夫婦・心の旅路

第7話 妊 娠

　その様な事が有っても私達は １LＫの風呂無しの部屋で新婚生活を開始して、三年後にやっと彼の子供を身籠る事が出来たのです。

　何もかもが順調でしたわ！お腹の子もスクスク育っていくのが分かって、私も彼も仕事に張りが出て毎日が楽しかったわぁ！でも・・・・彼の赤ちゃんを私は産む事が出来ませんでした。

　高橋さんだいぶお腹が目だってきたねぇ！悪阻（つわり）大丈夫かい？

　由紀ちゃん本当だよ、悪阻が苦して買い物が出来ないようだったら電話頂戴、家のが野菜でも肉でも纒て配達してやるから、遠慮しなくて良いよ。

　おうぅそうだぞ、お得意さんには優しくしなくちゃいけねぇからなガハハハ！ちゃんと届けてやっから遠慮するなよ。皆、持ちつ持たれつだよ。

　有難うございます。本当に皆さん優しんですから、私涙が出ちゃいそう。

　なぁに言ってんの、ここら辺の若い夫婦は皆二人で頑張ってる人が多いんだよ、だから応援してあげなくちゃいけんぇんだよ。一人じゃないんだって事をさ。

　月日が流れていく度にお腹が膨らんできては悪阻に悩まされていた私でしたがこの言葉は凄く嬉しかった。

　彼は何も出来ないくせに彼なりに私の身体を労わって、洗濯をしてくれたり部屋を片付けてくれたり・・・でもなぜか料理はしてくれませんでしたね。

　でも其れは彼なりの思いやりだったの、だって悪阻で臭いが強いのが食べられないからと言って月に一～二回でしたが大塚まで歩いて行ってお寿司屋さんに連れて行ってくれたんです。

　明治通りを渡って其処ら元癌研究所が有った通りを下り、小さな公園を過ぎて二人で手を繋いでユックリとゆっくりと歩いて途中からＹ字路に別れている所鰻屋さんの香りに吊られて右側に足を進めていくとちょっと大きなお寿司屋さんが有るんです。

　ちょっと高そうな感じ・・・・でも彼の調べではリーズナブルと言う事でしたが、だって家を買う為に無駄使いはあまりしたくなかったんですから。

　でもその時は彼のその気持ちが嬉しかったんですよ、多分部長から聞いたんでしょうね妊婦の口に優しいものは何が食べられるかなどを、きっと其れは奥様が望んでいたのだと思います。

　えぇっ、らっしゃい。お二人さん此方へどうぞ！当店は初めてですね。

　あらっ、どうして分かるんですか？私聞きたいわぁ。

　まぁまぁ由紀ちゃん、板前さんってお客さんの顔を直ぐに覚えてしまうような特技が有るんだよ。そうですよね、板さん。

　アッハハハそうなんですよ、確かにお客様の顔を覚える事は見習の時から徹底的に仕込まれるんで・・・・特に仲の良いご夫婦は直ぐに覚えられますんで、所謂（いわゆる）リピート客になって貰えるよう頑張らなきゃって気に我々もなるって事です。

　さすがプロですねぇ、実はうちの家内がチョッと食事で困って自家の会社の上司に相談したら寿司屋でも連れて行けって言われまして、其れで滝野川近くから歩いてきたんですよ。

　私の運動不足を兼ねて来たんですよウフフだから今日は特別な日なんですから、それに私このような所に入るの初めてなんです、アッいけないこの様な所ではなくお店にでした、ゴメンなさい。だから今日は楽しみにしてきたんです。

　そうですか！特別な日・・・・成る程、お客さんもしかしてですがお腹に赤ちゃんが出来たんですか？其れで当店を、有難うございます。其れとおめでとう御座います。

　ほらね、さっき話した通りだろ、板前さんは直ぐに分かるんだよ。今日はそういう訳で予算は二人で一万円以内で、其れとビールを１本だけお願いします。

　分かりました、こっちもそれなら勉強させて頂きますんで、嫌いなものなど有りましたら教えて頂ければ、またこれが食べたいと云うものが有れば遠慮なく仰ってください握らせて頂きます。

　・・・・・・・・

　お寿司屋さんで食事を堪能してからゆっくりと来た道を戻り、途中明治通りを右に曲がり大正大学手前の信号を渡り滝野川市場商店街に向かって帰りました。

　滝野川市場商店街は昔からあるそうですが、其々のお店が軒を並べてお肉屋さんからお魚屋さん、八百屋さん、お総菜屋さん、そして練り物屋さんなどが並んでいて安くて美味しいんです。

　私達の部屋は商店街を下った通りを過ぎて更にもう一本の通りの反対に有るのですが、この通りが板橋区と豊島区の境なんです。

　私はこの市場商店街が大好きで、お総菜屋さんや練り物屋さん、八百屋さんなどとはよく話をするようになって、前を通ると何時も声を掛けてくれる程になっていました。

　美味しかったわね、あのお寿司屋さん。其れに面白かったぁ（（笑））最後に「目のぱっちりした赤ちゃんが産まれますように」って鮑を出してくれたわね。あれ美味しかったぁ、有難う、パァパ！

　パパはまだ早いよハハハ・・・マァマ、これからも宜しくね！そして元気な赤ちゃんを産んでくれよ。