1話「まさかの再会」
電車を降りると、暖かい気候に花粉で霞んだ空気。
花粉症の俺からすれば、とても残酷な季節。
鼻がくすぐったい感覚を感じながら、今日から通うことになる高校へと足を運ぶ。
「入学おめでとうございます。お名前は?」
「奥寺将暉です」
「えっと、1年2組ですね。そこの校舎に入って、目の前にある階段を上ってすぐですよ」
「ありがとうございます」
案内された通り、階段を上るとすぐに教室が見えて1-2と標記された教室がある。
手渡されたものを確認して、自分の名前と出席番号を確かめながら、着席する席を探す流れ。
教室に入ると教員がすでにいるが、生徒たちはそれぞれ集まって話をしたり、リラックス雰囲気が流れている。
「おはようございます。自分の席を確認しておいてもらえますか?」
教師に促されて、自分の席を確認して荷物を机に下ろす。
「うぇーい、将暉」
「おお、蓮人。同じクラスか!」
「同じだな。1年生だけでこんなにクラス多いのに、一緒になれるとはな。一番話せるお前がいて、安心だ」
「お前なら、すぐに誰とだって仲良くなれるだろ」
将暉に声をかけてきたのは、同じ中学に通っていた峰岸蓮人で、中学の頃から仲良くしてもらっている。
おそらくは、この高校に進学して来た同じ中学のメンツの中で、一番仲がいい。
ちなみにイケメンであり、見た目に関しては結構チャラい。
蓮人に彼女がいなかったタイミングあったことは、記憶にない。
俺にあんまりそういう話をしないが、見ている感じだと、定期的に彼女が変わっている。
それだけ聞くとゲスいやつみたいに聞こえるが、普通に優しいし、俺にすごく気を遣ってくれる。
あとサッカーがうまくて、部活に真っ直ぐなのも蓮人の良いところ。
あと、正直なところ蓮人が付き合うような女の子は、俺にとって苦手だなぁと感じるような子が多いのも、メンタル的に安定する理由だったりもする。
蓮人と話をしていると、チャイムが鳴って教室にいる生徒たちが一斉に自分の席につく。
担任教師から、この後の入学式の流れなどについての説明が行われた。
そしてそのまま体育館に移動して、事前に用意されたパイプ椅子に腰掛けて式が始まるのを待った。
生徒は1クラスあたり40人で、8クラスある。
300人を超える生徒が、きれい並べられたパイプ椅子座っていると、なかなかの光景。
こう見ると、蓮人と同じクラスになれたのは、なかなかに運が良かったというのは頷ける。
入学式が始まると、校長先生の挨拶やら来賓のくっそ長い話を、睡魔と戦いながらやり過ごす。
やり過ごすというよりも、ウトウトしていて話が終わって周りのみんながお辞儀をしていたら、慌てて合わせるような形であるが。
『新入生代表挨拶。新入生代表、姫野美優紀』
「はい」
来賓の長い話のゾーンが終わり、次のプログラムに入った。
入学生代表が、全入学性を代表してスピーチを行う。
「あの子が代表?」
「めちゃくちゃ可愛くない?」
変わらずウトウトしていた俺は、周りの生徒がざわつく声で顔を上げた。
名前を呼ばれて前に出てきた少女は、肩にかかるくらいの長さのダークブラウンの髪をキレイに整えている。
身長は低めで華奢な雰囲気だが、制服越しでもスタイルの良さがよく分かる。
そしてスラッとした姿勢の良さが、よりスタイルの良さを感じさせる。
(入学生代表ってことは、あいつが入試の成績がトップだったってことか)
式での挨拶などは、その時の最も成績が良かった人が依頼されることが多い。
特に入学生で、学校生活を見る事ができていない高校側からすれば、判断出来るのは成績しかないだろうしな。
そんなことを思っていると、挨拶は締めの部分にまで進んでいた。
「新入生代表、姫野美優紀」
(……? どこかで聞いたことがあるような)
先程はウトウトしていて、名前を聞き逃していたが、挨拶の最後に名前を聞いた時、どこかで聞いたことのあるような名前に思えた。
ただ同じ中学だったのなら、どんなに接点が無くても3年間も過ごしていれば、名前を聞いて同じ中学だったかぐらいの検討はつく。
それでもピンと来ないということは、同じ中学のやつではないということだ。
(特に珍しい名前でもないし、どこかで聞いた事が頭の片隅に残ってるのかな)
どこかで見たことがあるような、聞いたことがあるようなということは、意外と外れる事もある。
挨拶を終えた少女は、そのまま先程まで座っていたであろう椅子に腰掛けた。
(って同じクラスだったんか……)
座ったのは、俺のクラスが固められている場所の椅子であった。
出来るやつが同じクラスにいるのだなぁと思いつつ、その後の入学式をぼーっと乗り切る。
入学式が終わると、高校初日はそこで終了。
簡易的なHRで教師からこれから頑張っていこうという言葉を最後に解散となった。
大半の生徒達は、入学式に参加した親御さんとともに帰宅する。
「将暉、家まで送っていくけど?」
「別にいいよ。近くの公園へ寄り道してから帰りたいし」
「一人で生活ちゃんと出来てる? 食べるもの食べてる?」
「大丈夫だって」
俺はこの高校に入学するにあたって、一人暮らしを始めた。
ただ、父親と母親もこの入学式に参加しているため、そのアパートまで送ってもらった方が早い。
しかし、飯に連れて行かれたり面倒なので、断ってそのまま別れた。
校舎から校庭に出ると、新入生を自分の部活に引き込もうとする上級生が待ち構えている。
取り敢えずチラシだけは受け取って、そのまま高校を出て、電車の駅へと向かう。
この高校に登校するには、バスと電車両方を使う必要がある。
自転車で通う、という手が無いわけではないが、相当な距離であることと、交通量が多くて危ないということもあって、公共交通機関を使いなさいという話になった。
電車に揺られて30分。この地域の中心街に到着。
そこから自分が今一人で生活しているアパート方面に向かうバスへと、乗り換える。
「あと10分くらいで来るか」
時刻表を確認してから、近くにあるベンチに腰掛けてスマホを弄りながら、時間を潰していた時だった。
「奥寺……君?」
「え?」
後ろから自分の名前を呼ばれ、思わず振り返った。
そこには今日、印象に残ったあの少女が少し驚いたように立っていた。
「姫野……さん?」
「うん、そうだよ……」
何だかんだ周りがざわつく位印象的だったので、かろうじて名前を覚えていた。
反応を見て、名前が間違っていなかったことにホッとした。
というか、何故に俺の名前を知っているのか。
「何で俺の名前を知っているの?」
「え、えっと……」
俺が名前をなぜ知っているのか尋ねると、姫野さんは少しだけ表情を曇らせた。
入学式の時は遠目にしか見えていなかったが、こうして見ると容姿がとても整っている。
そんな容姿で少し複雑そうな顔をされると、こちらがすごく悪いことをしているように感じた。
「覚えて……ない?」
「えっと……」
覚えていないかと問われ、どういうことか更に分からなくなった。
どこかで会ったことがある、ということか。
「3年前、中学受験に対応した塾で一緒だったんだけど……」
「!」
3年前に塾に通っていた事。その事を知っている。
そのことを聞いた瞬間、真っ先に思い出した事が頭の中で映像化される。
「もしかして、俺に好きって言ってくれた……?」
「思い出した? 久しぶり」
俺が記憶を辿って出した答えに、彼女は嬉しそうに笑った。
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