第19話 起床後は焼肉

 眼を開くと陽光が真上から入ってきた。眩しい。思わず眼を閉じる。


 地面に横になっていた身体を起こす。

「やっと起きたか。起きてすぐで悪いが水くれ」

横に座っていたオルテが早く早く、と手を伸ばしてくる。


 マジックバックから水筒を取り出してオルテに手渡す。これでもかと水を飲むオルテ。瞬く間に水筒は空になった。


「あのさ、俺どのくらい寝てた?」

賊と戦ったときは午前だった。陽の位置を見るに今は正午くらい。数時間って可能性もあるし数日って可能性もあるな。


「一日ちょっとだな。結構大変だったんだぜ? 荷物は全部預けてるから水も飯も摂れてねえし、テントも張れねえ」

「勝手に引っこ抜けばよかったのに」

聖剣と違ってマジックバックに触れた者を弾く力はない。


「試したけど駄目だった。バックの中を覗き込んでも真っ黒だし、手を突っ込んでも何もなかった」

なんとも哀れだな。そんなわけでオルテは一日ちょっと飲まず食わずだったみたい。


 マジックバックに頼りきるのもよくないのかもだな。俺一人の分はいいけど人の荷物まで全部持つのは不味い。


 バックに入れた物の重さは感じなくなるからなんの苦もないってことで荷物は俺が全部持っていたのが裏目に出た。加減が大事だな。


「そういえばレオンは?」

「ああ、お前がぶっ倒れた瞬間に元に戻った。お陰で大変だったぜ」

「それで今はどこにいるの?」


 ここだ、と言ってオルテは自分の膝の上を指差す。なんと、レオンはオルテの上で爆睡中だ。


 この一日で仲良くなれたのかな。何はともあれレオンの人見知りがましになったなら気絶した甲斐があったってもんだ。


「随分慣れたね」

「ああ、重くて仕方ない。まあいいか。とりあえず飯にしてくれ」


 そんなオルテの要望に応えるべくバックから豚肉を取り出す。クローヴァさんからもらったものだ。帰ってから皆んなで食べようと思っていたけど今食べてしまおう。


 なんせ一日ぶりの食事だ。パーっと肉でも食べたい。まな板と包丁を取り出して肉を薄切りにする。


 イメージは焼肉。鍋しかないから焼くのが面倒だけど頑張ろう。

「オルテ、火出して」


 鍋をちょっと浮かして固定したので火にかけてもらう。

 俺も火の魔法は使えるけど火力調整ができるほどでもないからね。俺がやって肉が炭になってはもったいない。


「そういえばさ、お前傷は大丈夫なのか?」

火を出すべく横に座ったオルテに聞かれる。


 そういえば殴られたり斬られたりしたはず。でも全く痛くない。


「ねえ、傷とかある?」

上着を脱いで見せてみる。ちなみに服はところどころ裂けているので斬られたのは間違いない。紅く染まってもいるしね。


「それがないんだよな。ぶっ倒れてすぐに確認したんだけど、その時はもう無傷だった。ほら、手も動かせ」

肉を鍋に並べて、ついでに上着を着替える。下は……後にしようかな。


「かなり斬られてたよね?」

「ああ、間違いない。お前の回復力がおかしい。まあ金の魔力持ちならそんなこともあるだろ」

「……そんなもんなんだ」


 魔力の話なんかをされると意味が分からなくなるからな。それに俺の身体は最高神であるアウルム様の特注品だから普通の人と違うところがあるかもだ。ぼろがでない内に話を変えよう。


「ちょっと戻すけどさ、なんでレオンはオルテに慣れたの? なんかあった?」

肉をひっくり返しつつ聞いてみる。……ひく油ないし、この世界の鍋は碌な加工がされてないから引っ付くな。


「なんかあったってなあ、なんもねえわけねえだろ」

「やっぱり? それで何があったの?」


「お前がぶっ倒れた後レオンもぶっ倒れるだろ。で、俺は手持ちは何もないくせに倒れた奴二人抱えることになるだろ」

「悲惨だね……」


「で、地面に寝かせるのもねえかなって思ったんだかだな、敷くもんもねえからフロレスは諦めた。レオンは俺の膝に置いてたのよ」

「なんかごめん。あっ、これ焼けたから先に食べなよ」


 焼けた肉を皿に置きオルテの方に。オルテは肉を頬張りつつ話を続けてくれる。


「それでなんだが、レオンは目を覚まして俺の顔を見た瞬間、飛び退いたんだよ。で、ぶっ倒れたお前を見つける。起こそうとする。起きない。泣き出すってなった後は大変だったな」

「うわー、目に浮かぶ光景だな」


「で、なだめてたら慣れた。なんでかは知らん。そろそろ起こすぞ」

「うん、頼む」


 オルテがレオンを揺さぶって起こしている間にも俺は肉を焼き続ける。鉄板かフライパン、せめてもっとでかい鍋があれば楽なんだけどな。


 一分も経たずしてレオンがむくっとおきあがる。

「ほら、フロレス起きてるぞ」

「ほんとっ? うわー、よかったあ、しんじゃったかとおもった」

思い切り飛びついてくるレオンを受け止める。


「そう簡単には死なないよ。ほら、レオンも食べな」

皿をもう一枚取り出してレオンに渡す。


 俺が死んだ後、レオンがどうなるかはわからない。だから少なくとも、俺がいなくてもレオンが無事に生きていけるようになるまでは死ぬわけにはいかない。


 そうだ、帰ったらイーリスかオルテに対人戦のやり方を教えてもらおう。





____________________


 次回は3月28日月曜日午後6時です。

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