第20話 オーバーフロー

 目を覚ましてから三日後、ついに街の外壁が見えてきた。

 やっと家に帰れるようだ。帰ったら風呂にしよう。


「お前ら、何か変だと思うことはなかったか?」

いつもより少し低い声でオルテに問われる。なにか気になることがあったんだろう。


 レオンはわかんない、と首を傾げる。

「俺もかな。違和感は感じてない。……けど何か思うところがあるんだろう?」

「ああ、出発する時、何台くらいの馬車が出ていた?」


「かなり沢山、十台以上はあったと思う」

「そうだな。そして帰り道、一回でも馬車とすれ違ったか?」

しばらく考えてから首を振る。


 ……なるほど。ここ数日、一日に何台も馬車が出るのに一台もすれ違った馬車はなかった。街から馬車が出る道は三本しかない。しかも今、通っている道が一番使われやすい。つまり、馬車が街から出られない状況だってことか。


「おそらくだが、オーバーフローが起きてる」

「オーバーフローって?」

初めて聞く単語だ。字面からは全く想像がつかないな。


「ったく。まず東の魔の森がフィールド型ダンジョンってやつなんだよな。ダンジョンの説明は省くぞ。後でイーリスにでも聞きな。んで、ダンジョンの魔力が時々……数年に一度爆発的に高まる。するとダンジョン内の魔物が力を高めて溢れ出す」


「街が強くなった魔物に襲われているってこと?」

「ああ、帰ったら即、準備を整えて加勢する、いいな」

「ああ」


 気になることはいっぱいあるけどひとまず追加の仕事をこなそう。風呂に入るのはお預けかな。




 閑散とした街を抜けて東の門に向かう。オルテは切り株事件の時と同じくフル装備だ。


「遅くなった。どこが不味い?」

ギルドに着くやいなや指示を仰ぐオルテ。


 オーバーフローの時は強制依頼が出される。つまり冒険者は迎撃に全員参加する義務があり、ギルドの指示で動かなければならない。


 主に低級冒険者は伝令や治療、物資調達なんかの後方支援に回されるらしい。有志の街の人もだ。俺は戦闘に参加されられるけどね。


 そんなわけでオルテと押され気味の左翼先端に到着。

「おらぁ、こっから巻き返すぞ」

辺りに響くオルテの声。それにつられて、おー、と応える冒険者たち。

 流石はBランク冒険者、士気が一気に上がった。


「レオン、俺らもいくよ。〈解放リリース〉、〈雷纏サンダーエンク〉」

鞘を抜き魔物の懐に潜り込む。そして首を落とす。やはり、魔物は動きが単純で戦いやすい。


 ちなみに〈雷纏サンダーエンク〉はオルテに勧められた魔法だ。これを上手く使えば即座に移動できるようになる。受けが上達するまでは攻撃される前に倒してしまえってことだ。


「おいっ、フロレス。あんまり突っ込むなって言っただろ」

いきなりオルテに首の根っこを掴まれる。


「ごめんごめん、ちょっと気分上がってた」

移動中に長期戦になるからペース考えろって言われてたのに。賊の時のストレスのせいだ。


 下手に森の奥に行かなくても魔物は絶えず湧いてくるからな。これもオーバーフローの効果なんだとか。


 とにかく攻めすぎは良くない。亡骸の回収班がの動きやすさから見ても手前のほうで殺した方がいい。


 その回収班は低級冒険者たちで結成されている。死骸が転がっていると足元が悪くなるので彼らの存在は大切だ。戦闘班が戦いに集中できるようになるし、報酬の元になる。


 だが低級なだけあって正直彼らは弱い。まあ、俺が言えたことじゃないけどね。俺が強いのは他でもなく聖剣レオンのお陰だ。


 ともかく、回収班が前線に出なくてすむように後ろの方まで引きつけて殺せ、とのことだ。


 なお、俺は引きつけるなんて上手いことできないのがオルテに気づかれ取りこぼし兼回収班護衛担当にされた。しかしまあ意外に仕事が多い。結構みんな取りこぼす。


 しかも守備範囲が広い。


 さっきから右往左往を繰り返している。仕方ないよな、取りこぼし兼回収班護衛担当が俺だけなんだから。


 二十名弱いる一団の取りこぼしを一人で処理するのは大変。しかも回収班も五名くらいいるのだ。……分身できたらな。


「レオン、魔法っていける? 間合いまで走るのキツいんだよね。アロー系で頭を抜いていこう。火にしようかな」

『いいよ』

「ぎりぎり一撃で倒せるくらいね。俺が腕を伸ばした魔物を狙う」

『わかった』


 そんなわけで納刀。

 まず右側の魔法を目がけて矢を放つ。


 ……端的にいうと結果は失敗。いや、魔物は弾けたんだけどね。木を……三本程抉り倒しました。

 この森で聞けるはずない木の倒れる音が響き渡る。


 音に反応して味方が皆んなこっちを見る。うう……視線が痛い。皆んな凍りついてしまった。呆れた顔をしたオルテを除いて。


 凍りついたせいで隙が生じている。

「できればもう少し加減してくれっ」

視界の中の全ての魔物を目がけて矢を放つ。俺のせいで窮地に追いやられたんだから尻拭いだ。


 結果は全射皆中。全員無事。しかし威力はさっきのままだ。よって味方の意識はさらに遠くに。魔力もごっそり持っていかれた。

「おらぁ、てめえら。細けえことは気にすんな。目の前の戦いに集中しろ」


 オルテの怒号で一同は復活。


「レオン、もう少し威力下げよう。今の半分くらいがいいかな」

『やってみる』


 移行錯誤の末、丁度いい威力を見つけた時には辺りに倒木が三十本程転がっていた。

 

 後で怒られるやつだよな……。

 

 


____________________


 次回は4月1日金曜日午後6時です

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