第22話 オーバーフロー3
「ボスは他の魔物と格が違う。頭から真っ二つにしろ。脚を落としたくらいじゃ死なないからな」
マスターに念を押され剣を構える。
こっちをむいたボスの虎……【
「ほら、ビビらんの。俺が合図したら降り下ろすんよ」
イーリスに腕を持ち上げられ上段の構えをとらさせる。優しい声で語りかけられてか安心してきた。
「よし。いつでもいけるな。シラソルは右から、オルテは左から回り込んで奴をおびき寄せろ。フロレスと奴の間には入らないように。一緒に切られても文句は言えないからな」
ああ、と応えるオルテと頷くシラソル。
ここ数時間で分かったがシラソルは無口だ。
「俺とイーリスはフロレスを守る。周りのことは気にするな」
「せや、俺らに任せ」
「作戦開始っ」
マスターの掛け声でオルテ、シラソルが奴のもとへ駆け出す。奴も頭を下げ臨戦体勢をとる。二十メーターも先にいる奴は今にも飛びついてきそうだ。
先に仕掛けたのはオルテ。奴の横っ腹に斬りかかる。オルテの刃が通ることはなく弾かれる。……おかしくない? 毛皮に刃が通らないってそんなことある?
「普通あんなもんよ。でも森の木ぃ程は堅うないから安心し。フロレスに斬れんなんてことはない」
動揺を察されたのかイーリスが声をかけてくれる。
先の一撃で奴の
オルテに振り下ろされる奴の爪。横に跳んで逃げるオルテ。無惨に切り裂かれるオルテの後ろに在った木々。
「威力おかしくない? 当たってたらオルテ死んじゃわない?」
「死ぬ。魔の森の木を傷つけるなんてオーバーフローのボスか、ドラゴンか、聖獣か……神くらいにしかできない芸当だ」
マスターの言葉の裏に俺への皮肉が混じっている気がするな。
再び振り上げられた奴の左脚。しかし今回は木が切り裂かれることはなかった。奴の左脚にシラソルが殴りかかったのだ。
シラソルがオルテに何か言うとこっちに走ってきた。もちろん奴は二人を追っている。奴との距離はまだ遠い。全力で振っても刃は当たらない。
「マスター、二時の方っ。なんかくるで」
森に響くイーリスの声。気の影から現れた何かに剣を振るうマスター。
マスターの斬撃は何かに当たることなく、反対にマスターの腹から血が溢れる。
「こっちは気にするな。イーリスはフロレスの横にいろ」
それだけ言い残しマスターは何かと共に森の奥に去っていった。
「フロレス、焦らんでな。焦ってヘマしたら全滅や。マスターのことは気にせんでいい。まだや。まだ。……今や、散れっ」
オルテ、シラソルが離脱しようとするのを確認し腕を振り下ろす。
真っ直ぐに放たれた斬撃は奴を頭から二つに切り裂く。これでカーペットにはできなくなったな。とにかく奴は絶命したことを確認し納刀。
手筈通りボスの【
「フロレス、剣はそのままにし。マスター探すで」
ボスを倒し喜ぶも束の間、マスターが去った方に進む。
幸いにも、いや、わざとだろう。地面が一筋に抉られていてどっちに行ったのか明白だ。
森を進むことしばらく、窪地にでる。半径二メーター程の円形の窪。魔の森にあるには不自然だ。
「マスターっ」
オルテが駆け出す。よく見るとその先に人が転がっていてその下は紅く染まっている。
「何があった? 無理なら話さなくていい」
「俺にも分からねえ。見たこともない生き物だった。とにかく当初の目的は達した。引き上げろ」
「了解。聞いたな? 帰るぞ」
シラソルの号令で俺らは森から戻ることになった。
……何故こうなった?
今、俺はマスターと二人きりだ。レオンもいるにはいるが寝ているからいないも同然。
イーリス達が事態収束の宣言をしに出ていったからこんなことになっているのだ。本来ならマスターの仕事なのだが怪我が酷いためシラソルが名代だ。
「あの……大丈夫?」
「怪我のことか? しばらく動けんだろうが大丈夫。命に関わるほどでもない。あのクレーターを作った攻撃で俺を仕留めたと勘違いしてくれたのが幸いだった。あのまま戦い続けていたら死んでたろうがな」
「追わなくてもよかったの?」
「追っても死人が出るだけだ。大事になったらその時考える。フロレス、今のお前ではあれには勝てんだろうよ」
「そんなに強かったの?」
「それもあるがすばしっこかった。お前の攻撃がいくら鋭かろうが当たらねば意味はない。まあゆっくり鍛えてもらえ」
「うん」
俺の質問に答えきるとマスターは眠りについた。
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区切りが悪いので今回は短めです。ごめんなさい。
次回は4月8日金曜日午後6時です。
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