した姫野さんなら尚更。
こればかりは恥ずかしいし、幻滅されそうなので言葉にはしなかったが。
「じゃ、じゃあこれからの放課後は、ここで一緒に居せてもらうね……」
「おう、同地区帰宅部クラブ結成といきますか」
「うん!」
俺の言葉に、姫野さんは笑顔で頷いてくれた。
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